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泳ぎの練習がしたいお嬢様
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三人で凍った魚を見詰めて、それから嬉しそうに笑いあう、そんな平和なひと時を過ごす舟の横に、突然水しぶきが上がった。
「きゃっ!?」
慌てて、カンナは刀に手をやり、シルヴァインも身構えるが、そこにいたのは妖怪、ユリアだった。
「ずるいですよ!カンナさんっ!私もやりたかった!マリアローゼ様の釣りのお手伝い!したかったあ!」
船べりに捕まって、大声で言うと、ゆらゆらと舟を揺らしてくる。
そんなユリアの頭をシルヴァインが引き上げた釣竿でぺしぺし叩いた。
「あっ?痛いです、止めて下さい!」
「え、まさかユリアさん、そんな事言うためだけにここまで泳いできたんじゃないですよね?」
ここはもう岸から大分離れた、湖の中央付近である。
水温も更に下がっていそうな、暗い水の色をしているのだが、ユリアはぶんぶんと首を振った。
「勿論、魚を追ってたんですけど…ちょっと足ひれないと無理なんで、一旦岸に戻って持ってきます」
「えっ、そんなものまで用意されたのですか?」
さすがに驚いて問いかけたマリアローゼに、ユリアはえへへと笑いかけた。
「昨日急遽、職人さんに頼み込んで、作ってもらってたんです。そろそろ出来上がっている頃だと思うので。では、行って来ますね!また後で!」
言うが早いか、ユリアはすごい速度で岸に向かって泳ぎ始めた。
水しぶきを上げながら泳ぎ去るユリアを、一同は呆然と見送る。
「ユリアさんて、泳ぎもすごく上手なのですね。あんなに早く泳げる方がいるなんて…」
「うーん、とても規格外だと思いますよ。流石に私でもあんな速度では泳げません」
片膝立ちで刀の柄に手を置いていたカンナが、座りなおしてマリアローゼの釣竿を用意しながら言うと、マリアローゼはじっとシルヴァインを見た。
「でも、お兄様なら追付けそうですわね」
「追付けるだろうけど、やらないよ。ローゼに何かあれば別だけど、たかだか釣りであんな事は出来ないな」
確かに。
何も無いのにあのテンションで兄が泳ぎ出せば、正気を疑ってしまうだろう、とマリアローゼは頷いた。
そして、ふと傍らを見ると、ルーナはユリアが去った方にまだ視線を向けていた。
「ルーナ?どうか致しまして?」
「……あっ、いいえ。私は泳いだ事がないので、練習をしたいなと思いまして…」
泳げなくてもいいとは思うものの、ルーナの気持を考えるに、シルヴァインの言った言葉が、
心にひっかかったに違いない。
それに、出来るなら何でも学んでおいた方が後々の為には良いのだろう。
マリアローゼは、ルーナにこくり、と頷いた。
「では、王都に戻りましたら、一緒に練習致しましょう」
「えっ、でもお嬢様は練習なさらなくても…」
「いいえ、駄目ですわ。もし、水に落ちたとしたら泳げないと泳げるのでは全然違いますもの。
出来る事が増えるのは、わたくしにとっても助けになりますわ。ね、ルーナ」
にっこりと愛くるしい笑みで正論を言われて、ルーナは控えめに微笑んで頷いた。
出来る事が増えるのが嬉しいのもあるが、純粋にマリアローゼと一緒に何かを出来る時間が持てるのは嬉しい。
ルーナは許可を得るように、シルヴァインを見た。
視線に気付いたシルヴァインも、少し考えて頷いて見せる。
「確かに、その方がいいだろうね。俺から父上に言っておこう」
「ありがとう存じます、お兄様」
嬉しそうに笑顔を向けるマリアローゼに、シルヴァインもにっこりと微笑み返した。
「きゃっ!?」
慌てて、カンナは刀に手をやり、シルヴァインも身構えるが、そこにいたのは妖怪、ユリアだった。
「ずるいですよ!カンナさんっ!私もやりたかった!マリアローゼ様の釣りのお手伝い!したかったあ!」
船べりに捕まって、大声で言うと、ゆらゆらと舟を揺らしてくる。
そんなユリアの頭をシルヴァインが引き上げた釣竿でぺしぺし叩いた。
「あっ?痛いです、止めて下さい!」
「え、まさかユリアさん、そんな事言うためだけにここまで泳いできたんじゃないですよね?」
ここはもう岸から大分離れた、湖の中央付近である。
水温も更に下がっていそうな、暗い水の色をしているのだが、ユリアはぶんぶんと首を振った。
「勿論、魚を追ってたんですけど…ちょっと足ひれないと無理なんで、一旦岸に戻って持ってきます」
「えっ、そんなものまで用意されたのですか?」
さすがに驚いて問いかけたマリアローゼに、ユリアはえへへと笑いかけた。
「昨日急遽、職人さんに頼み込んで、作ってもらってたんです。そろそろ出来上がっている頃だと思うので。では、行って来ますね!また後で!」
言うが早いか、ユリアはすごい速度で岸に向かって泳ぎ始めた。
水しぶきを上げながら泳ぎ去るユリアを、一同は呆然と見送る。
「ユリアさんて、泳ぎもすごく上手なのですね。あんなに早く泳げる方がいるなんて…」
「うーん、とても規格外だと思いますよ。流石に私でもあんな速度では泳げません」
片膝立ちで刀の柄に手を置いていたカンナが、座りなおしてマリアローゼの釣竿を用意しながら言うと、マリアローゼはじっとシルヴァインを見た。
「でも、お兄様なら追付けそうですわね」
「追付けるだろうけど、やらないよ。ローゼに何かあれば別だけど、たかだか釣りであんな事は出来ないな」
確かに。
何も無いのにあのテンションで兄が泳ぎ出せば、正気を疑ってしまうだろう、とマリアローゼは頷いた。
そして、ふと傍らを見ると、ルーナはユリアが去った方にまだ視線を向けていた。
「ルーナ?どうか致しまして?」
「……あっ、いいえ。私は泳いだ事がないので、練習をしたいなと思いまして…」
泳げなくてもいいとは思うものの、ルーナの気持を考えるに、シルヴァインの言った言葉が、
心にひっかかったに違いない。
それに、出来るなら何でも学んでおいた方が後々の為には良いのだろう。
マリアローゼは、ルーナにこくり、と頷いた。
「では、王都に戻りましたら、一緒に練習致しましょう」
「えっ、でもお嬢様は練習なさらなくても…」
「いいえ、駄目ですわ。もし、水に落ちたとしたら泳げないと泳げるのでは全然違いますもの。
出来る事が増えるのは、わたくしにとっても助けになりますわ。ね、ルーナ」
にっこりと愛くるしい笑みで正論を言われて、ルーナは控えめに微笑んで頷いた。
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ルーナは許可を得るように、シルヴァインを見た。
視線に気付いたシルヴァインも、少し考えて頷いて見せる。
「確かに、その方がいいだろうね。俺から父上に言っておこう」
「ありがとう存じます、お兄様」
嬉しそうに笑顔を向けるマリアローゼに、シルヴァインもにっこりと微笑み返した。
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