97 / 357
連載
うっかり悪役令嬢デビュー
しおりを挟む
猿と言う例えは、流石に聖女候補二人にも、二人を比喩したものだと伝わったようで、顔色が悪くなっていた。
「さすがにそれって、酷いです…」
「何なの?ちょっと見た目がいいからって…折角取り巻きに入れてあげようと思ってたのに」
「今何て?」
自分の事を棚に上げた上に、相手を責めるなんて…とリトリーを残念に思っていたが、更にその上を行く言葉を発したテレーゼについ、マリアローゼも釣られてしまった。
「何て仰いましたの?取り巻きに?貴女を慕う人々の一人になさるって仰ったの?
容姿くらいしか取り得の無い貴女が、わたくしの自慢のお兄様を侍らせるですって?」
今まで侮辱の言葉にも、穏やかに微笑んでいたマリアローゼの豹変に、テレーゼは後ずさった。
小声でな、何よ…と言いつつも、表情は脅えている。
「夢みたいな事を仰ってないで現実を見たら如何ですの?
お近くにいる公子にすら相手にされていない上に、他国まで悪評が広まっているのも御存知ないの?
大事な跡継ぎは、貴女方に近づけたくないとまで言われておりますのよ。
その点ではわたくし達の父も同意見だと思います。
二度と、お兄様に話しかけないでくださいませ」
「ローゼ…幾ら容姿が良いと言ったって、君の足元にも及ばないよ」
怒りに震えながら詰め寄った妹を、シルヴァインは抱き上げて歩き出した。
ああ…あの言葉…うっかり悪役令嬢デビューだわ……
自分の言葉を反芻して、マリアローゼは大きな瞳に涙を滲ませた。
とても悔しかった。
自身がどれだけ馬鹿にされても冷静でいられるのに、家族が対象だと感情の抑えがきかなかった。
もっと、きちんと、淑女らしい対応をしなくてはいけないのに。
ひっくひっくとしゃくり上げて、マリアローゼは兄の腕の中で嗚咽を漏らす。
「ひどい…ひどいですわ…あんな風にお兄様を侮辱するなんて…」
「よしよし……」
シルヴァインはどうしたらいいのか分からないという様に、眉を下げて困ったように妹の頭を撫でた。
自分の為に怒って泣いているマリアローゼを、酷く愛おしく思い、嬉しくもあるのだが、頬を伝う大粒の涙を見ると、心が締め付けられるように痛むのだ。
「大丈夫ですか?宜しければこれを……」
控えの間に向かう廊下で、小間使いが恐る恐るハンカチを差し出してくれた。
先ほど酷い目にあったからというのもあって、小さな親切にじんわりと温かさを覚える。
「ありがとう。貴女のお名前は何と仰るの?」
「……アンナと申します」
「お心遣い感謝致します、アンナ」
渡されたハンカチを顔に当てながら、ひくひくとしゃくり上げつつ礼を言う姿が痛ましい。
アンナは、胸の前で手を組んで、ぺこりとお辞儀をすると、会釈をして歩きさるシルヴァインと控室から出てきて、付き従う人々を見送った。
部屋に戻ると、マリアローゼから話を聞きたがっていた母と顛末を話す予定だったが、泣いてしまったせいで、顔を冷やさなくてはいけなくなってしまった。
エイラがひんやりとした布を目の上に乗せて、マリアローゼははふぅと息をついた。
とても気持が良かったのである。
その間、すぐ近くで心配そうに見守る母に、ユリアとシルヴァインでお茶会の内容について話していた。
ユリアの説明だとところどころマリアローゼへの褒め言葉が入ってきて、
脳が話を理解するのを拒むのだが、母には概ね好評のようだった。
「さすがにそれって、酷いです…」
「何なの?ちょっと見た目がいいからって…折角取り巻きに入れてあげようと思ってたのに」
「今何て?」
自分の事を棚に上げた上に、相手を責めるなんて…とリトリーを残念に思っていたが、更にその上を行く言葉を発したテレーゼについ、マリアローゼも釣られてしまった。
「何て仰いましたの?取り巻きに?貴女を慕う人々の一人になさるって仰ったの?
容姿くらいしか取り得の無い貴女が、わたくしの自慢のお兄様を侍らせるですって?」
今まで侮辱の言葉にも、穏やかに微笑んでいたマリアローゼの豹変に、テレーゼは後ずさった。
小声でな、何よ…と言いつつも、表情は脅えている。
「夢みたいな事を仰ってないで現実を見たら如何ですの?
お近くにいる公子にすら相手にされていない上に、他国まで悪評が広まっているのも御存知ないの?
大事な跡継ぎは、貴女方に近づけたくないとまで言われておりますのよ。
その点ではわたくし達の父も同意見だと思います。
二度と、お兄様に話しかけないでくださいませ」
「ローゼ…幾ら容姿が良いと言ったって、君の足元にも及ばないよ」
怒りに震えながら詰め寄った妹を、シルヴァインは抱き上げて歩き出した。
ああ…あの言葉…うっかり悪役令嬢デビューだわ……
自分の言葉を反芻して、マリアローゼは大きな瞳に涙を滲ませた。
とても悔しかった。
自身がどれだけ馬鹿にされても冷静でいられるのに、家族が対象だと感情の抑えがきかなかった。
もっと、きちんと、淑女らしい対応をしなくてはいけないのに。
ひっくひっくとしゃくり上げて、マリアローゼは兄の腕の中で嗚咽を漏らす。
「ひどい…ひどいですわ…あんな風にお兄様を侮辱するなんて…」
「よしよし……」
シルヴァインはどうしたらいいのか分からないという様に、眉を下げて困ったように妹の頭を撫でた。
自分の為に怒って泣いているマリアローゼを、酷く愛おしく思い、嬉しくもあるのだが、頬を伝う大粒の涙を見ると、心が締め付けられるように痛むのだ。
「大丈夫ですか?宜しければこれを……」
控えの間に向かう廊下で、小間使いが恐る恐るハンカチを差し出してくれた。
先ほど酷い目にあったからというのもあって、小さな親切にじんわりと温かさを覚える。
「ありがとう。貴女のお名前は何と仰るの?」
「……アンナと申します」
「お心遣い感謝致します、アンナ」
渡されたハンカチを顔に当てながら、ひくひくとしゃくり上げつつ礼を言う姿が痛ましい。
アンナは、胸の前で手を組んで、ぺこりとお辞儀をすると、会釈をして歩きさるシルヴァインと控室から出てきて、付き従う人々を見送った。
部屋に戻ると、マリアローゼから話を聞きたがっていた母と顛末を話す予定だったが、泣いてしまったせいで、顔を冷やさなくてはいけなくなってしまった。
エイラがひんやりとした布を目の上に乗せて、マリアローゼははふぅと息をついた。
とても気持が良かったのである。
その間、すぐ近くで心配そうに見守る母に、ユリアとシルヴァインでお茶会の内容について話していた。
ユリアの説明だとところどころマリアローゼへの褒め言葉が入ってきて、
脳が話を理解するのを拒むのだが、母には概ね好評のようだった。
374
❤キャライメージはPixivにあるので、宜しければご覧になって下さいませ
お気に入りに追加
6,034
あなたにおすすめの小説
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。