81 / 357
連載
異端審問官ユリアとの出会い
しおりを挟む
ゲームや小説での舞台装置だからなのか、ファートゥムは小洒落た雰囲気の町だった。
そして、レスティアに同じく、冒険者の闊歩する町でもある。
ルクスリア神聖国へと伸びる神聖街道が町を縦断しており、そのまま町の目抜き通りとして栄えていた。
学園創立時の聖女の結界が未だ生きているという事で、住むにも安全で暮らし良い町だからか、
集合住宅のような階数の高い建物の多い町並みが、より都会らしさを醸し出している。
住居の色合いも鮮やかな色が多く、中世と言うよりは近世の町並みに近いかもしれない。
フォルティス公爵家の別邸は奥まった場所にある学園に程近い地域で、
周囲の屋敷も貴族の別邸のような佇まいだった。
武門の家柄だけに、武骨な造りを想像していたが、予想を裏切ってとても瀟洒で繊細な建物である。
美しい姉妹の為に作られた家だと思うと納得が行く優美な屋敷だった。
一晩だけその屋敷に泊まり、公都ウルブズ・ルクスリアへと最後の旅の行程となる。
馬車に乗り込んだ時に、いつもと違う面々に気付いて、マリアローゼはこてん、と首を傾げた。
何時もと同じようにシルヴァインに運ばれて、シルヴァインの膝の上に座らせられたマリアローゼは、目の前に座る神殿騎士マグノリアと挨拶を交わした。
「お早うございます。あの…そちらの方は初めまして…でしょうか?」
「異端審問官のユリアと申します。マリアローゼ様の護衛とお世話を致します。
どうぞ、宜しくお願い致します」
「こちらこそ、どうぞ宜しくお願い致します」
ユリアという少女は、まだ年若い。
言葉遣いはきちんとしているものの、慣れない様子で頬を上気させている姿は可愛らしい。
どことなくユウトに雰囲気が似ている。
髪の色も目の色も違うのだが、何となく想起させられるのだ。
明るめの茶色の髪は少し内巻きのボブ、空色を濃くしたような天色の瞳を輝かせている。
「あの…何だか一緒に旅をしてきた神殿騎士の方に雰囲気が似ているので、初対面という気が致しませんわ」
一瞬きょとん、としたあとユリアはにっこり笑った。
「もしかしてユウト兄さんでしょうか?血の繋がりは無いのですが、一緒の孤児院で育ったからか、よく似ていると言われます」
「まあ、そうでしたの。やっぱり。とっても優しそうなところや明るい雰囲気が似ておりますもの」
思わぬ褒め言葉に、ユリアはえへへと照れ笑いを浮かべた。
和やかな笑みを浮かべていたマグノリアが、ユリアとマリアローゼの会話に頷いた。
「王城では必ず彼女を何処へでも同道してください。私よりも彼女の方が詳しく、時間も割けるので。
それからカンナやルーナにも離れぬよう言ってあります」
「お心遣い感謝致します。身辺には気を配ると約束致しますわ」
幼いながらあどけない声できちんとした言葉を喋り、頷く幼女の様子を見て、
ユリアはほわわっと更に頬を上気させた。
「と、尊い……」
えっ?何て?
いやいや、うん、違うよね。まさかそんなに転生者が神聖教に集まってるという事はないよね。
マリアローゼは一瞬目を丸くしたが、ユリアの隣に坐すマグノリアはその言葉にうむと頷いている。
「そうだ。身分だけでなく、言動まで素晴らしく気高い御方なのだ。心して仕える様に」
「は、はい。この身を捧げます!」
そういう事なのか、そっちの意味だったのか、フライングしなくてよかった、とマリアローゼは安堵した。
安堵したけれど、過大評価でもあるので、ぶんぶんと首を横に振った。
「マグノリア様、褒めすぎです…」
「いいえ、貴女がこの旅で致してきた行いを見れば、この程度の賛辞では到底足りません」
「でも、でも…尊敬する貴方にそんな風に褒められてしまうと、わたくし恥ずかしい…」
真実である。
マグノリアが男性だったら恋している可能性があるくらいには尊敬している。
その人からたいした事のない自分を褒め称えられると、逆に拷問に近いものがある。
ぷっくりとした頬に両手を添えて、マリアローゼが目を伏せると、ユリアがブツブツと何か呟いている。
「…え、…待って、…かわいすぎん?…推しじゃなかったけど、もう推しだし布教するし…」
こっちが待って欲しい。
お前は何者だ。
こんなに口が軽い審問官寄越していいのか。
それとも演技なのか。
何にしても転生者、を知っている何者かの差し金なのは確かだ。
友好的にしろ悪意にしろ、誰の思惑にただ乗るだけの状態はとても居心地が悪い。
逆にマリアローゼは恥ずかしさが薄れるので結果としては良かったのだが、
疑惑の眼差しをついつい向けてしまいそうになる。
「この者の紹介も理由のひとつでしたが、もう一つ、お伝えしたい事がありまして。
王都の我々には知らされていなかったのですが、聖女候補は既に2名いるのです」
「まあ…」
じゃあ私来る必要なかったじゃないですか。
「では帰りましょう!」
マリアローゼの言葉に、マグノリアは苦笑を返した。
「そうして差し上げたいのは山々ですが、一応審議は受けなければなりません」
「はい…そうですわよね…」
しょんぼりである。
分かってはいるので、憧れの人を困らせるのはよくない、と思い立ちマリアローゼはにっこり微笑んだ。
そして、レスティアに同じく、冒険者の闊歩する町でもある。
ルクスリア神聖国へと伸びる神聖街道が町を縦断しており、そのまま町の目抜き通りとして栄えていた。
学園創立時の聖女の結界が未だ生きているという事で、住むにも安全で暮らし良い町だからか、
集合住宅のような階数の高い建物の多い町並みが、より都会らしさを醸し出している。
住居の色合いも鮮やかな色が多く、中世と言うよりは近世の町並みに近いかもしれない。
フォルティス公爵家の別邸は奥まった場所にある学園に程近い地域で、
周囲の屋敷も貴族の別邸のような佇まいだった。
武門の家柄だけに、武骨な造りを想像していたが、予想を裏切ってとても瀟洒で繊細な建物である。
美しい姉妹の為に作られた家だと思うと納得が行く優美な屋敷だった。
一晩だけその屋敷に泊まり、公都ウルブズ・ルクスリアへと最後の旅の行程となる。
馬車に乗り込んだ時に、いつもと違う面々に気付いて、マリアローゼはこてん、と首を傾げた。
何時もと同じようにシルヴァインに運ばれて、シルヴァインの膝の上に座らせられたマリアローゼは、目の前に座る神殿騎士マグノリアと挨拶を交わした。
「お早うございます。あの…そちらの方は初めまして…でしょうか?」
「異端審問官のユリアと申します。マリアローゼ様の護衛とお世話を致します。
どうぞ、宜しくお願い致します」
「こちらこそ、どうぞ宜しくお願い致します」
ユリアという少女は、まだ年若い。
言葉遣いはきちんとしているものの、慣れない様子で頬を上気させている姿は可愛らしい。
どことなくユウトに雰囲気が似ている。
髪の色も目の色も違うのだが、何となく想起させられるのだ。
明るめの茶色の髪は少し内巻きのボブ、空色を濃くしたような天色の瞳を輝かせている。
「あの…何だか一緒に旅をしてきた神殿騎士の方に雰囲気が似ているので、初対面という気が致しませんわ」
一瞬きょとん、としたあとユリアはにっこり笑った。
「もしかしてユウト兄さんでしょうか?血の繋がりは無いのですが、一緒の孤児院で育ったからか、よく似ていると言われます」
「まあ、そうでしたの。やっぱり。とっても優しそうなところや明るい雰囲気が似ておりますもの」
思わぬ褒め言葉に、ユリアはえへへと照れ笑いを浮かべた。
和やかな笑みを浮かべていたマグノリアが、ユリアとマリアローゼの会話に頷いた。
「王城では必ず彼女を何処へでも同道してください。私よりも彼女の方が詳しく、時間も割けるので。
それからカンナやルーナにも離れぬよう言ってあります」
「お心遣い感謝致します。身辺には気を配ると約束致しますわ」
幼いながらあどけない声できちんとした言葉を喋り、頷く幼女の様子を見て、
ユリアはほわわっと更に頬を上気させた。
「と、尊い……」
えっ?何て?
いやいや、うん、違うよね。まさかそんなに転生者が神聖教に集まってるという事はないよね。
マリアローゼは一瞬目を丸くしたが、ユリアの隣に坐すマグノリアはその言葉にうむと頷いている。
「そうだ。身分だけでなく、言動まで素晴らしく気高い御方なのだ。心して仕える様に」
「は、はい。この身を捧げます!」
そういう事なのか、そっちの意味だったのか、フライングしなくてよかった、とマリアローゼは安堵した。
安堵したけれど、過大評価でもあるので、ぶんぶんと首を横に振った。
「マグノリア様、褒めすぎです…」
「いいえ、貴女がこの旅で致してきた行いを見れば、この程度の賛辞では到底足りません」
「でも、でも…尊敬する貴方にそんな風に褒められてしまうと、わたくし恥ずかしい…」
真実である。
マグノリアが男性だったら恋している可能性があるくらいには尊敬している。
その人からたいした事のない自分を褒め称えられると、逆に拷問に近いものがある。
ぷっくりとした頬に両手を添えて、マリアローゼが目を伏せると、ユリアがブツブツと何か呟いている。
「…え、…待って、…かわいすぎん?…推しじゃなかったけど、もう推しだし布教するし…」
こっちが待って欲しい。
お前は何者だ。
こんなに口が軽い審問官寄越していいのか。
それとも演技なのか。
何にしても転生者、を知っている何者かの差し金なのは確かだ。
友好的にしろ悪意にしろ、誰の思惑にただ乗るだけの状態はとても居心地が悪い。
逆にマリアローゼは恥ずかしさが薄れるので結果としては良かったのだが、
疑惑の眼差しをついつい向けてしまいそうになる。
「この者の紹介も理由のひとつでしたが、もう一つ、お伝えしたい事がありまして。
王都の我々には知らされていなかったのですが、聖女候補は既に2名いるのです」
「まあ…」
じゃあ私来る必要なかったじゃないですか。
「では帰りましょう!」
マリアローゼの言葉に、マグノリアは苦笑を返した。
「そうして差し上げたいのは山々ですが、一応審議は受けなければなりません」
「はい…そうですわよね…」
しょんぼりである。
分かってはいるので、憧れの人を困らせるのはよくない、と思い立ちマリアローゼはにっこり微笑んだ。
399
❤キャライメージはPixivにあるので、宜しければご覧になって下さいませ
お気に入りに追加
6,034
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。