悪役令嬢? 何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ひよこ1号

文字の大きさ
上 下
70 / 357
連載

冒険者の町、レスティア

しおりを挟む
午後も早い内に次の町のレスティアに一行は到着した。
交易も盛んな都市で、アウァリティア王国の都市としては最北端だ。
あと1日馬車で移動すれば、国境を跨いで学園を擁するファートゥムという都市がある。
レスティアは各国の子女が集まる学園都市ファートゥムに一番近い町であり、
そこへ商品を卸す為に、王国各地から人が集まってくるので、町の規模も大きく賑わっている。
神聖街道にぶつかるように、東西から交易路が開かれているのも交易が盛んな理由だ。
すぐ近くに魔の山嶺や樹海もあるため、冒険者も沢山訪れていて、
商売相手としても護衛を雇うにしても、商人達にとっては有り難い存在が多いのも活気を底上げしている。
冒険者の町とも呼ばれている都市である。

馬車は街道を逸れ、繁華街を通り越して、大きな庭のある瀟洒な屋敷へと辿りついた。
その屋敷に元々勤めている兵士達もいて、何だか物々しい雰囲気で、宿のようには見えない。

「ここに泊まるのですか?」
「ああ。ここは王家の別邸で、神聖国へ招聘された人や外交官の滞在用らしいよ。
警備も厳重だから、安心して休めるはずだ」

ゆっくりと庭を時計回りに進んで、正面入口の前で静かに停車する。
シルヴァインはミルリーリウムに続いて、マリアローゼを抱えたまま馬車を降りた。
屋敷の管理を任されている従業員達がずらりと並び、暫く逗留するフィロソフィ一家と騎士達を出迎える。

王家に仕える者達だし、あの優秀な国王夫妻に認められているのだから、信頼できない事はない。
ないのだが、信仰を同じくして、清廉さを求められる筈の神殿騎士達が
騙しあい、裏切りあって殺し合いまでしたのを目にすると、とても手放しで信用できるとは言えない。

少しだけ不安気なマリアローゼを見て、シルヴァインはからかう様に言葉をかけた。

「不安なら一緒に寝てあげようか」
「結構です!」

笑いを含んでシルヴァインに言われて、ムッとしたマリアローゼは即座に断る。

「ルーナも居りますし、頼むならカンナお姉様にお願いしますから」
「ああ、そうしてくれた方が安心できる」

そう言わせたかったのかしら、とふとマリアローゼは柔らかく笑む兄を見て思った。
この旅であった色々な出来事を思い出すと、とても過保護とも言いきれない。

「お兄様がそう仰るなら」

素直に頷いて、同意をすると、シルヴァインはマリアローゼの頭を優しく撫でた。

「決して一人にならないように、気をつけるんだよ」
「はい、お兄様」

狙われたのがマグノリアだとしても、確かにマリアローゼの身にも危険が降りかかったのだ。
どこであれ、用心に越した事はないだろう。
シルヴァインの言葉に頷いて、マリアローゼは大人しく部屋へと運ばれて行った。

それはそうとして、抱っこ癖がついているのでは

歩幅を合わせて歩くのが面倒なのだろうけれど、せめて屋敷の中では自力で歩かないと、鍛えた所で体力が追いつかないのではないだろうか、とマリアローゼは頭を悩ませる。

部屋に着くと、ルーナが早速荷解きを開始していた。
シルヴァインはソファにマリアローゼを降ろして座らせると、部屋を出て行く。

「カンナを呼んでおくよ。俺は用事を片付けてくるから、部屋から出ないようにね」
「はい、お兄様」

本当なら屋敷を探検したい所だが、兄の心配を思うとさすがに出歩けないし、
本気で閉じ込められても困るので、しょんぼりと手荷物の中から熊の木彫りを出して、見える場所に置く。
ついでに一番お気に入りのロバも出して、横に並べた。
幾分マリアローゼの心が慰められる。

「そうでしたわ…!」

手荷物から更に他のロバを出して、選び始める。
すっかりお留守番が板についたアルベルトへのお土産選びである。
一緒に旅をしているから、いらないかなぁ?と一瞬思ったものの、ずっと缶詰状態なのだから旅をしていないロランドよりも退屈かもしれない。
それに、この屋敷はいわばアルベルトにとってはホームでもある。
少なくとも明日まで何かしら本を読んで過ごしたいので、書庫へ本を調達しに代わりに行ってほしい。
小さな紙にその様な手紙を書いて、選んだロバと一緒にルーナに手渡す。

「これをアルベルト様に渡してきてくれる?」
「承りました。外にノクスが居ると思うので渡して参ります」
「お願いね」

ルーナは絶対に側を離れないように厳重に言いつけられているのか、扉を少し開けて、
マリアローゼを振り返りつつ手の中の品をノクスに手渡して何事かを話している。
すぐに扉を閉めて、ルーナはマリアローゼにお辞儀をした。

「渡して参りました。カンナ様ももうすぐお着きになります」
「わかりましたわ」
しおりを挟む
❤キャライメージはPixivにあるので、宜しければご覧になって下さいませ
感想 135

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。