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うっかり悪役令嬢デビュー
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猿と言う例えは、流石に聖女候補二人にも、二人を比喩したものだと伝わったようで、顔色が悪くなっていた。
「さすがにそれって、酷いです…」
「何なの?ちょっと見た目がいいからって…折角取り巻きに入れてあげようと思ってたのに」
「今何て?」
自分の事を棚に上げた上に、相手を責めるなんて…とリトリーを残念に思っていたが、更にその上を行く言葉を発したテレーゼについ、マリアローゼも釣られてしまった。
「何て仰いましたの?取り巻きに?貴女を慕う人々の一人になさるって仰ったの?
容姿くらいしか取り得の無い貴女が、わたくしの自慢のお兄様を侍らせるですって?」
今まで侮辱の言葉にも、穏やかに微笑んでいたマリアローゼの豹変に、テレーゼは後ずさった。
小声でな、何よ…と言いつつも、表情は脅えている。
「夢みたいな事を仰ってないで現実を見たら如何ですの?
お近くにいる公子にすら相手にされていない上に、他国まで悪評が広まっているのも御存知ないの?
大事な跡継ぎは、貴女方に近づけたくないとまで言われておりますのよ。
その点ではわたくし達の父も同意見だと思います。
二度と、お兄様に話しかけないでくださいませ」
「ローゼ…幾ら容姿が良いと言ったって、君の足元にも及ばないよ」
怒りに震えながら詰め寄った妹を、シルヴァインは抱き上げて歩き出した。
ああ…あの言葉…うっかり悪役令嬢デビューだわ……
自分の言葉を反芻して、マリアローゼは大きな瞳に涙を滲ませた。
とても悔しかった。
自身がどれだけ馬鹿にされても冷静でいられるのに、家族が対象だと感情の抑えがきかなかった。
もっと、きちんと、淑女らしい対応をしなくてはいけないのに。
ひっくひっくとしゃくり上げて、マリアローゼは兄の腕の中で嗚咽を漏らす。
「ひどい…ひどいですわ…あんな風にお兄様を侮辱するなんて…」
「よしよし……」
シルヴァインはどうしたらいいのか分からないという様に、眉を下げて困ったように妹の頭を撫でた。
自分の為に怒って泣いているマリアローゼを、酷く愛おしく思い、嬉しくもあるのだが、頬を伝う大粒の涙を見ると、心が締め付けられるように痛むのだ。
「大丈夫ですか?宜しければこれを……」
控えの間に向かう廊下で、小間使いが恐る恐るハンカチを差し出してくれた。
先ほど酷い目にあったからというのもあって、小さな親切にじんわりと温かさを覚える。
「ありがとう。貴女のお名前は何と仰るの?」
「……アンナと申します」
「お心遣い感謝致します、アンナ」
渡されたハンカチを顔に当てながら、ひくひくとしゃくり上げつつ礼を言う姿が痛ましい。
アンナは、胸の前で手を組んで、ぺこりとお辞儀をすると、会釈をして歩きさるシルヴァインと控室から出てきて、付き従う人々を見送った。
部屋に戻ると、マリアローゼから話を聞きたがっていた母と顛末を話す予定だったが、泣いてしまったせいで、顔を冷やさなくてはいけなくなってしまった。
エイラがひんやりとした布を目の上に乗せて、マリアローゼははふぅと息をついた。
とても気持が良かったのである。
その間、すぐ近くで心配そうに見守る母に、ユリアとシルヴァインでお茶会の内容について話していた。
ユリアの説明だとところどころマリアローゼへの褒め言葉が入ってきて、
脳が話を理解するのを拒むのだが、母には概ね好評のようだった。
「さすがにそれって、酷いです…」
「何なの?ちょっと見た目がいいからって…折角取り巻きに入れてあげようと思ってたのに」
「今何て?」
自分の事を棚に上げた上に、相手を責めるなんて…とリトリーを残念に思っていたが、更にその上を行く言葉を発したテレーゼについ、マリアローゼも釣られてしまった。
「何て仰いましたの?取り巻きに?貴女を慕う人々の一人になさるって仰ったの?
容姿くらいしか取り得の無い貴女が、わたくしの自慢のお兄様を侍らせるですって?」
今まで侮辱の言葉にも、穏やかに微笑んでいたマリアローゼの豹変に、テレーゼは後ずさった。
小声でな、何よ…と言いつつも、表情は脅えている。
「夢みたいな事を仰ってないで現実を見たら如何ですの?
お近くにいる公子にすら相手にされていない上に、他国まで悪評が広まっているのも御存知ないの?
大事な跡継ぎは、貴女方に近づけたくないとまで言われておりますのよ。
その点ではわたくし達の父も同意見だと思います。
二度と、お兄様に話しかけないでくださいませ」
「ローゼ…幾ら容姿が良いと言ったって、君の足元にも及ばないよ」
怒りに震えながら詰め寄った妹を、シルヴァインは抱き上げて歩き出した。
ああ…あの言葉…うっかり悪役令嬢デビューだわ……
自分の言葉を反芻して、マリアローゼは大きな瞳に涙を滲ませた。
とても悔しかった。
自身がどれだけ馬鹿にされても冷静でいられるのに、家族が対象だと感情の抑えがきかなかった。
もっと、きちんと、淑女らしい対応をしなくてはいけないのに。
ひっくひっくとしゃくり上げて、マリアローゼは兄の腕の中で嗚咽を漏らす。
「ひどい…ひどいですわ…あんな風にお兄様を侮辱するなんて…」
「よしよし……」
シルヴァインはどうしたらいいのか分からないという様に、眉を下げて困ったように妹の頭を撫でた。
自分の為に怒って泣いているマリアローゼを、酷く愛おしく思い、嬉しくもあるのだが、頬を伝う大粒の涙を見ると、心が締め付けられるように痛むのだ。
「大丈夫ですか?宜しければこれを……」
控えの間に向かう廊下で、小間使いが恐る恐るハンカチを差し出してくれた。
先ほど酷い目にあったからというのもあって、小さな親切にじんわりと温かさを覚える。
「ありがとう。貴女のお名前は何と仰るの?」
「……アンナと申します」
「お心遣い感謝致します、アンナ」
渡されたハンカチを顔に当てながら、ひくひくとしゃくり上げつつ礼を言う姿が痛ましい。
アンナは、胸の前で手を組んで、ぺこりとお辞儀をすると、会釈をして歩きさるシルヴァインと控室から出てきて、付き従う人々を見送った。
部屋に戻ると、マリアローゼから話を聞きたがっていた母と顛末を話す予定だったが、泣いてしまったせいで、顔を冷やさなくてはいけなくなってしまった。
エイラがひんやりとした布を目の上に乗せて、マリアローゼははふぅと息をついた。
とても気持が良かったのである。
その間、すぐ近くで心配そうに見守る母に、ユリアとシルヴァインでお茶会の内容について話していた。
ユリアの説明だとところどころマリアローゼへの褒め言葉が入ってきて、
脳が話を理解するのを拒むのだが、母には概ね好評のようだった。
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