悪役令嬢? 何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ひよこ1号

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決意に応える為に

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「暫くそうしてじっとしておいで、ローゼ」
背に腕を回して、シルヴァインの大きな手がマリアローゼの頭を撫でる。
マリアローゼは服を掴んだまま、シルヴァインの横に並んで困ったように神聖国からの騎士達を見回す。

「お前達は逃げぬのか」

マグノリアの問いかけに、ユウトが答えた。

「身元の保証が出来ますので、逃げません。私とトリスティは異端審問官です」
「身分を伏せた理由はご理解頂けるかと」

トリスティが言葉を続けて、首元から出した鎖に付けられた聖印をマグノリアに見せる。
それに対して今度は、王都の神殿騎士達に動揺が走った。

「他の者については?」
「天幕で震えていたユバータは論外としても、最後までこちら側にいたというだけで信用はできますまい」

静かに告げるトリスティは、背後の三人に視線を投げる。
信用出来ないと断言されたウェルシとファーブラ、イノートの三人は静かに剣を鞘に収めた。
疑いをかけられてはいるが、これ以上争う気は毛頭無い様子で、沈黙している。

「如何様にもお調べ下さい」

憤るでもなく、イノートが静かな声音でぺこりと頭を下げた。
その言葉に続くように、他の二人も頭を下げる。

「あの…少し宜しいでしょうか」

マリアローゼがシルヴァインの横から口を出した。
マグノリアとミルリーリウムが顔を見合わせて頷き、マグノリアがどうぞ、と静かに言う。

「グランス様が裏切ったのはわたくしのせいですか?」
「いえ、己の信念に従ったまでです」

グランスは静かに言って、足元に跪く。

「でも、裏切った事が明らかになっては妹様の身が危険なのでは?」
「それは…妹も理解してくれると思います」

だから、あの時、悲しそうな苦しそうな顔をしたのか、と合点がいったとともに、
何という決断を後押ししてしまったのかとマリアローゼは胸が締め付けられた。

「いいえ、駄目ですわ。わたくしは理解しませんことよ。
マグノリア様、異端審問官のお二人も、どうか、
調査が必要なお三方には暫く行方不明になって頂いてくださいませ」

そして少し考えて、ミルリーリウムを見ると、母は頷いて返した。

「グランス様におかれましては戦死された事になさってください。公爵家で保護させて頂きます。
そして早急に妹様も保護に向かわせます」

本来ならば決定権はないのだが、意志を曲げなさそうな美しい目を見て、マグノリアは少し考え、頷いた。

「彼からは朝まで話を聞かせてもらおう。三人は拘束して後日調べさせてもらう。
……ああ、しまった。正しくは4人だな。戦力外の一人を忘れていた」
「でしたら、グランス殿の身柄は公爵家で雇った冒険者達に王都へ送らせます。
4人の保護も我々で請け負いますので、詳しい調査は後程ということでレスティアにて待機させます」

シルヴァインが剣を収めながら提案し、マグノリアは静かに首肯する。

「良いでしょう。人数も大分減ってしまったし、先を急ぐ必要もある。
 狙われたのは私だ。……巻き込んでしまって申し訳ありません」

何の衒いも無くマグノリアはミルリーリウムとマリアローゼに謝罪を口にして頭を下げる。
ミルリーリウムは微笑みながら、首を横に振った。

「一番信用出来る方と姉上様が推薦して下さったのです。
 わたくしも、貴女を信頼しております。
貴女に落ち度はございませんし、謝罪も不要ですのよ。どうか、わたくしの娘の為にも
帰路までお付き合いください」

「は。一命に変えましても」
「従姉妹殿、我々の事も忘れないで下さい」

笑みを含みながらアケルが言い、ミルリーリウムも笑顔を浮かべた。

「あら、忘れてなどおりませんわ。見事な腕前拝見させて頂きました」

大人達が談笑する中、跪いていたグランスにマリアローゼは歩みよって、伏せていた頬を小さな手で撫でた。
グランスは血と埃で汚れた顔を上げて、マリアローゼを見詰める。

「グランス様、助けてくださってありがとう」
「いえ…」
「あなたが勇気を出してくださらなければ、怪我人や死傷者も増えた事でしょう。
わたくし頑張って妹様をお助け致します…」
「そのお気持だけで十分です」

グランスは丁寧に一礼すると、すっと立ち上がった。

「マグノリア殿。私の知っている話でよければ全てお話致します」
「分かった。それでは頼む」

二人は連れ立って中心に建てられている天幕に向かい、異端審問官の二人もそこへと続いた。
神殿騎士達は神聖国の騎士達を促して、隣の天幕へと向かう。

「さ、姫様は馬車にお戻りにならないとな」

フェレスが声をかけると、ウルススがさっとマリアローゼを抱き上げて運んだ。
シルヴァインは自分についた返り血を見て、エイラに着替えを頼んでから中央の天幕へ足を向ける。
ミルリーリウムは少し考えた後、シルヴァインの後を追ってマグノリア達の天幕へと歩いていく。
その後ろをパーウェルとアケルが付いて行った。

ウルススの腕の中から広場を見ながらマリアローゼは困ったように眉を下げていた。

この大量の遺体はどうするのかしら…
それに魔獣寄せもあったし、魔獣が押し寄せたりしないか心配だわ…

「どうされました?」

ウルススが目敏く気付いて聞いてくるので、マリアローゼは魔獣の心配について話した。

「遺体も沢山ございますし、魔物寄せも撒かれていたので魔獣がくるのではないかと思って」
「ふむ。ご心配には及びません。魔獣が来てもお守り致しますので」

力強い笑みに安心感を覚えて、マリアローゼはこくこくと頷いた。
やっぱりマッチョは頼りになるのである。
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