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湖デートとルーナの罠
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舟の中央部分に敷き布とクッションが置かれていて、ルーナとマリアローゼはそこに乗り込む。
にこやかなシルヴァインは、向かい合うように舟の端に座った。
反対側に、首を捻りながらユリアも乗り込む。
カンナはもっと抱きしめられる位に近くに居たのに、ユリアとの距離は遠い。
しかも、日傘をさされると視線が遮られて、愛しのマリアローゼが見えない。
更に、乗り込むと同時に、ギラッファから櫂を渡されて、舟を押し出されたので、
ユリアはそのまま漕ぎ始めた。
「あれー?何か思ってたのと違うーー?」
湖の縁に沿って舟を進めているユリアを、マリアローゼが気遣う。
「ずっと泳いでいて疲れていますでしょう?わたくしが代わりに漕ぎますわ」
「いえ、駄目です。お嬢様にさせるくらいなら私が…」
差し出した小さな手を、ルーナが優しくきゅっと握った。
白い日傘の下で、手を握り合って見詰め合う美幼女達に、ユリアはうんうんと頷いた。
まさに眼福なのである。
「大丈夫ですよー。ユリアはこう見えてかなり丈夫なので、それに疲れたら休憩して、のんびり一周しますから。何なら3日くらい時間をかけて一周しても良いくらいです」
何も良くはない。
その場にいるユリアを除く全員の心が一致した瞬間であった。
特にシルヴァインはイラァ…とした雰囲気を醸し出していて、笑顔のままユリアを見ている。
「いや、大変だったら交代するよ。どっちにしろ夕刻には叔父上が来るし、叔父上はユリアと似て、泳いででもローゼの側に来る人だからね」
「何それこわい」
今の言葉は自分に対して放ったのと同じになるのでは?
と思いはするが、誰もそこは追及しなかった。
遠く離れた岸では、魚料理を食べる人々がまだお祭り騒ぎを続けている。
それを見ていたルーナは、はっとして手荷物をごそごそし始めた。
マリアローゼは問いかける代わりに、不思議そうにルーナの手元を見詰めている。
「あの、ローゼ様、少しお召し上がりになってください。お腹がすいているかと存じます」
「そういえば、そうですわね。朝に食事をしたきりですもの」
ルーナの勧めに従って、マリアローゼが手渡されたサンドイッチを手に持つと、
ルーナはシルヴァインとユリアにも同じ包みを手渡した。
二人と、最後にルーナが同じ包みを手にしたのを確認してから、マリアローゼは微笑んだ。
「頂きますわね」
ぱくり。もぐもぐ。
口の中に広がったのは濃厚で芳醇なチーズと、噛み応えのあるハムだった。
何時も食べているチーズとの味の違いに、マリアローゼはぱちぱちと目を瞬く。
「この辺りで作られるチーズなのかしら?」
「そのようです」
一旦、膝の上に包みを置いたルーナが、水筒から冷えた紅茶をコップに注ぎ、三人に配った。
「ありがとう、ルーナ。美味しいですわねえ」
「御口に合って良かったです」
ぺろりと平らげたユリアは、立てた両膝に両肘をついて、頬杖を付きながら、楽しそうに食べるマリアローゼを嬉しそうに眺めている。
櫂は舟からはみ出すように横向きに置かれていて、漕ぐ気は無さそうだ。
全員が食べ終わっても、そのままの姿勢を貫いている。
「私も一度は漕いで見たいので、櫂をお借りしてもいいですか?」
「いいですよー」
ユリアから櫂を受け取ったルーナが、舟を漕ぎ始める。
「結構、重いのですね。では、シルヴァイン様、代わって頂いても?」
「ああっ!ちょっと待ってルーナさんっっ」
「ありがとう、ルーナ」
悲痛な叫びと、嬉しそうな返事に挟まれて、ルーナはにっこりと微笑んだ。
本当ならそのままその場から引き返したいシルヴァインだったものの、
約束の為に爆速で湖に沿って一周したのであった。
にこやかなシルヴァインは、向かい合うように舟の端に座った。
反対側に、首を捻りながらユリアも乗り込む。
カンナはもっと抱きしめられる位に近くに居たのに、ユリアとの距離は遠い。
しかも、日傘をさされると視線が遮られて、愛しのマリアローゼが見えない。
更に、乗り込むと同時に、ギラッファから櫂を渡されて、舟を押し出されたので、
ユリアはそのまま漕ぎ始めた。
「あれー?何か思ってたのと違うーー?」
湖の縁に沿って舟を進めているユリアを、マリアローゼが気遣う。
「ずっと泳いでいて疲れていますでしょう?わたくしが代わりに漕ぎますわ」
「いえ、駄目です。お嬢様にさせるくらいなら私が…」
差し出した小さな手を、ルーナが優しくきゅっと握った。
白い日傘の下で、手を握り合って見詰め合う美幼女達に、ユリアはうんうんと頷いた。
まさに眼福なのである。
「大丈夫ですよー。ユリアはこう見えてかなり丈夫なので、それに疲れたら休憩して、のんびり一周しますから。何なら3日くらい時間をかけて一周しても良いくらいです」
何も良くはない。
その場にいるユリアを除く全員の心が一致した瞬間であった。
特にシルヴァインはイラァ…とした雰囲気を醸し出していて、笑顔のままユリアを見ている。
「いや、大変だったら交代するよ。どっちにしろ夕刻には叔父上が来るし、叔父上はユリアと似て、泳いででもローゼの側に来る人だからね」
「何それこわい」
今の言葉は自分に対して放ったのと同じになるのでは?
と思いはするが、誰もそこは追及しなかった。
遠く離れた岸では、魚料理を食べる人々がまだお祭り騒ぎを続けている。
それを見ていたルーナは、はっとして手荷物をごそごそし始めた。
マリアローゼは問いかける代わりに、不思議そうにルーナの手元を見詰めている。
「あの、ローゼ様、少しお召し上がりになってください。お腹がすいているかと存じます」
「そういえば、そうですわね。朝に食事をしたきりですもの」
ルーナの勧めに従って、マリアローゼが手渡されたサンドイッチを手に持つと、
ルーナはシルヴァインとユリアにも同じ包みを手渡した。
二人と、最後にルーナが同じ包みを手にしたのを確認してから、マリアローゼは微笑んだ。
「頂きますわね」
ぱくり。もぐもぐ。
口の中に広がったのは濃厚で芳醇なチーズと、噛み応えのあるハムだった。
何時も食べているチーズとの味の違いに、マリアローゼはぱちぱちと目を瞬く。
「この辺りで作られるチーズなのかしら?」
「そのようです」
一旦、膝の上に包みを置いたルーナが、水筒から冷えた紅茶をコップに注ぎ、三人に配った。
「ありがとう、ルーナ。美味しいですわねえ」
「御口に合って良かったです」
ぺろりと平らげたユリアは、立てた両膝に両肘をついて、頬杖を付きながら、楽しそうに食べるマリアローゼを嬉しそうに眺めている。
櫂は舟からはみ出すように横向きに置かれていて、漕ぐ気は無さそうだ。
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「私も一度は漕いで見たいので、櫂をお借りしてもいいですか?」
「いいですよー」
ユリアから櫂を受け取ったルーナが、舟を漕ぎ始める。
「結構、重いのですね。では、シルヴァイン様、代わって頂いても?」
「ああっ!ちょっと待ってルーナさんっっ」
「ありがとう、ルーナ」
悲痛な叫びと、嬉しそうな返事に挟まれて、ルーナはにっこりと微笑んだ。
本当ならそのままその場から引き返したいシルヴァインだったものの、
約束の為に爆速で湖に沿って一周したのであった。
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