悪役令嬢? 何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ひよこ1号

文字の大きさ
上 下
84 / 357
連載

異端審問官と転生者の記憶

しおりを挟む

演技かどうか気になっていたのだが、ユリアは元々こういう普通の女性なのだろうというのも分かった。
ただ、何となく油断させられてしまう雰囲気がある。
元々先にばらすつもりで、送り込んだのかもしれない。
いつの間にか搦め手を使われて、罠にはまってしまった気分だった。
罠のロープに捕まって逆さに吊るされている兎の気分である。

「ええと、それで、ハセベー様は異端審問官なのですよね」
「ええ、そうです」
「異端審問官というと、異端と思われる知識だったり他の宗教を迫害するといったお仕事なのでは…?」

前世の知識のみ、ではない。
この世界でも似た様な歴史があり、迫害や拷問などで改宗させたり殺したりと陰惨な過去を刻んでいる。
それに迫害と言う言葉は語調が強く、攻撃的ですらあるのだが、長谷部はその言葉に、穏やかに笑んでいる。

「確かに昔はそういう仕事でしたが、昨今は教会内部の警察的な役割でしょうか。
教義はもう広げるべくもなく、人々に行き渡っているので、今は自浄作用を持たせる方が優先なのです。
残念ながら、教義を曲解する者や無視する者すらいるので、
それもある意味異端として矯正し直す必要があるのですよ」

信じる事は出来ないけれど、言っていることは正しい。
マリアローゼは、逆さづりのまま風に吹かれてぷらんぷらんと揺れる兎なのである。

「では、わたくしが此処へ参ります理由になった神父様によるおぞましい事件についても?」
「存じ上げております。嘆かわしい事です」

あの事件の事を思い出して辛くはないだろうかと、ルーナに視線を向けたが、控えめに笑顔を浮かべて頷いた。
傷は癒えても、心までは中々癒えないものである。
そのような暴力に晒した神父を、マリアローゼは許す気になれない。

「彼は今行方知れずと聞いておりますけれど、わたくしは絶対許しません」
「勿論です。こちらでも行方を突き止めた暁には極刑とするよう働きかけております」
「その言葉を聞いて、少しですが安堵致しました」

少なくとも「聖女を推薦した」から「無罪」などという馬鹿みたいな不文律は許さないというお墨付きだ。
実際に極刑になるかどうかは分からないが、無罪放免にならないならいい。
だが、どの世界にも政治的配慮、なる不可侵部分があるので安心は出来ない。

「そしてもう一つ、異端の知識についてですが。それを封じる為に我々がおります」
「そ…そうですの」

突然の切り返しに、紅茶を飲む手が震えるマリアローゼ5歳なのである。
もう当事者じゃなくて、他人として聞き流せば良いのではないだろうか。
逃げ出したいけれど、逃げ出せないし、真意が気になる。
少なくともこの国に縛り付ける気はなさそうではあった。

「転生者については、記憶によって混乱する者もいるので、教会で保護育成しております。ですが、望まない者もいるので、強制ではなく協力と言った方が近いでしょうか」
「お話は理解出来ましたけれど、何故わたくしにその話を…?」

まだ、バレるような行いをしたつもりはなかった。
魔道具開発はまだ途中だし、世界を変革するものではない。
それにマリアローゼとしても過去の「私」としても、
この世界に持ち込んでも良い知識と悪い知識があると思っている。
世界を大きく変えすぎてしまう発明や知識は、とても扱いが難しい。

「貴女が記憶を有しているかどうかは言及しないでおきましょう。
 ですが、こちらのユリアによりますと、貴女や城にいる聖女候補様たちが、
 ある物語の登場人物だったという記憶があるらしいのです」

「ま、まあ……」

そっちからだったのか、と驚愕する。
確かに、ゲームや小説の記憶がある者がそんな組織にいたら、
とりあえずの接触を謀ってくるのは納得できた。
色々状況が入り組んできてしまっている。

「それは予言みたいなものなのでしょうか?」

原作小説何巻まで読んだ?とぶっこみたいところではあるが、深追いは禁物だ。
それに多分、色々と…そう色々と変化してしまっている。
夏休みに家に持って帰った朝顔の宿題……ロランドの笑顔が浮かんだ。
彼はとても良い方へ変化したと思う。
マリアローゼとしてはそういう結果を望んでした事ではないが、
国王一家が仲睦まじく平和に暮らしてくれるのは、縁続きの従姉妹としても嬉しいものだ。

「確実な物では無いという意味を含めてなら、お言葉の通りかもしれません」

ふむぅ、とマリアローゼは唸った。
事前に知っておくべき事があった方が良いのかもしれないが、
頼りすぎると別の方向からの衝撃に耐えられない気がする。
段々予言としての原作の知識を頼りに、依存していくような。
物事を自分の頭で考えていない事ほど脆弱なものはないだろう。

「それに聖女様達も関わっておいでなのですね」

長谷部は深く頷いた。
そして、こめかみに長い指先を当てて、ため息をつく。

「彼女達にはユリアからも話をさせたのですが、理解できないのか、したくないのか、何とも難しい立場にいらっしゃいます」
「そうなのですか……」

ユリアにして性格に難ありの評価を頂いた聖女様達である。
それを助けなければならないとしたら、大変面倒な厄介ごとだ。
しゅんとしたマリアローゼを気遣うように、長谷部は言葉を続けた。

「フィロソフィ嬢にその件で何かご助力を賜る事はありませんので、ご安心下さい。
ただ、ユリアの見識ですとイレギュラーな事が起こっている為、お気をつけ頂きますように。
こちらもマグノリア神殿騎士達と連携して、フィロソフィ嬢の安全をお守り致します」

「有難う存じます。心強いですわ」

全てを信じてはいないが、マグノリアの事は深く信頼している。
信頼するマグノリアと手を携えているのなら、やはりある程度は信頼出来ると思っても良いのだろう。
敵でないだけでも、今の状況では有り難い。
しおりを挟む
❤キャライメージはPixivにあるので、宜しければご覧になって下さいませ
感想 135

あなたにおすすめの小説

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。