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魔法少女にはなりたくない
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その夜、晩餐に父が持ち帰った知らせは良い物とは言えなかった。
「あら…お茶会を…?」
「嫌なら勿論、断っても構わない」
シルヴァインは完全に醒めた顔で父を見ている。
それは聖女候補二人の養父である、ダドニー男爵とクレイトン伯爵によるお茶会の申し出であった。
名目は、数々の非礼への謝罪、である。
「いえ…謝罪したいというのであれば、お受けしないと狭量だと思われますし、
今回だけは、わたくしの苦言の通りに父君を通されての申し出ですので、お受け致しますわ」
行動を訂正してくるのはマリアローゼには予想外だった。
もっと長い時間がかかると思っていたのだ。
もしかしたら別の思惑があるのかもしれないが、受けないという選択はしない。
デザートを口へ運びつつ、マリアローゼは少し考える。
「俺も一緒に行きましょう」
「駄目ですわ」
シルヴァインが不承不承言い出したが、マリアローゼは即座に首を横に振った。
「シルヴァインも誘われてはいるんだよ」
困ったようにジェラルドが言うが、断固としてマリアローゼは首を横にふるふると振る。
「わたくしからの唯一の条件として、申し出を受ける際にお伝え下さいませ。
殿方の同席はご遠慮頂きたいですと」
「ふむ、分かった。伝えておこう」
父は何か考えながらも、深く頷いた。
了承した父を見て、シルヴァインもそれ以上の追究はせずに、押し黙る。
沈黙したものの、疑念をこめた目線で訴えかけるシルヴァインにマリアローゼは答えた。
「問題ございませんわ。ユリアさんとカンナお姉様がついてらっしゃいますもの。
それに、お兄様がいては、彼女たちの気も散るでしょうし」
恨むならご自分の顔面偏差値を恨んでください、と心の中で付け足す。
シルヴァインは肩を竦めて、大袈裟に溜息をついて見せた。
「大丈夫です。万全の準備を致しますので」
「分かった。では控室で大人しく待っているよ」
部屋で待てばいいのだが、譲った結果が控室なのだろうから、マリアローゼもそれには頷く。
場所はこの前とは違う、賓客用の客間で行われるらしい。
この国で最後の仕事となるので、護衛騎士も全員強制参加になるようだ。
「予定通り出発は明後日だ。……何事もなければな」
意味深なその言葉が、不吉な予言となって的中する事になるのだが、
それはその場にいる全員が危惧していたことではあった。
翌朝、父母は最後の社交に出かけていく。
残されたマリアローゼはお茶会用のドレスを選び始めた。
「青、緑、と着たので、最後は赤にしようかしら……」
顎に手の甲を当てて考え込む姿に、ユリアはまたも部屋の隅で悶絶している。
「そうですわね。最後ですし、分かって頂く為にも華美に装いましょう」
あまり華美なのは好きではない。
似合いはするのだが、見た目ではなく心理的な意味で下品な気がしてしまうからだ。
勿論、社交と言う事柄上、豪奢な装いは不可欠なのは分かっている。
着飾り、財力を見せる事は貴族としての義務でもあるのだ。
今回は特に、公爵家の財力と権威を見せる必要がありそうだった。
「それなら良い考えがありますよ!!」
置物が喋った。
マリアローゼは思わず笑い声を立てる。
「何ですの?」
「髪型を、今、考えてました!ちょっとルーナさんに説明してきますね!!」
るうなさあんっ、というユリアの呼び声の余韻を聞きながら、
準備されていた宝石箱を開けていく。
赤い色の宝石はルビーだろうか、ガーネットだろうか…
見た目で違いは分からないが、ドレスの色に合いそうなチョーカーがある。
子供の身体には普通のチョーカーは緩いので、ビロードのリボンに宝石が付けられていた。
将来的にはチョーカーやペンダントトップとして作り直すことが出来そうだ。
問題はカットなのだが…ハートの形の、ハートシェイプカットになった赤い宝石。
何かの魔法少女みたい…
綺麗なのだが、少し子供っぽく見えてしまう。
あ、まだわたくし子供だったわ…
「あら…お茶会を…?」
「嫌なら勿論、断っても構わない」
シルヴァインは完全に醒めた顔で父を見ている。
それは聖女候補二人の養父である、ダドニー男爵とクレイトン伯爵によるお茶会の申し出であった。
名目は、数々の非礼への謝罪、である。
「いえ…謝罪したいというのであれば、お受けしないと狭量だと思われますし、
今回だけは、わたくしの苦言の通りに父君を通されての申し出ですので、お受け致しますわ」
行動を訂正してくるのはマリアローゼには予想外だった。
もっと長い時間がかかると思っていたのだ。
もしかしたら別の思惑があるのかもしれないが、受けないという選択はしない。
デザートを口へ運びつつ、マリアローゼは少し考える。
「俺も一緒に行きましょう」
「駄目ですわ」
シルヴァインが不承不承言い出したが、マリアローゼは即座に首を横に振った。
「シルヴァインも誘われてはいるんだよ」
困ったようにジェラルドが言うが、断固としてマリアローゼは首を横にふるふると振る。
「わたくしからの唯一の条件として、申し出を受ける際にお伝え下さいませ。
殿方の同席はご遠慮頂きたいですと」
「ふむ、分かった。伝えておこう」
父は何か考えながらも、深く頷いた。
了承した父を見て、シルヴァインもそれ以上の追究はせずに、押し黙る。
沈黙したものの、疑念をこめた目線で訴えかけるシルヴァインにマリアローゼは答えた。
「問題ございませんわ。ユリアさんとカンナお姉様がついてらっしゃいますもの。
それに、お兄様がいては、彼女たちの気も散るでしょうし」
恨むならご自分の顔面偏差値を恨んでください、と心の中で付け足す。
シルヴァインは肩を竦めて、大袈裟に溜息をついて見せた。
「大丈夫です。万全の準備を致しますので」
「分かった。では控室で大人しく待っているよ」
部屋で待てばいいのだが、譲った結果が控室なのだろうから、マリアローゼもそれには頷く。
場所はこの前とは違う、賓客用の客間で行われるらしい。
この国で最後の仕事となるので、護衛騎士も全員強制参加になるようだ。
「予定通り出発は明後日だ。……何事もなければな」
意味深なその言葉が、不吉な予言となって的中する事になるのだが、
それはその場にいる全員が危惧していたことではあった。
翌朝、父母は最後の社交に出かけていく。
残されたマリアローゼはお茶会用のドレスを選び始めた。
「青、緑、と着たので、最後は赤にしようかしら……」
顎に手の甲を当てて考え込む姿に、ユリアはまたも部屋の隅で悶絶している。
「そうですわね。最後ですし、分かって頂く為にも華美に装いましょう」
あまり華美なのは好きではない。
似合いはするのだが、見た目ではなく心理的な意味で下品な気がしてしまうからだ。
勿論、社交と言う事柄上、豪奢な装いは不可欠なのは分かっている。
着飾り、財力を見せる事は貴族としての義務でもあるのだ。
今回は特に、公爵家の財力と権威を見せる必要がありそうだった。
「それなら良い考えがありますよ!!」
置物が喋った。
マリアローゼは思わず笑い声を立てる。
「何ですの?」
「髪型を、今、考えてました!ちょっとルーナさんに説明してきますね!!」
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準備されていた宝石箱を開けていく。
赤い色の宝石はルビーだろうか、ガーネットだろうか…
見た目で違いは分からないが、ドレスの色に合いそうなチョーカーがある。
子供の身体には普通のチョーカーは緩いので、ビロードのリボンに宝石が付けられていた。
将来的にはチョーカーやペンダントトップとして作り直すことが出来そうだ。
問題はカットなのだが…ハートの形の、ハートシェイプカットになった赤い宝石。
何かの魔法少女みたい…
綺麗なのだが、少し子供っぽく見えてしまう。
あ、まだわたくし子供だったわ…
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