悪役令嬢? 何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ひよこ1号

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異端審問官と転生者の記憶

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演技かどうか気になっていたのだが、ユリアは元々こういう普通の女性なのだろうというのも分かった。
ただ、何となく油断させられてしまう雰囲気がある。
元々先にばらすつもりで、送り込んだのかもしれない。
いつの間にか搦め手を使われて、罠にはまってしまった気分だった。
罠のロープに捕まって逆さに吊るされている兎の気分である。

「ええと、それで、ハセベー様は異端審問官なのですよね」
「ええ、そうです」
「異端審問官というと、異端と思われる知識だったり他の宗教を迫害するといったお仕事なのでは…?」

前世の知識のみ、ではない。
この世界でも似た様な歴史があり、迫害や拷問などで改宗させたり殺したりと陰惨な過去を刻んでいる。
それに迫害と言う言葉は語調が強く、攻撃的ですらあるのだが、長谷部はその言葉に、穏やかに笑んでいる。

「確かに昔はそういう仕事でしたが、昨今は教会内部の警察的な役割でしょうか。
教義はもう広げるべくもなく、人々に行き渡っているので、今は自浄作用を持たせる方が優先なのです。
残念ながら、教義を曲解する者や無視する者すらいるので、
それもある意味異端として矯正し直す必要があるのですよ」

信じる事は出来ないけれど、言っていることは正しい。
マリアローゼは、逆さづりのまま風に吹かれてぷらんぷらんと揺れる兎なのである。

「では、わたくしが此処へ参ります理由になった神父様によるおぞましい事件についても?」
「存じ上げております。嘆かわしい事です」

あの事件の事を思い出して辛くはないだろうかと、ルーナに視線を向けたが、控えめに笑顔を浮かべて頷いた。
傷は癒えても、心までは中々癒えないものである。
そのような暴力に晒した神父を、マリアローゼは許す気になれない。

「彼は今行方知れずと聞いておりますけれど、わたくしは絶対許しません」
「勿論です。こちらでも行方を突き止めた暁には極刑とするよう働きかけております」
「その言葉を聞いて、少しですが安堵致しました」

少なくとも「聖女を推薦した」から「無罪」などという馬鹿みたいな不文律は許さないというお墨付きだ。
実際に極刑になるかどうかは分からないが、無罪放免にならないならいい。
だが、どの世界にも政治的配慮、なる不可侵部分があるので安心は出来ない。

「そしてもう一つ、異端の知識についてですが。それを封じる為に我々がおります」
「そ…そうですの」

突然の切り返しに、紅茶を飲む手が震えるマリアローゼ5歳なのである。
もう当事者じゃなくて、他人として聞き流せば良いのではないだろうか。
逃げ出したいけれど、逃げ出せないし、真意が気になる。
少なくともこの国に縛り付ける気はなさそうではあった。

「転生者については、記憶によって混乱する者もいるので、教会で保護育成しております。ですが、望まない者もいるので、強制ではなく協力と言った方が近いでしょうか」
「お話は理解出来ましたけれど、何故わたくしにその話を…?」

まだ、バレるような行いをしたつもりはなかった。
魔道具開発はまだ途中だし、世界を変革するものではない。
それにマリアローゼとしても過去の「私」としても、
この世界に持ち込んでも良い知識と悪い知識があると思っている。
世界を大きく変えすぎてしまう発明や知識は、とても扱いが難しい。

「貴女が記憶を有しているかどうかは言及しないでおきましょう。
 ですが、こちらのユリアによりますと、貴女や城にいる聖女候補様たちが、
 ある物語の登場人物だったという記憶があるらしいのです」

「ま、まあ……」

そっちからだったのか、と驚愕する。
確かに、ゲームや小説の記憶がある者がそんな組織にいたら、
とりあえずの接触を謀ってくるのは納得できた。
色々状況が入り組んできてしまっている。

「それは予言みたいなものなのでしょうか?」

原作小説何巻まで読んだ?とぶっこみたいところではあるが、深追いは禁物だ。
それに多分、色々と…そう色々と変化してしまっている。
夏休みに家に持って帰った朝顔の宿題……ロランドの笑顔が浮かんだ。
彼はとても良い方へ変化したと思う。
マリアローゼとしてはそういう結果を望んでした事ではないが、
国王一家が仲睦まじく平和に暮らしてくれるのは、縁続きの従姉妹としても嬉しいものだ。

「確実な物では無いという意味を含めてなら、お言葉の通りかもしれません」

ふむぅ、とマリアローゼは唸った。
事前に知っておくべき事があった方が良いのかもしれないが、
頼りすぎると別の方向からの衝撃に耐えられない気がする。
段々予言としての原作の知識を頼りに、依存していくような。
物事を自分の頭で考えていない事ほど脆弱なものはないだろう。

「それに聖女様達も関わっておいでなのですね」

長谷部は深く頷いた。
そして、こめかみに長い指先を当てて、ため息をつく。

「彼女達にはユリアからも話をさせたのですが、理解できないのか、したくないのか、何とも難しい立場にいらっしゃいます」
「そうなのですか……」

ユリアにして性格に難ありの評価を頂いた聖女様達である。
それを助けなければならないとしたら、大変面倒な厄介ごとだ。
しゅんとしたマリアローゼを気遣うように、長谷部は言葉を続けた。

「フィロソフィ嬢にその件で何かご助力を賜る事はありませんので、ご安心下さい。
ただ、ユリアの見識ですとイレギュラーな事が起こっている為、お気をつけ頂きますように。
こちらもマグノリア神殿騎士達と連携して、フィロソフィ嬢の安全をお守り致します」

「有難う存じます。心強いですわ」

全てを信じてはいないが、マグノリアの事は深く信頼している。
信頼するマグノリアと手を携えているのなら、やはりある程度は信頼出来ると思っても良いのだろう。
敵でないだけでも、今の状況では有り難い。
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