悪役令嬢? 何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ひよこ1号

文字の大きさ
上 下
154 / 357
連載

誰かに似ている人

しおりを挟む
岸に着いたシルヴァインは、さっさとマリアローゼを抱き上げると、舟から降りて宿へと歩き出す。
ルーナは用意されたクッションを片付けようとして、ギラッファに止められた。

「お前は先に行きなさい。ここは私が片付けさせておく」
「はい。かしこまりました」

手に取ろうとしていたクッションを離し、手荷物だけを抱えてルーナはシルヴァインの後を追った。
そして、最後にしょんぼりとユリアが舟を降りてくる。
後ろに控えていた従僕に指示を与えていたギラッファが、姿勢を正してそんなユリアを迎えた。

「お楽しみ頂けましたか?」
「いえ、はい、まあ……マリアローゼ様は何時もどおり非常に可愛らしかったです。
ところでギラッファさん、貴方誰かに似ているような気がします。顔とかじゃなくて…」

うーん、と眉を顰めて見上げるユリアは、内面や行動力を知らない他人から見れば、十分な美少女だ。
ふわりと緩やかに波打つな亜麻色の髪は肩よりも上でふわふわと風に揺られている。
天色の鮮やかな瞳が何とも温かみのある明るさを印象づけ、喜怒哀楽を表す表情は見ていて飽きない。

「あー分かりました!あの人に似てるんだ、あのやなやつ」
「やなやつ」

あまりの言い様に、思わず笑顔のままギラッファは復唱した。
その言葉にユリアはうんうん、と頷く。

「私の上官なんですけどね、冷静で動じないけど穏やかで、何か完璧っぽい感じの人です」
「お褒めに預かり、光栄でございます」
「いや、褒めてないです、やなやつなんで」

どうすればいいというのか。

ギラッファは、それでも完璧な笑顔を浮かべたまま、背筋を伸ばして立っている。

「ですが、今仰っていたのは褒め言葉のように存じますが」
「まあ、確かに…?嫌なところがないっていう嫌な所がありますけどね…あっもう行かないと、では!」

遠くなるマリアローゼを追いかけて、ギラッファに疑問を植えつけたまま、ユリアは嵐の様に走り去っていく。
その姿を見送りながら、ギラッファはふむ、と頷いた。

ユリアが走ってシルヴァインの背に追い着くと、カンナもいつの間にか合流していた。

「ユリアさんの荷物、預かっておきましたよ」
「カンナさんありがとうございます」

などと二人が会話していると、マリアローゼがシルヴァインの肩越しにぴょこりと頭を出した。

「わたくしが頂いたお花は何処にあるのかしら…?」

きょろきょろと休んでいた場所辺りを見回すが、天幕は既に片付けられていた。
ルーナがそんな不安げなマリアローゼを見上げて、返事を返す。

「宿の者に渡して置きましたので、大丈夫です。部屋にございます」
「まあ、ありがとうルーナ」

マリアローゼはルーナに笑顔を向け、安心したようにシルヴァインの肩に凭れかかり…
かけてハッとして顔を離した。

「お兄様、お兄様、わたくしも歩けますわ」

最近とみに抱っこ率が上がっているのである。
色々と不穏な事続きで心配なのは分かるが、体力が落ちてしまうのでマリアローゼは足をぱたぱたと揺らした。
だが、にっこりと不敵な笑顔を浮かべたシルヴァインに少しぎゅっと腕に力を込められてしまえば、
たちまち足すら動かせなくなる。

「湖の傍は石が多いから捻ったら危ないよ。エルノではまたお土産を買いたいんだろう?」

過保護すぎではないのか?
そして、予定を先読みしすぎではないのか?

暗に足を怪我したら、お土産買えなくなるよと言う脅しをかけてきたのである。
マリアローゼは言葉に詰まり、それ以上何も言えなくなってしまった。
まだ兄には全然勝てない幼女なのである。

「仰るとおりですわお兄様。今は大人しく致します」

従順な言葉に反してぷっくり頬を膨らませて抗議する姿勢を見せるが、シルヴァインにとっては可愛い抵抗でしかない。
ユリアにとっては更にご褒美でしかなかった。
しおりを挟む
感想 136

あなたにおすすめの小説

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった

今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。 しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。 それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。 一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。 しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。 加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。 レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。