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---闇への祈り
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口は禍の元だと言われていた。
自分達の家業ゆえにその言葉がただの諺ではなく真実だという事も勿論知っている。
けれど、不幸になって欲しくない、などと言われたのは初めてだった。
清く正しく上から物を言われると、反発したくなるし汚したくもなるものだ。
だが、それが自分を思う為に発せられたとしたらどうなのだろう。
酷く感動し、心は震え、そして痛いほどに胸をしめつけられた。
見た瞬間に、美しく可憐な姿に釘付けになった。
銀の髪がくるりと巻いて、毛先は蜜に染めたように美しい金色だ。
繊細な針のように大きな目を縁取る睫も、蒼と紫の混じった美しい色の瞳も、瞼の裏に焼きついた。
少女らしく膨らんだ頬は薄っすらと花の様に色づき、唇も薄紅を刷いた様に可愛らしい。
決して醜くはないが、白い頬に散った茶色い染みは、兄弟からの嘲りの元だ。
それを魅力的だという人がいるとは、思いもしなかった。
母には大きくなったら消えるものだと、何でもないことのように切り捨てられ
父にはそれよりも優秀な兄弟に目を向けていて、自分の事など見てももらえない。
気を引きたくてあんな風にくだらない悪口を言っていたのか。
本心だったのか、今ではもう分からない。
美しいマリアローゼの前で、少しでも自分を上に見せようと虚勢を張っていたのは理解している。
でもそれは粉々に打ち砕かれて、そして何もない無垢な状態を救われた、のだ。
まるであの小さな白い両手に優しく乗せられたように。
不幸になってほしくない。
魅力的だ、美点だと、そんな優しい言葉は初めて受け取った。
結局、残ったのは彼女に対する強烈な思慕だ。
彼女が嫌なら、他人を謗る言葉など、全て捨ててしまおう。
不幸になってほしくないと、少しでも思ってもらえるなら、家も何もかも捨ててしまってもいい。
きっと、隣に座っていたモリスも…
あんなにいがみ合っていたのに、同じように思っていると確信している。
今までずっと欲しくて堪らなかったのは、他人からの賞賛、崇敬、そして揺らぐ事のない地位と権力。
その全てがどうでもよくなってしまった。
誰から省みられなくてもいい。
彼女があの微笑を向けてくれるのなら。
きっと、彼女は小さな努力でも賞賛してくれるだろう。
ウェルレークの手を見て、褒め称えたように。
全ていらない。
だが、全てを手に出来るように、強くならなくてはいけない。
元々神聖国の裏切りや暴力によって、彼女の命が危ぶまれたのだ。
だとしたら、ああ、敵は全て絶やさなければならない。
そして思い出す。
彼女の言った言葉を。
誰かが傷つき戦っているから、彼女の白い手が血で汚れないのだと。
彼女はそれに感謝すると。
あれは、暗殺と言う後ろ暗い家に生きる我々への言葉そのものではなかったか。
そして、誰もが幸せになる為に生きていると、言っていたのだ。
もう迷う事もない。
賞賛も喝采も得られない道を歩む事に。
ただ、彼女が幸せに笑っていてくれれば、それが幸福だと心の底から思えるのだ。
自分達の家業ゆえにその言葉がただの諺ではなく真実だという事も勿論知っている。
けれど、不幸になって欲しくない、などと言われたのは初めてだった。
清く正しく上から物を言われると、反発したくなるし汚したくもなるものだ。
だが、それが自分を思う為に発せられたとしたらどうなのだろう。
酷く感動し、心は震え、そして痛いほどに胸をしめつけられた。
見た瞬間に、美しく可憐な姿に釘付けになった。
銀の髪がくるりと巻いて、毛先は蜜に染めたように美しい金色だ。
繊細な針のように大きな目を縁取る睫も、蒼と紫の混じった美しい色の瞳も、瞼の裏に焼きついた。
少女らしく膨らんだ頬は薄っすらと花の様に色づき、唇も薄紅を刷いた様に可愛らしい。
決して醜くはないが、白い頬に散った茶色い染みは、兄弟からの嘲りの元だ。
それを魅力的だという人がいるとは、思いもしなかった。
母には大きくなったら消えるものだと、何でもないことのように切り捨てられ
父にはそれよりも優秀な兄弟に目を向けていて、自分の事など見てももらえない。
気を引きたくてあんな風にくだらない悪口を言っていたのか。
本心だったのか、今ではもう分からない。
美しいマリアローゼの前で、少しでも自分を上に見せようと虚勢を張っていたのは理解している。
でもそれは粉々に打ち砕かれて、そして何もない無垢な状態を救われた、のだ。
まるであの小さな白い両手に優しく乗せられたように。
不幸になってほしくない。
魅力的だ、美点だと、そんな優しい言葉は初めて受け取った。
結局、残ったのは彼女に対する強烈な思慕だ。
彼女が嫌なら、他人を謗る言葉など、全て捨ててしまおう。
不幸になってほしくないと、少しでも思ってもらえるなら、家も何もかも捨ててしまってもいい。
きっと、隣に座っていたモリスも…
あんなにいがみ合っていたのに、同じように思っていると確信している。
今までずっと欲しくて堪らなかったのは、他人からの賞賛、崇敬、そして揺らぐ事のない地位と権力。
その全てがどうでもよくなってしまった。
誰から省みられなくてもいい。
彼女があの微笑を向けてくれるのなら。
きっと、彼女は小さな努力でも賞賛してくれるだろう。
ウェルレークの手を見て、褒め称えたように。
全ていらない。
だが、全てを手に出来るように、強くならなくてはいけない。
元々神聖国の裏切りや暴力によって、彼女の命が危ぶまれたのだ。
だとしたら、ああ、敵は全て絶やさなければならない。
そして思い出す。
彼女の言った言葉を。
誰かが傷つき戦っているから、彼女の白い手が血で汚れないのだと。
彼女はそれに感謝すると。
あれは、暗殺と言う後ろ暗い家に生きる我々への言葉そのものではなかったか。
そして、誰もが幸せになる為に生きていると、言っていたのだ。
もう迷う事もない。
賞賛も喝采も得られない道を歩む事に。
ただ、彼女が幸せに笑っていてくれれば、それが幸福だと心の底から思えるのだ。
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