79 / 357
連載
交通について考える幼女
しおりを挟む
明日には父の言ったとおり出発出来るだろうか?と考えながら朝の支度をしていたマリアローゼに、今日既に出発の準備が整ったとランバートが伝えに来た。
相変わらず、お仕着せを隙なく着こなした、スペシャルな執事である。
「お久しぶり、ランバート。貴方に会えて嬉しいわ」
にこにこと言うマリアローゼに、ランバートは静かに微笑んで、会釈を返した。
「私もお嬢様のご無事な姿が拝見できて、嬉しく存知ます」
「朝食は馬車の中にご用意しておりますので、参りましょう」
着付けを手伝っていたエイラが、旅行鞄を従僕に運ばせつつ、マリアローゼを振り返った。
はっとして、ベッドを振り返るが、熊の置物は撤去されていたので、マリアローゼはルーナを見る。
ルーナはこくりと頷いて、手荷物の鞄を少し持ち上げてみせた。
できる侍女なのである。
マリアローゼは満足そうに微笑んでルーナに頷き返した。
「はい」
エイラに向き直って返事をすると、マリアローゼはとてとてと部屋を後にした。
馬車に乗ろうとすると、後ろからふわりと抱き上げられて、シルヴァインの声が耳元でした。
「さすが父上、だな」
「おはようございます、お兄様」
「お早う、ローゼ」
そのまま抱えられて、馬車の中に乗り込むと、今日は膝ではなく座席に座らされたので、マリアローゼはきょとんとシルヴァインを見上げた。
「俺も朝食がまだなんだ。食べ終わったら乗せてあげるよ」
「頼んでおりませんわ。一人でも座れますもの」
まるで乗れないのが残念だと言ってる様にとられて、マリアローゼはぷんぷん怒った。
確かにちょっと、座る位置が低くて、窓の外は見えにくいけれど、
だからと言って子供というか赤ちゃん扱いはされたくないお年頃なのである。
マリアローゼが着席したところで、ゆっくりと馬車が進みだす。
外には王国から来た騎士達が、規則正しく馬を歩かせていた。
馬車の周囲は護衛騎士が付いており、王国の神殿騎士も共に並んでいるが、
馬車の前方と後方に数多くの騎士達が武装して、鎧を着けた軍馬に跨っている。
一体どれほどの公費が掛かるのかしら…
朝食をもぐもぐしながらも、マリアローゼは憂鬱な顔で外に見え隠れする景色と騎士達を眺めた。
食べ終わると、シルヴァインが慣れた手つきで抱き上げようとするのを、手を叩いて阻止しながら外を見る。
曲がる道では列の先の方まで見えて、壮観ではあるのだが、少し騎士達の格好に変化が見られた。
全員統一されている訳ではなく、集団毎に特色があるのだ。
「王城からの騎士さま達ばかりではないのですね」
先を見ようとするように、背伸びする5歳児を、スッとシルヴァインが素早く抱き上げて膝に乗せた。
「この方が見やすいだろう?この辺りを治めているマルモル伯爵と、近くの領地の二つの家のご子息とは会っただろう?あとは王都からここまでの間の領地を治めている方々の私兵もいる」
「そうなのですね」
遠くて見えにくいが、馬鎧にも綺麗な紋章入りの敷き布が使われており、
細かい規定があるのか、色や紋章は違えど形は揃っているので見栄えは然程悪くなかった。
「フィロソフィ公爵家は遠いけれど、フォルティス家はそこまで離れていないから次の町で合流するようだよ」
「お爺さまもいらっしゃるの?」
生まれてから何度も会っているが、お爺様と呼ぶにはまだ若い50代なのである。
とはいえ現代と違って平均寿命の短いこの世界では老人の域だ。
もう既に引退して家督は伯父に譲っている。
「叔父上は来るだろうけど、引退している身だからどうかな」
「それもそうですわね…」
50代になって馬での旅なんて、とんでもないかもしれない。
しかも魔獣も出る命がけの旅行きなのである。
安心安全な電車での旅と訳が違う。
でも、そう考えるとあと何度会えるのだろうか。
フォルティス先代公爵は武骨で豪放磊落な、根っからの武人でマリアローゼを全力で構い倒してくる好々爺だ。
片やフィロソフィ先代公爵は気難しいと言われるが、マリアローゼには穏やかで優しい。
どちらも大好きで大切な祖父なのだ。
「大人になったら、わたくしから遊びに行かなくてはなりませんわね」
ふんす、と力強く言葉にすると、ミルリーリウムが嬉しそうに微笑んだ。
「まあぁ…父上もお喜びになるわ」
アウァリティア王国では基本的にではあるが、家督を譲れる子息が成人し、領地経営などを学んだ上で結婚した段階で家督を譲り、親は隠居をする場合が多い。
それに伴って、社交シーズンも王都へ訪れない人々もいる。
王都の暮らしが気に入っている貴族達はそのまま、領地経営を子息にまかせて王都で暮らしている事もあるが、現役ではないので夜会は開けないし、呼ばれる事もほとんどない。
気兼ねなく過ごせる友人とサロンでテーブルを囲むか、親しい間柄の人々と晩餐会や茶会をするかなのだが、それも年齢と収入との兼ね合いである。
貴族としての立場とは別に、国の要職に付き、王に請われて留まっている場合もあるが、その場合は王都の屋敷ではなく王城に住まいを与えられる事もある。
だがそれも、大抵の場合は引き継げる後任を見つけて引退するのが通例だ。
列車を作れば、交通の便はよくなるけれど…
ふむぅとマリアローゼは唸って考え込む。
相変わらず、お仕着せを隙なく着こなした、スペシャルな執事である。
「お久しぶり、ランバート。貴方に会えて嬉しいわ」
にこにこと言うマリアローゼに、ランバートは静かに微笑んで、会釈を返した。
「私もお嬢様のご無事な姿が拝見できて、嬉しく存知ます」
「朝食は馬車の中にご用意しておりますので、参りましょう」
着付けを手伝っていたエイラが、旅行鞄を従僕に運ばせつつ、マリアローゼを振り返った。
はっとして、ベッドを振り返るが、熊の置物は撤去されていたので、マリアローゼはルーナを見る。
ルーナはこくりと頷いて、手荷物の鞄を少し持ち上げてみせた。
できる侍女なのである。
マリアローゼは満足そうに微笑んでルーナに頷き返した。
「はい」
エイラに向き直って返事をすると、マリアローゼはとてとてと部屋を後にした。
馬車に乗ろうとすると、後ろからふわりと抱き上げられて、シルヴァインの声が耳元でした。
「さすが父上、だな」
「おはようございます、お兄様」
「お早う、ローゼ」
そのまま抱えられて、馬車の中に乗り込むと、今日は膝ではなく座席に座らされたので、マリアローゼはきょとんとシルヴァインを見上げた。
「俺も朝食がまだなんだ。食べ終わったら乗せてあげるよ」
「頼んでおりませんわ。一人でも座れますもの」
まるで乗れないのが残念だと言ってる様にとられて、マリアローゼはぷんぷん怒った。
確かにちょっと、座る位置が低くて、窓の外は見えにくいけれど、
だからと言って子供というか赤ちゃん扱いはされたくないお年頃なのである。
マリアローゼが着席したところで、ゆっくりと馬車が進みだす。
外には王国から来た騎士達が、規則正しく馬を歩かせていた。
馬車の周囲は護衛騎士が付いており、王国の神殿騎士も共に並んでいるが、
馬車の前方と後方に数多くの騎士達が武装して、鎧を着けた軍馬に跨っている。
一体どれほどの公費が掛かるのかしら…
朝食をもぐもぐしながらも、マリアローゼは憂鬱な顔で外に見え隠れする景色と騎士達を眺めた。
食べ終わると、シルヴァインが慣れた手つきで抱き上げようとするのを、手を叩いて阻止しながら外を見る。
曲がる道では列の先の方まで見えて、壮観ではあるのだが、少し騎士達の格好に変化が見られた。
全員統一されている訳ではなく、集団毎に特色があるのだ。
「王城からの騎士さま達ばかりではないのですね」
先を見ようとするように、背伸びする5歳児を、スッとシルヴァインが素早く抱き上げて膝に乗せた。
「この方が見やすいだろう?この辺りを治めているマルモル伯爵と、近くの領地の二つの家のご子息とは会っただろう?あとは王都からここまでの間の領地を治めている方々の私兵もいる」
「そうなのですね」
遠くて見えにくいが、馬鎧にも綺麗な紋章入りの敷き布が使われており、
細かい規定があるのか、色や紋章は違えど形は揃っているので見栄えは然程悪くなかった。
「フィロソフィ公爵家は遠いけれど、フォルティス家はそこまで離れていないから次の町で合流するようだよ」
「お爺さまもいらっしゃるの?」
生まれてから何度も会っているが、お爺様と呼ぶにはまだ若い50代なのである。
とはいえ現代と違って平均寿命の短いこの世界では老人の域だ。
もう既に引退して家督は伯父に譲っている。
「叔父上は来るだろうけど、引退している身だからどうかな」
「それもそうですわね…」
50代になって馬での旅なんて、とんでもないかもしれない。
しかも魔獣も出る命がけの旅行きなのである。
安心安全な電車での旅と訳が違う。
でも、そう考えるとあと何度会えるのだろうか。
フォルティス先代公爵は武骨で豪放磊落な、根っからの武人でマリアローゼを全力で構い倒してくる好々爺だ。
片やフィロソフィ先代公爵は気難しいと言われるが、マリアローゼには穏やかで優しい。
どちらも大好きで大切な祖父なのだ。
「大人になったら、わたくしから遊びに行かなくてはなりませんわね」
ふんす、と力強く言葉にすると、ミルリーリウムが嬉しそうに微笑んだ。
「まあぁ…父上もお喜びになるわ」
アウァリティア王国では基本的にではあるが、家督を譲れる子息が成人し、領地経営などを学んだ上で結婚した段階で家督を譲り、親は隠居をする場合が多い。
それに伴って、社交シーズンも王都へ訪れない人々もいる。
王都の暮らしが気に入っている貴族達はそのまま、領地経営を子息にまかせて王都で暮らしている事もあるが、現役ではないので夜会は開けないし、呼ばれる事もほとんどない。
気兼ねなく過ごせる友人とサロンでテーブルを囲むか、親しい間柄の人々と晩餐会や茶会をするかなのだが、それも年齢と収入との兼ね合いである。
貴族としての立場とは別に、国の要職に付き、王に請われて留まっている場合もあるが、その場合は王都の屋敷ではなく王城に住まいを与えられる事もある。
だがそれも、大抵の場合は引き継げる後任を見つけて引退するのが通例だ。
列車を作れば、交通の便はよくなるけれど…
ふむぅとマリアローゼは唸って考え込む。
379
❤キャライメージはPixivにあるので、宜しければご覧になって下さいませ
お気に入りに追加
6,034
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。