上 下
101 / 324
連載

いつか、恋をするのだろうか?

しおりを挟む
代わりにもうひとつ気になっていたことを口にする。

「アルベルト殿下はどうなさってますの?」

折角旅に同行していても、言葉を交わすような事が殆ど無かった。
王子殿下という身分にも関わらず、責務はこなしていながら、目立つような事は一切せずに黙々と旅に同行してくれていたのだ。

「この国にある、我が家の別荘で滞在して頂いてるよ。彼の役目はもう無いからね。ここへ来た事も「なかった」事になる」

シルヴァインは静かに言った。
一緒にいる時は兄弟のように仲良く見えるのだが、時折アルベルトに対して物凄く冷たく感じる事がある。
マリアローゼはじっとそんなシルヴァインの顔を見詰めた。
嫌いなのかと問いかけようとして、以前「嫌いではない」と言っていたことを思い出す。

「損な役回りをさせてしまいました」
「彼が言い出した事なんだから、ローゼは気にしなくていいんだよ」

確かにそうなのだが、何のメリットも無い事でそこまで尽くしてもらうと思わなかったのだ。
安全な城の中から出て、危険な目にあいながら、それ以外は退屈でしかない旅をするなんて。

「何の得もないのに、奇特な御方……」
「得ならあるよ。君を王国に留めて置けるのだから。それに父上も俺も彼には感謝している。彼は未来の王として我々から忠誠を買ったんだ。それに君の関心もね」

巻いた毛先を掬い上げて、シルヴァインがキスを落とす。
気障なそんな素振りも、兄がやると様になっている。

「確かに、してもらってばかりでは心が痛みます」
「もっと傲慢でいていいのに」

忍び笑いを漏らすシルヴァインは、11歳に見えない見た目とはいえ、色香も醸し出している。

「俺ならどろどろに甘やかして、尽くして、俺無しじゃいられないようにしたい」
「ヒェ…」

怖い。
ほんとに11歳ですか…?
そんな重い気持をぶつけられたら、相手は狂ってしまうのではないでしょうか。

と言いたいところを我慢して、小さな悲鳴をなかったことのようにこほんと咳払いをする。

「そうしたいのなら、すればいいですけれど、依存させて突然手を離すような事はなさらないで」

不幸になるかもしれない相手の為に、釘だけはさしておこうとマリアローゼは澄ました顔で伝えた。
兄は少し驚いたような顔をして、それから嫣然と微笑む。
色気が50%増した。

「していいんだ…?」
「どこにいるかも分からない幸せと不幸せ紙一重のご令嬢になら、ええ。
責任は負わねばなりませんことよ」

何処かの誰か、と言うとシルヴァインは肩を竦める。
責任、という言葉に椅子の背に凭れかかった。

「ローゼの手なら離さないと約束出来るんだけどなあ」
「お兄様が離したがってもわたくしは離しませんわよ。家族ですもの」

フフン、とドヤ顔のマリアローゼの小さな手を掬い取り、シルヴァインは手の甲に優しく唇を押し当てる。

「ローゼが家族で良かった」
「褒めても何も出ませんわ」

そうでしょうそうでしょう、と偉そうに鼻高々に胸を反らしたが、伸びた鼻をぽっきり折られる発言が続いた。

「家族じゃなかったら一生閉じ込めてた」
「ヒェ」

ぽっきりと折られた鼻と、再びの押し殺した悲鳴である。
ヤンデレもいい加減にしてほしい。

「お互いが望めば構いませんけれど、犯罪はおやめくださいまし…。
 それに妹を脅えさせる言動は、兄として如何ですの……」

「ローゼ以外にそんな風に思わせてくれる女性がいればだけどね。
 ……まあ、そんな相手が見つかったら真っ先に報告するよ」

それはある意味犯罪予告なのでは?
見つけたから、今から監禁するよ、と宣言されて何か出来る事はあるのかしら。

マリアローゼは眉を顰めて兄をジトっと見た。

「どんな場合でもまず、相手のお気持ちを考えて下さいませね。一方的に気持を押し付けるなど論外ですわ」
「嫌だなぁローゼ、そういう時は「お兄様はわたくしだけ見ていてくださらなきゃ嫌」と言わないと」
「失礼ですけれど、それはどちらのローゼさまでしょうか」

そんなマリアローゼはいない。
でもローゼだけなら何処かには存在しているかもしれないけど私じゃない。

「冷たいなぁローゼ」

と言いつつも兄は嬉しそうに笑っている。
からかっているのか本気なのか分からないけれど、マリアローゼは不思議な気持になった。

いつか誰かに焦がれるほど恋をするのだろうか。
兄も私も。
しおりを挟む
感想 121

あなたにおすすめの小説

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。

曽根原ツタ
恋愛
 ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。  ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。  その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。  ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?  

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。