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お嬢様とルーナは公式です
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異端審問官の短い訪問が終って、後は夕刻になれば採寸した服が届き、
それを身につけての水礼の儀が行われる。
聖女で有る無しに関わらず、審議の前に身を清めなければならない慣わしなのだ。
大神殿の地下にある、水礼の間には入口以降一人で行かなければならないのだが、
これ以上の失態を恐れたのか、特例として異端審問官ユリアと王都神殿騎士のカレンドゥラが儀礼の間の中までの同行を許された。
最奥の部屋の中に入る事は許されず、部屋の中を見渡せる入口付近で儀式の後に、その場を封鎖する修道女達と共に待機するようだ。
場を整える間はマグノリア以下王都の神殿騎士達を、危険の無い様に見張りとして立てた上で今も作業が進められているという。
まだ時間はある。
ふう、とマリアローゼは息をついた。
「ルーナ、お兄様をお呼びして」
「はい。お嬢様」
後片付けをしていたルーナが、手を止めてささっと扉の方へと歩いていく。
外で待機しているノクスに、手短に用件を伝えて、ルーナは扉を閉ざした。
「お兄様がいらしたら、申し訳ないのですけれど、カンナお姉様とユリアさんは部屋の外で待機して頂いても宜しいでしょうか?」
「勿論です」
カンナは二つ返事で快く請負い、まだ兄が来るとも分からないのに席を立った。
対照的にユリアは眉を下げて懇願を始める。
「私は置物として定評があるので、部屋の隅っこになら居てもいいですか?」
どんな定評なのか。
話を聞きたいからなのか、ただ外に出るのが面倒なのかどっちなのだろう。
どちらにしても心を鬼にして断るマリアローゼだった。
「家族のお話がしたいので、今回はご遠慮下さいませ。
もしお疲れでしたら椅子も用意させますので…」
「いいえっ!そういう理由ではなく、マリアローゼ様のお姿をただ眺めていたいだけなのです。
あの、少しでもお側近くに居たいだけで、邪魔をするつもりはないのです」
駄々漏れじゃないですか。
色々漏れてはいけないものが大量に漏れ出ている気がする。
背後では、立ち上がったカンナが同意するようにうんうんと頷いていた。
「でもユリアさん、お嬢様を困らせてはいけません。
困ったお嬢様もそれは可愛らしいですけれど、いけませんよ」
どちらに対する援護なのだろう。
ハッと何かに気付いたユリアは、ショックを受けたように固まった。
「そうですよね!私ったらバカバカ…!自分の欲望を優先するだなんて……」
あら?やはり感覚が似ているから、説得も容易なのかしら?
と気を緩めたマリアローゼだったが、続いた言葉にぽかんと口をあける羽目になった。
「お嬢様の困ったお顔もきちんと堪能したかった…!」
仲間はいないのか。
と視線を巡らせると、ぱちりとルーナと目があった。
そしてルーナがとことことマリアローゼの前に立ち、二人の視界からマリアローゼを隠した。
「お二人がお嬢様を大好きなのは知っていますけど、困らせるなら許しません」
視界がルーナの小さい背中で塞がれているが、その向こうからぐふぅという変な吐息が聞こえた。
十中八九ユリアの発した音だろう。
「可愛い…二人まとめてこんな…えぇ?…公式でこれってありなの…?」
最早意味不明なレベルの妄言である。
異端審問官が一番の異端と言われても仕方ない発言だ。
そこへ、兄が到着した事を伝えるノクスの声が聞こえた。
一瞬扉へ行こうか、でもマリアローゼの側を離れたくない、というようにまごまごとしたルーナを見て、
カンナがスッと扉の方へ歩み寄った。
「ユリアさん、行きますよ」
「…はい…」
それを身につけての水礼の儀が行われる。
聖女で有る無しに関わらず、審議の前に身を清めなければならない慣わしなのだ。
大神殿の地下にある、水礼の間には入口以降一人で行かなければならないのだが、
これ以上の失態を恐れたのか、特例として異端審問官ユリアと王都神殿騎士のカレンドゥラが儀礼の間の中までの同行を許された。
最奥の部屋の中に入る事は許されず、部屋の中を見渡せる入口付近で儀式の後に、その場を封鎖する修道女達と共に待機するようだ。
場を整える間はマグノリア以下王都の神殿騎士達を、危険の無い様に見張りとして立てた上で今も作業が進められているという。
まだ時間はある。
ふう、とマリアローゼは息をついた。
「ルーナ、お兄様をお呼びして」
「はい。お嬢様」
後片付けをしていたルーナが、手を止めてささっと扉の方へと歩いていく。
外で待機しているノクスに、手短に用件を伝えて、ルーナは扉を閉ざした。
「お兄様がいらしたら、申し訳ないのですけれど、カンナお姉様とユリアさんは部屋の外で待機して頂いても宜しいでしょうか?」
「勿論です」
カンナは二つ返事で快く請負い、まだ兄が来るとも分からないのに席を立った。
対照的にユリアは眉を下げて懇願を始める。
「私は置物として定評があるので、部屋の隅っこになら居てもいいですか?」
どんな定評なのか。
話を聞きたいからなのか、ただ外に出るのが面倒なのかどっちなのだろう。
どちらにしても心を鬼にして断るマリアローゼだった。
「家族のお話がしたいので、今回はご遠慮下さいませ。
もしお疲れでしたら椅子も用意させますので…」
「いいえっ!そういう理由ではなく、マリアローゼ様のお姿をただ眺めていたいだけなのです。
あの、少しでもお側近くに居たいだけで、邪魔をするつもりはないのです」
駄々漏れじゃないですか。
色々漏れてはいけないものが大量に漏れ出ている気がする。
背後では、立ち上がったカンナが同意するようにうんうんと頷いていた。
「でもユリアさん、お嬢様を困らせてはいけません。
困ったお嬢様もそれは可愛らしいですけれど、いけませんよ」
どちらに対する援護なのだろう。
ハッと何かに気付いたユリアは、ショックを受けたように固まった。
「そうですよね!私ったらバカバカ…!自分の欲望を優先するだなんて……」
あら?やはり感覚が似ているから、説得も容易なのかしら?
と気を緩めたマリアローゼだったが、続いた言葉にぽかんと口をあける羽目になった。
「お嬢様の困ったお顔もきちんと堪能したかった…!」
仲間はいないのか。
と視線を巡らせると、ぱちりとルーナと目があった。
そしてルーナがとことことマリアローゼの前に立ち、二人の視界からマリアローゼを隠した。
「お二人がお嬢様を大好きなのは知っていますけど、困らせるなら許しません」
視界がルーナの小さい背中で塞がれているが、その向こうからぐふぅという変な吐息が聞こえた。
十中八九ユリアの発した音だろう。
「可愛い…二人まとめてこんな…えぇ?…公式でこれってありなの…?」
最早意味不明なレベルの妄言である。
異端審問官が一番の異端と言われても仕方ない発言だ。
そこへ、兄が到着した事を伝えるノクスの声が聞こえた。
一瞬扉へ行こうか、でもマリアローゼの側を離れたくない、というようにまごまごとしたルーナを見て、
カンナがスッと扉の方へ歩み寄った。
「ユリアさん、行きますよ」
「…はい…」
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