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父の進軍と可愛いロバ
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テーブルの上の手紙類を片付けようとするが、ルーナがささっと片付け始めたので見守っていると、
コンコンと扉を叩く音がした。
ルーナが応じて、カンナが荷物を持って部屋に入ってくる。
「これから暫くご一緒させて頂きます」
にこにこと笑顔を浮かべたカンナは、まだ軽鎧姿だった。
そういえば、戦ったのは昨日の夜で…
何だか今となっては夢のように思われていたマリアローゼは、その鎧姿にハッとなった。
「カンナお姉様はお怪我などされませんでしたの?」
「大丈夫です。ご心配ありがとうございます」
心配そうに眉を寄せるマリアローゼを見て、カンナは大きく頷いて見せた。
そこで、マリアローゼはこてんと首を傾げる。
「暫く…と仰ってましたけれど、明日の朝にはまた発つのでは?」
「……それがですね……」
と言い淀んでいたが、一つ溜息をついてカンナは続けた。
「今回の夜襲の件、既に公爵様には伝わっておりまして…ただいまこちらへ向かっております」
「…な……な…っ」
なんですってーーーー!?!??
「え…えっと…どうやってそんなに早く伝わりましたの……?」
「鳥を使役する従魔師がおりまして。緊急の場合はその者が連絡する手筈だったので…
折り返し軍を率いてこちらまで来るという書簡も携えて戻ったそうです」
「あら…それは、いけないことなのでは……」
「……ですが、襲撃を受けた時点で、如何な理由があっても神聖国の騎士も関わっていた事なので、
既に国同士の問題に発展してしまってるんですよね……」
「確かに……」
えらい大事になってきた。
あの父が、王に対しても不遜な態度すら見せる父が、この事態をのうのうと見過ごす筈もない。
最愛の妻も危険にさらされたのだし、どれほどにお怒りなのか。
「戦争は……嫌ですわ……」
「そうはならないと思いますけど、相当お怒りでしょうね……」
はぁ……
溜息を零しつつ、今更慌てても嘆いても仕方ないので、現実逃避に目の前の熊をナデナデと撫でると、カンナがそれに目を留めた。
「可愛い置物ですね、ローゼ様」
「…そう!そうなんですの!そうお思いになって?」
すごい勢いで問われて、カンナはきょとんとしてからこくこくと頷いた。
「ええ、動物は皆可愛いと思いますが……」
「嬉しいです。ではカンナ様にもこちらを差し上げなくては……」
マリアローゼはまだ仕舞っていなかったロバをじっくりと見詰めて、やっと選び抜いた一匹をカンナに差し出す。
カンナはキラキラと嬉しそうに笑うマリアローゼの尊さに胸を打たれながら、
両手でそのお土産のロバを押し戴いた。
「私も可愛いと思ってました。有り難く頂戴致します」
「どうぞ!」
ふんすっと力を込めて頷いて、やっと出会えた同じ審美眼の持ち主に、
マリアローゼはいたく親しみを感じながら微笑んだ。
ふと視線を感じてそちらを見ると、ルーナもじっとロバを見ている。
「ルーナにも帰ってから渡そうと思っていたのですけれど…」
と声をかけると、ぱああっと笑顔を見せたので、マリアローゼはまたもじっくり選んで、ルーナに手渡した。
「こちらがルーナで、こちらがノクスのですわ」
「ありがとうございます、お嬢様。すぐ渡してきます!」
後半は敬語も崩れて、くるりっと踵を返すと扉の方へ走り寄って行く。
そして、扉を開けてノクスに渡したようで、ノクスが廊下からぺこりと頭を下げるのが見えた。
「大切に致します。ありがとうございます」
ノクスの言葉と共に、もう一度深くルーナも頭を下げた。
コンコンと扉を叩く音がした。
ルーナが応じて、カンナが荷物を持って部屋に入ってくる。
「これから暫くご一緒させて頂きます」
にこにこと笑顔を浮かべたカンナは、まだ軽鎧姿だった。
そういえば、戦ったのは昨日の夜で…
何だか今となっては夢のように思われていたマリアローゼは、その鎧姿にハッとなった。
「カンナお姉様はお怪我などされませんでしたの?」
「大丈夫です。ご心配ありがとうございます」
心配そうに眉を寄せるマリアローゼを見て、カンナは大きく頷いて見せた。
そこで、マリアローゼはこてんと首を傾げる。
「暫く…と仰ってましたけれど、明日の朝にはまた発つのでは?」
「……それがですね……」
と言い淀んでいたが、一つ溜息をついてカンナは続けた。
「今回の夜襲の件、既に公爵様には伝わっておりまして…ただいまこちらへ向かっております」
「…な……な…っ」
なんですってーーーー!?!??
「え…えっと…どうやってそんなに早く伝わりましたの……?」
「鳥を使役する従魔師がおりまして。緊急の場合はその者が連絡する手筈だったので…
折り返し軍を率いてこちらまで来るという書簡も携えて戻ったそうです」
「あら…それは、いけないことなのでは……」
「……ですが、襲撃を受けた時点で、如何な理由があっても神聖国の騎士も関わっていた事なので、
既に国同士の問題に発展してしまってるんですよね……」
「確かに……」
えらい大事になってきた。
あの父が、王に対しても不遜な態度すら見せる父が、この事態をのうのうと見過ごす筈もない。
最愛の妻も危険にさらされたのだし、どれほどにお怒りなのか。
「戦争は……嫌ですわ……」
「そうはならないと思いますけど、相当お怒りでしょうね……」
はぁ……
溜息を零しつつ、今更慌てても嘆いても仕方ないので、現実逃避に目の前の熊をナデナデと撫でると、カンナがそれに目を留めた。
「可愛い置物ですね、ローゼ様」
「…そう!そうなんですの!そうお思いになって?」
すごい勢いで問われて、カンナはきょとんとしてからこくこくと頷いた。
「ええ、動物は皆可愛いと思いますが……」
「嬉しいです。ではカンナ様にもこちらを差し上げなくては……」
マリアローゼはまだ仕舞っていなかったロバをじっくりと見詰めて、やっと選び抜いた一匹をカンナに差し出す。
カンナはキラキラと嬉しそうに笑うマリアローゼの尊さに胸を打たれながら、
両手でそのお土産のロバを押し戴いた。
「私も可愛いと思ってました。有り難く頂戴致します」
「どうぞ!」
ふんすっと力を込めて頷いて、やっと出会えた同じ審美眼の持ち主に、
マリアローゼはいたく親しみを感じながら微笑んだ。
ふと視線を感じてそちらを見ると、ルーナもじっとロバを見ている。
「ルーナにも帰ってから渡そうと思っていたのですけれど…」
と声をかけると、ぱああっと笑顔を見せたので、マリアローゼはまたもじっくり選んで、ルーナに手渡した。
「こちらがルーナで、こちらがノクスのですわ」
「ありがとうございます、お嬢様。すぐ渡してきます!」
後半は敬語も崩れて、くるりっと踵を返すと扉の方へ走り寄って行く。
そして、扉を開けてノクスに渡したようで、ノクスが廊下からぺこりと頭を下げるのが見えた。
「大切に致します。ありがとうございます」
ノクスの言葉と共に、もう一度深くルーナも頭を下げた。
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