63 / 319
連載
毒の対処はモザイク入りで
しおりを挟む
「どうぞ」
ノックをしたのはシルヴァインだろう、と予想しながらマリアローゼは応えた。
果たして、シルヴァインが颯爽と部屋に入ってくる。
「無事だな?ローゼ」
確認するようにじっと見て、シルヴァインはほっとしたように微笑を浮かべた。
マリアローゼはそんな兄を見上げながら質問を投げかける。
誰より先に駆けつけそうな人物が、不在だったのだ。
「どこに行ってらしたのですか?」
「知り合いに毒の鑑定と解毒薬の精製を頼んできた」
行動が早い。
確かに毒は持ち込まれているので、解毒薬はあるに越した事はない。
即効性があり、致死性も高そうな毒ではあるが、
リトリーは事前に知っていたから光魔法で毒に対抗できたのだろう。
「で、ローゼは何故大丈夫なのか聞かせてくれ」
「それは事前に、中和する薬を飲んでいたからですわ」
それらしい言い訳をして、澄ました顔でシルヴァインを見るが、笑顔なのに笑っていない。
「俺は本当の事を話しているのに、君は嘘をつくのかい?」
「そ、そんな卑怯な仰い方は、おやめになって」
うう、とマリアローゼは手元にいるロサに目を落とす。
やはり兄からの追及は厳しい。
「……ロサですわ。ロサを口に忍ばせて行きましたの」
「スライムをか」
「ですわ」
完全予想外の答えに、シルヴァインは笑顔のまま固まった。
「乙女のする事ではありませんので、内緒にしたかったのに……」
ぶつぶつ言いながら口を尖らせるマリアローゼに、シルヴァインは声をあげて大声で笑い出した。
天井を仰いで、目には手を当てて。
「ほらね。笑うと思いましたわ」
つん、と唇を尖らせたままマリアローゼはそっぽを向く。
笑いながら、シルヴァインはマリアローゼを見下ろした。
「ロサは平気なのかい?」
「大丈夫ですわ。マリクに毒薬をもらって耐性もつきましたし、その後は色んな薬草を食べさせたので。
それに中和薬を飲んだのは本当ですわ」
もちろん同じ薬をロサにも与えてあった。
全ての毒に有効と言う訳ではないが、少なくとも少しは耐性があがる代物だ。
「分かった。父上には俺から話をしておこう。…で、父上は?」
一瞬、乙女の恥を父上のお耳にまで入れないで、と思ったものの、やはり父にも娘の無事の理由を知る権利はあるし、隠し立ては出来ない。
ほんの少し乙女の矜持が削られるだけだ。
マリアローゼは抗議を諦めて、質問に答えた。
「わたくしのお願い事を叶えて下さる為に、陛下に会いに行きました。
許可が出たらリトリー様と話に行って参ります」
リトリーの名を聞いて、シルヴァインは目を細めて笑顔を消した。
底冷えのするような冷たい声で紡がれる言葉には棘しかない。
「毒殺女に何の用があるんだ?」
「色々とございますけれど、成功するかどうかはわたくしにも分かりませんの」
ふむ、と兄は顎に手を当てて考え込む。
「何となく予想はついた。牢には俺も着いて行こう。勿論彼女の目に入らないところで待つ」
「それならば構いませんわ」
詳しい事情はまだ話したくないので、兄の言葉にマリアローゼはほっとした。
まずはリトリーとの交渉を成功させないとならない。
交渉、というか一方的に条件を飲ませるのは脅迫かもしれないが。
今頃父とモルガナ公爵が行っている事と同じだ。
こちらは断られても失うものは何も無い。
ただ、少しばかり良心が痛むだけだ。
ノックをしたのはシルヴァインだろう、と予想しながらマリアローゼは応えた。
果たして、シルヴァインが颯爽と部屋に入ってくる。
「無事だな?ローゼ」
確認するようにじっと見て、シルヴァインはほっとしたように微笑を浮かべた。
マリアローゼはそんな兄を見上げながら質問を投げかける。
誰より先に駆けつけそうな人物が、不在だったのだ。
「どこに行ってらしたのですか?」
「知り合いに毒の鑑定と解毒薬の精製を頼んできた」
行動が早い。
確かに毒は持ち込まれているので、解毒薬はあるに越した事はない。
即効性があり、致死性も高そうな毒ではあるが、
リトリーは事前に知っていたから光魔法で毒に対抗できたのだろう。
「で、ローゼは何故大丈夫なのか聞かせてくれ」
「それは事前に、中和する薬を飲んでいたからですわ」
それらしい言い訳をして、澄ました顔でシルヴァインを見るが、笑顔なのに笑っていない。
「俺は本当の事を話しているのに、君は嘘をつくのかい?」
「そ、そんな卑怯な仰い方は、おやめになって」
うう、とマリアローゼは手元にいるロサに目を落とす。
やはり兄からの追及は厳しい。
「……ロサですわ。ロサを口に忍ばせて行きましたの」
「スライムをか」
「ですわ」
完全予想外の答えに、シルヴァインは笑顔のまま固まった。
「乙女のする事ではありませんので、内緒にしたかったのに……」
ぶつぶつ言いながら口を尖らせるマリアローゼに、シルヴァインは声をあげて大声で笑い出した。
天井を仰いで、目には手を当てて。
「ほらね。笑うと思いましたわ」
つん、と唇を尖らせたままマリアローゼはそっぽを向く。
笑いながら、シルヴァインはマリアローゼを見下ろした。
「ロサは平気なのかい?」
「大丈夫ですわ。マリクに毒薬をもらって耐性もつきましたし、その後は色んな薬草を食べさせたので。
それに中和薬を飲んだのは本当ですわ」
もちろん同じ薬をロサにも与えてあった。
全ての毒に有効と言う訳ではないが、少なくとも少しは耐性があがる代物だ。
「分かった。父上には俺から話をしておこう。…で、父上は?」
一瞬、乙女の恥を父上のお耳にまで入れないで、と思ったものの、やはり父にも娘の無事の理由を知る権利はあるし、隠し立ては出来ない。
ほんの少し乙女の矜持が削られるだけだ。
マリアローゼは抗議を諦めて、質問に答えた。
「わたくしのお願い事を叶えて下さる為に、陛下に会いに行きました。
許可が出たらリトリー様と話に行って参ります」
リトリーの名を聞いて、シルヴァインは目を細めて笑顔を消した。
底冷えのするような冷たい声で紡がれる言葉には棘しかない。
「毒殺女に何の用があるんだ?」
「色々とございますけれど、成功するかどうかはわたくしにも分かりませんの」
ふむ、と兄は顎に手を当てて考え込む。
「何となく予想はついた。牢には俺も着いて行こう。勿論彼女の目に入らないところで待つ」
「それならば構いませんわ」
詳しい事情はまだ話したくないので、兄の言葉にマリアローゼはほっとした。
まずはリトリーとの交渉を成功させないとならない。
交渉、というか一方的に条件を飲ませるのは脅迫かもしれないが。
今頃父とモルガナ公爵が行っている事と同じだ。
こちらは断られても失うものは何も無い。
ただ、少しばかり良心が痛むだけだ。
438
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」
仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
実は、公爵家の隠し子だったルネリア・ラーデインは困惑していた。
なぜなら、ラーデイン公爵家の人々から溺愛されているからである。
普通に考えて、妾の子は疎まれる存在であるはずだ。それなのに、公爵家の人々は、ルネリアを受け入れて愛してくれている。
それに、彼女は疑問符を浮かべるしかなかった。一体、どうして彼らは自分を溺愛しているのか。もしかして、何か裏があるのではないだろうか。
そう思ったルネリアは、ラーデイン公爵家の人々のことを調べることにした。そこで、彼女は衝撃の真実を知ることになる。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。