悪役令嬢? 何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ひよこ1号

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---書簡

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深夜の襲撃が終わり、マグノリアとグランスの話し合いの最中、シルヴァインは従者の馬車に向かった。
馬車の扉を特殊なノックで叩くと、中から扉が開く。
そこには料理人や画家など、屋敷から連れてきた従業員達がそれぞれ武装して乗っていた。

「ぼっちゃん、終ったんですか?」

と料理人の一人グルースが、斧を片手に聞いてくる。
シルヴァインは頷き、奥にいる男を指で呼んだ。

「父上へ手紙を届けてくれ」
「承りました」

男は肩に乗せていた大き目の鳥の足の装具の中に、シルヴァインから渡された紙を入れる。
そして、外に下りて口笛を吹くと、鳥は羽ばたいた。
飛び立った鳥はあっという間に夜の闇の中に吸い込まれるように見えなくなる。

「従魔は距離を離れると制御できないと聞いているが、君は特殊なのかい?」
「そうですね。その代わり目を犠牲にしておりますので」

にっこりと笑う男の目は布で覆われている。
手法が分かったところで、真似する者もいないだろう。
その代わり父には重宝されていて、もう既に一生働かなくても暮らせる金は与えていると言っていた。

「そうか。暫く不便をかける」
「滅相もございません。明日の昼になればまた目が戻って参りますので」

気遣うシルヴァインの言葉に男は再び飄々と微笑み、手探りで馬車の中へと戻って行った。
彼が馬車に乗り込むと、シルヴァインは中の者達に声をかける。

「武装を解いて休んでくれ。念のために武器は携帯して置くように」

口々に了承する言葉を返した面々に別れて、馬車の扉を閉めシルヴァインは天幕へ戻った。
大筋は既にグランスから聴取されていて、今は細かい出来事を話している最中だ。

「今、父上に連絡を入れてきました。戻りは昼くらいになると思います」
「ご苦労様、シルヴァイン」

優しく微笑むミルリーリウムは、何時もと違い身体にぴったりした革鎧を着ている。
それに、戦いぶりは見事と言うほかなかった。
一瞬の躊躇も慈悲もなく敵を屠る姿は、普段の優しい母の印象からは想像がつかない。
今回の襲撃で一番驚いたのは母の姿かもしれない、とシルヴァインは苦笑した。

「ああ見えて宰相殿は熱い男だからな、軍を率いてくるだろう」

目を伏せて、マグノリアが地図の王都の辺りをとんとんと指で叩く。

「向こうには早朝に一報が入るので、出発は早くても明日の朝ですね」

シルヴァインもミルリーリウムもマグノリアの言は否定しない。
そしてさらに父の行動を考えて、シルヴァインは異端審問官の二人に目を向ける。

「父が到着するまで時間はありますが、間違いなく神聖国への書簡も送ってくるでしょう。
そちらは遅くても明日の昼。マグノリア殿の部下一人と異端審問官のお二人のどちらかで書簡を届けていただきたい」

「わかりました。私がお届け致します」
「こちらからはユーグを派遣しよう」

ユウトが名乗り出て、ぺこりと敬礼する。
マグノリアが視線を送ると、了承したというようにユーグも頭を下げた。


王の御前会議が急遽招集されたのは、僅か一日後の昼だった。

アウァリィティア王国のアルフォンソ王の裁可を得た宰相ジェラルド・フィロソフィ直々の書簡を、王都の神殿騎士ユーグと神聖国の異端審問官ユウトが携えて神聖国の王城を訪れたのは昼。
急ぎの内容ゆえに謁見の順番なども無視されて奏上されたが、その内容に王は厳しい顔をする。
そしてすぐに議会が招集されたのは、異例の事であった。

「反対です。我が国に元は同じ民とはいえ、他国の軍が踏み入るなど…」
「だが、許さぬなら公爵令嬢の聖女判定はせずに引き返すという。
それはこの先悪しき前例を作る事となるだろう」
「聞けば、令嬢は自分は聖女ではないと公言されているとか。ならば招聘自体を白紙に戻しても良いのでは」
「しかし、それを許してしまうと他国も自分の国に聖女を据える事となり、我が国の権威が失墜する」

意見が出揃った所で、王が手を振ると一旦場は静まり返った。

「大事なのは我が国の権威を損なわない事である。
聖女であるかどうかは、我が国の判断を仰ぐように全ての国が従っている。
今まで聖女を見つけ、保護してきた我が国の歴史を途絶えさせるわけには参らぬ。
だが、今回の事件で我々の信用が失われたのもまた事実。
ならば軍による護衛も致し方ない。外務大臣との交渉で一度は断るが、受け入れざるを得まい。

そして、今回の件に関わった者達は早急に処罰する。
審問官よ、この書簡に書いてあることは真実か?」

「畏れながら申し上げます。我が国の神殿騎士が反乱を起こしたのは事実でございます。
狙いは騎士マグノリアを排除する為だったようですが、令嬢を殺そうとした我が国の騎士もおりました。
これは神殿内部の話として留め置く事は適いません」

「ふむ。此度の事件の追及はそなた達審問官に一任しよう。
して、公爵令嬢はそなたから見て聖女と思えるか?」

「魔法は使っておりませんでした。能力だけを見るならば聖女ではございません」

マリアローゼは聖女になりたくない、と言っている。
だからこそ、ユウトは言葉を選んだ。
マリアローゼ自身を貶める言葉は言えなかったので、稚拙な言い回しになってしまったことが悔やまれる。
王は全て汲み取ったようで、優しげに目を細めて笑う。
そして、釘を刺しつつ意見を更に求めた。

「ふふ…そうか。では能力以外ではどうか。正直に答えよ」

「我々が学んできた理想の聖女を具現化したかのような御方です」

ユウトは逡巡したが、自分の思いを込めて奏上する。
旅の道々で怪我人を癒してきたことは既に王の耳にも届いているだろう。
ここで嘘を吐くわけにも、マリアローゼを卑下する言葉も言えない。

「分かった。もう下がって良いぞ」
「御前、失礼致します」

まさか、王直々に質問してくるとは。

ユウトは扉の外で大きく息を吐いた。

「聖女、か」

ユーグの呟きに、ユウトは視線を向けると、生真面目な神殿騎士は廊下に視線を落としていた。

「最初は世間知らずな令嬢だと思っていましたが、旅をする中で考えが変わりました。
 王国に住まう者としても、神殿騎士としても、守らねばならぬものがあると」

「そうですね。多分、俺も同じ気持ちです。その時が来たら協力は惜しみませんよ」

暗にユーグはマリアローゼを王国へ戻す為なら、戦いを厭わないと宣言しているのだ。
だが、ユウトは元からユーグや王国の騎士とマリアローゼの処遇で剣を交える気は毛頭無かった。

「それは、貴方の立場を危うくするのでは?」

チラリと視線を寄越して、探るように見詰めるユーグの視線に、ユウトは微かに笑んだ。

「さあ、どうでしょうね。俺は信念に従うまでです。ああ、これから長官に報告に行くのですが、そのまま官舎に泊まりますので、明日の朝神殿に迎えに行きます」

「了解した。それでは」

礼儀正しく別れの挨拶を交わすと、二人はそれぞれ別方向に歩き出した。

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