91 / 357
連載
狙われた神聖教
しおりを挟む
帝国の司祭二人と家族で談笑している内に、捜査の第一幕は終ったらしい。
ユリアから伝え聞いたことによると、長谷部が名を呼んだ12名の内2名は場に当てられて恐慌をきたしただけで、残りの10名がミズーリ枢機卿、ヨハン枢機卿の陰謀に何かしら加担してたと言う始末だった。
マグノリアは加護の力を期待され、未だ尋問に立ち会っているという。
「お父様、あの、わたくしちょっと不安な事があるのですけれど」
一瞬父と兄は瞳を交わした。
色々な情報の遣り取りをしていた父と兄なので、多分漏れは無いと思うし、マリアローゼが、自分自身よりも遥かに賢く、頼れる存在だと思っているので駄目押しの確認だった。
「何者かが、神聖教を狙っているのではないかと思うのです」
マリアローゼの言葉を聞いて、ルーセンとナハトも顔を見合わせた。
ジェラルドは、顎に手を当てて、ふむ、とひとつ頷く。
「私もそう思うが、ローゼの話を聞かせてくれるかい?」
「はい。まずは、王都の教会で人身売買が行われていた件で、一人だけ正体不明の方がおりましたよね?
教会関係者でも騎士や兵士でもない方が、教会について調べていたというのが不思議で」
謎の人物が一人いた。
結局その後も、その人物が何者か分からず仕舞いだったのである。
公爵家が関わったのはこの件以降だ。
「結局正体は不明だったし、行方も掴めなかった」
シルヴァインも、マリアローゼの言葉に頷きながら言う。
神聖国の使者がいなくなった件については、任務かもしれないので判断がつかないので除外する。
「あとは襲撃犯の一味の中にいた、アートという騎士さまの存在が異質でした」
「彼が本物のアートなら、10年以上ルクスリア神聖国で騎士として仕えていた事になる。途中で入れ替わった可能性もあるが、長い時間をかけた可能性もある。
経歴に不審な点はなかったと聞いたが…」
「もしそのように10年も時間を費やして、神聖教に根を下ろす組織があるならば、今回の一連の事件の煽動もしたかもしれません。不祥事が起き過ぎている気が致します。
帝国のお二人に協力して頂いたり、事前に水晶の準備が出来ていたから良かったですけれど、それがなかったらわたくしは悪魔として弾劾されていたかもしれません」
「そうなっていたら起こっていたのは王国との不和か」
「そうですね。それに加えて、今回治療した人々や冒険者ギルドとも衝突していた可能性も有り得ます」
ナハトの言葉に、シルヴァインが付け加えて頷く。
「ですので、確実なお話ではないですけれど、神聖国にもお伝えしておいた方が宜しいのではないかと。
争いが起きたら苦しむのは民ですし、神聖教を失えば多くの人々が迷います」
そんな事になってしまったら、家族旅行も出来ないし、美食を追求する事も出来ない。
それは困るマリアローゼなのである。
「分かったよローゼ。折角両帝国の司祭殿もいるし、ハセベー殿とモルガナ公爵も加えて話し合っておこう」
父は優しくマリアローゼの頭を撫でた。
幼女なのに壮大な心配を語ってしまったマリアローゼは、父の言葉にこくんと頷き返した。
思い切り丸投げ…ではあるが、宰相としての父の仕事の領分なので問題は無い。
神官達が全て退室したと言う報告を受けて、フィロソフィ一家も王宮へとユリアに案内されて歩いて行く。
昨日までのマリアローゼの居室は、儀式の為の部屋なので、今日からは家族と続き部屋に案内されて、
やっと落ち着いた気分になれたのである。
そこで、改めて考えてみる事にした。
明日会う二人の聖女候補は正ヒロインと言われる、乙女ゲームの中での主人公枠の少女達の可能性が高い。
前世の記憶のせいなのか、それとも魂が入れ替わってしまったのか。
どちらにしても前世の記憶、この世界に関する記憶を持って神聖国へとやってきたのだ。
「聖女」となるために。
一般的なファンタジーで聖女といえば、癒し系の魔法を使う職業で、
多くの場合人々に崇敬され、愛される存在である。
王侯貴族に嫁ぐ条件で有る場合や、国にとっての重要人物である場合も多い。
勇者がいる世界ならば、その勇者がパーティを組んで一緒に戦うメンバーでもある。
そのような華々しい灯りに吸い寄せられる羽虫のように、二人は引き寄せられたのだろう。
だが、この世界ではその華々しさの裏に途轍もない毒が隠されている。
ゲームはおろか、原作小説でも少なくとも1巻では触れられていない。
この世界のことを書き記した人物が聖女について知っている事が少ないからだろう。
1巻では影も形もない聖女の役職が、それ以降で登場したという事は、
原作の続巻の中、更にゲームの続編で聖女の話が出てきて、華々しい部分だけを描いたのかもしれない。
今いる聖女候補は二人だが、他の三人はどうしたのか?
記憶を持たずにヒロインとして生きているのか、聖女になる選択を敢えてしなかったのか。
もしかしたら原作の続きで、聖女の秘密が明かされるから止めたという推測も出来る。
「助けるのは難しいですわね…」
ユリアから伝え聞いたことによると、長谷部が名を呼んだ12名の内2名は場に当てられて恐慌をきたしただけで、残りの10名がミズーリ枢機卿、ヨハン枢機卿の陰謀に何かしら加担してたと言う始末だった。
マグノリアは加護の力を期待され、未だ尋問に立ち会っているという。
「お父様、あの、わたくしちょっと不安な事があるのですけれど」
一瞬父と兄は瞳を交わした。
色々な情報の遣り取りをしていた父と兄なので、多分漏れは無いと思うし、マリアローゼが、自分自身よりも遥かに賢く、頼れる存在だと思っているので駄目押しの確認だった。
「何者かが、神聖教を狙っているのではないかと思うのです」
マリアローゼの言葉を聞いて、ルーセンとナハトも顔を見合わせた。
ジェラルドは、顎に手を当てて、ふむ、とひとつ頷く。
「私もそう思うが、ローゼの話を聞かせてくれるかい?」
「はい。まずは、王都の教会で人身売買が行われていた件で、一人だけ正体不明の方がおりましたよね?
教会関係者でも騎士や兵士でもない方が、教会について調べていたというのが不思議で」
謎の人物が一人いた。
結局その後も、その人物が何者か分からず仕舞いだったのである。
公爵家が関わったのはこの件以降だ。
「結局正体は不明だったし、行方も掴めなかった」
シルヴァインも、マリアローゼの言葉に頷きながら言う。
神聖国の使者がいなくなった件については、任務かもしれないので判断がつかないので除外する。
「あとは襲撃犯の一味の中にいた、アートという騎士さまの存在が異質でした」
「彼が本物のアートなら、10年以上ルクスリア神聖国で騎士として仕えていた事になる。途中で入れ替わった可能性もあるが、長い時間をかけた可能性もある。
経歴に不審な点はなかったと聞いたが…」
「もしそのように10年も時間を費やして、神聖教に根を下ろす組織があるならば、今回の一連の事件の煽動もしたかもしれません。不祥事が起き過ぎている気が致します。
帝国のお二人に協力して頂いたり、事前に水晶の準備が出来ていたから良かったですけれど、それがなかったらわたくしは悪魔として弾劾されていたかもしれません」
「そうなっていたら起こっていたのは王国との不和か」
「そうですね。それに加えて、今回治療した人々や冒険者ギルドとも衝突していた可能性も有り得ます」
ナハトの言葉に、シルヴァインが付け加えて頷く。
「ですので、確実なお話ではないですけれど、神聖国にもお伝えしておいた方が宜しいのではないかと。
争いが起きたら苦しむのは民ですし、神聖教を失えば多くの人々が迷います」
そんな事になってしまったら、家族旅行も出来ないし、美食を追求する事も出来ない。
それは困るマリアローゼなのである。
「分かったよローゼ。折角両帝国の司祭殿もいるし、ハセベー殿とモルガナ公爵も加えて話し合っておこう」
父は優しくマリアローゼの頭を撫でた。
幼女なのに壮大な心配を語ってしまったマリアローゼは、父の言葉にこくんと頷き返した。
思い切り丸投げ…ではあるが、宰相としての父の仕事の領分なので問題は無い。
神官達が全て退室したと言う報告を受けて、フィロソフィ一家も王宮へとユリアに案内されて歩いて行く。
昨日までのマリアローゼの居室は、儀式の為の部屋なので、今日からは家族と続き部屋に案内されて、
やっと落ち着いた気分になれたのである。
そこで、改めて考えてみる事にした。
明日会う二人の聖女候補は正ヒロインと言われる、乙女ゲームの中での主人公枠の少女達の可能性が高い。
前世の記憶のせいなのか、それとも魂が入れ替わってしまったのか。
どちらにしても前世の記憶、この世界に関する記憶を持って神聖国へとやってきたのだ。
「聖女」となるために。
一般的なファンタジーで聖女といえば、癒し系の魔法を使う職業で、
多くの場合人々に崇敬され、愛される存在である。
王侯貴族に嫁ぐ条件で有る場合や、国にとっての重要人物である場合も多い。
勇者がいる世界ならば、その勇者がパーティを組んで一緒に戦うメンバーでもある。
そのような華々しい灯りに吸い寄せられる羽虫のように、二人は引き寄せられたのだろう。
だが、この世界ではその華々しさの裏に途轍もない毒が隠されている。
ゲームはおろか、原作小説でも少なくとも1巻では触れられていない。
この世界のことを書き記した人物が聖女について知っている事が少ないからだろう。
1巻では影も形もない聖女の役職が、それ以降で登場したという事は、
原作の続巻の中、更にゲームの続編で聖女の話が出てきて、華々しい部分だけを描いたのかもしれない。
今いる聖女候補は二人だが、他の三人はどうしたのか?
記憶を持たずにヒロインとして生きているのか、聖女になる選択を敢えてしなかったのか。
もしかしたら原作の続きで、聖女の秘密が明かされるから止めたという推測も出来る。
「助けるのは難しいですわね…」
394
❤キャライメージはPixivにあるので、宜しければご覧になって下さいませ
お気に入りに追加
6,034
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。