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誰が聖女を殺したか?
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「珍しいお茶を手に入れたので、一緒にのみましょうっ」
先に言ってあったのか、お湯の入っているだろうティーポットが運ばれてくる。
その中に、リトリーが丸められた茶葉を、ぽちゃん、と落とした。
後は従僕が、ティーストレーナーで漉しながらカップに注ぎ入れて行く。
「何処で手に入れましたの?」
あからさまに怪しいので、入手ルートは聞いておく。
「メイドのエマが紅茶の生産地の出身で、ひとつだけ高級な茶葉を用意してもらえたのですっ」
「……そう」
怪しんではいたが、一番最初にリトリーが紅茶に口を付けたので、
心配は杞憂かと思い、マリアローゼも紅茶を口に運ぶ。
続いてテレーゼも紅茶を口にした。
だが、おかしい。
マリアローゼは口からカップを放すと、中の紅茶を見つめた。
「……えっ…あ……」
テレーゼがふるふると身体を震わせ、マリアローゼの手の中からカップが飛ばされた。
いつの間にか側に寄ったユリアが、マリアローゼの手からカップを払いのけたのだ。
「う、…嘘っ…な、何でっ……」
見ればリトリーも顔を真っ青にしている。
心配していた毒だ。
「毒を抜いて!治癒の魔法が使えるなら出来るでしょうっ」
「か…がは……っ」
血を吐き始めたテレーゼに言うが、掌に零れ落ちた血に驚いて、嫌々と首を振る。
「で、できな…っ…ぐ…ごほっ……」
身体が崩れ落ちて、椅子の傍らに倒れこみ横たわる。
その手をマリアローゼは握った。
「落ち着いて、毒を抜くのです。聖女候補ならば、出来る筈です」
「ごめ…なさい……ごめ……」
涙目で謝罪を繰り返すテレーゼに、もうマリアローゼの言葉は届いていなかった。
段々と、目から光が消えていく。
手からも力が抜けて行った。
顔を上げると、リトリーは何とか持ち直したようだ。
血は吐いていないものの、顔色は悪い。
「…私は、悪くない…だってエマが言ったもの、お腹が痛くなるだけだって……」
「拘束してください。牢へ連行して見張りをつけて!
使用人エマも拘束!居場所が分かる者は案内を!」
側で見守っていたユリアが指示を飛ばす。
「カンナ、公爵達に毒殺事件を伝えて!」
言い置いて、案内をする使用人と共に部屋を駆け出した。
「お嬢様、お部屋に今すぐお戻りを」
返事を聞く前に、ウルススがマリアローゼを抱えあげて、部屋へと走り出した。
走りながらマリアローゼに問いかける。
「お身体は大丈夫ですか?治癒師は?」
「必要ありませんわ…大丈夫です。
どうか、父上をすぐ呼び戻して下さい」
ウルススに掴まりながら、マリアローゼは考え始めた。
テレーゼの手を取ったあの時、救おうと思えば、多分救えた。
だがそれは、同時に自分の未来を捧げる行為に他ならない。
悪人だと謗られようとも、マリアローゼはそうする気は無かったのだ、最初から。
もしその力を使うのならば、命を賭して人々の為に戦っていた冒険者を癒しただろう。
あの時に既に覚悟は決まっていた。
それは、見捨てるという覚悟だ。
出来る限りは助けるが、家族との人生がマリアローゼにとって一番大事なものだ。
優先順位を変える気はない。
それならば、あの時自分の精一杯の力で冒険者を助けたように、今回も出来る事はまだあるかもしれない。
先に言ってあったのか、お湯の入っているだろうティーポットが運ばれてくる。
その中に、リトリーが丸められた茶葉を、ぽちゃん、と落とした。
後は従僕が、ティーストレーナーで漉しながらカップに注ぎ入れて行く。
「何処で手に入れましたの?」
あからさまに怪しいので、入手ルートは聞いておく。
「メイドのエマが紅茶の生産地の出身で、ひとつだけ高級な茶葉を用意してもらえたのですっ」
「……そう」
怪しんではいたが、一番最初にリトリーが紅茶に口を付けたので、
心配は杞憂かと思い、マリアローゼも紅茶を口に運ぶ。
続いてテレーゼも紅茶を口にした。
だが、おかしい。
マリアローゼは口からカップを放すと、中の紅茶を見つめた。
「……えっ…あ……」
テレーゼがふるふると身体を震わせ、マリアローゼの手の中からカップが飛ばされた。
いつの間にか側に寄ったユリアが、マリアローゼの手からカップを払いのけたのだ。
「う、…嘘っ…な、何でっ……」
見ればリトリーも顔を真っ青にしている。
心配していた毒だ。
「毒を抜いて!治癒の魔法が使えるなら出来るでしょうっ」
「か…がは……っ」
血を吐き始めたテレーゼに言うが、掌に零れ落ちた血に驚いて、嫌々と首を振る。
「で、できな…っ…ぐ…ごほっ……」
身体が崩れ落ちて、椅子の傍らに倒れこみ横たわる。
その手をマリアローゼは握った。
「落ち着いて、毒を抜くのです。聖女候補ならば、出来る筈です」
「ごめ…なさい……ごめ……」
涙目で謝罪を繰り返すテレーゼに、もうマリアローゼの言葉は届いていなかった。
段々と、目から光が消えていく。
手からも力が抜けて行った。
顔を上げると、リトリーは何とか持ち直したようだ。
血は吐いていないものの、顔色は悪い。
「…私は、悪くない…だってエマが言ったもの、お腹が痛くなるだけだって……」
「拘束してください。牢へ連行して見張りをつけて!
使用人エマも拘束!居場所が分かる者は案内を!」
側で見守っていたユリアが指示を飛ばす。
「カンナ、公爵達に毒殺事件を伝えて!」
言い置いて、案内をする使用人と共に部屋を駆け出した。
「お嬢様、お部屋に今すぐお戻りを」
返事を聞く前に、ウルススがマリアローゼを抱えあげて、部屋へと走り出した。
走りながらマリアローゼに問いかける。
「お身体は大丈夫ですか?治癒師は?」
「必要ありませんわ…大丈夫です。
どうか、父上をすぐ呼び戻して下さい」
ウルススに掴まりながら、マリアローゼは考え始めた。
テレーゼの手を取ったあの時、救おうと思えば、多分救えた。
だがそれは、同時に自分の未来を捧げる行為に他ならない。
悪人だと謗られようとも、マリアローゼはそうする気は無かったのだ、最初から。
もしその力を使うのならば、命を賭して人々の為に戦っていた冒険者を癒しただろう。
あの時に既に覚悟は決まっていた。
それは、見捨てるという覚悟だ。
出来る限りは助けるが、家族との人生がマリアローゼにとって一番大事なものだ。
優先順位を変える気はない。
それならば、あの時自分の精一杯の力で冒険者を助けたように、今回も出来る事はまだあるかもしれない。
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