悪役令嬢? 何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ひよこ1号

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仲良し兄妹と証拠隠滅

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「そうですね…妹は優しい子でしたから、きっと応援してくれると思います」

やっと、落ち着いたようにそう言うと、苦しそうな顔をした。

何故、そんな悲しそうな顔をするのかしら。

何か他にも事情があるのかもしれない。
でも何よりも、妹の病気が彼の一番の枷となっているのだ。

「あの、わたくし、神聖国へ行った後でですけど、妹さんのお見舞いにいきますわ。
沢山、薬も運んで参りましたし、何か手助けできるかもしれませんもの」
「いえ、そんな…」
「大事な方なのでしょう?わたくしもお兄様が病気になってしまわれたら、きっと泣いてしまいます」

言葉にして、病床の上の兄シルヴァイン…を想像したけどすぐに大きなバッテンがつく。
アレは病気にならない。
代わりにキースを出演させると、それはとてもしっくりきた。
とても悲しい。
ちょっと想像しただけで悲しくて涙が出そうになる。

「妹はアニスという名前です。もしも、無事神聖国での審議が終ったら、
是非ご一緒させてください」

涙ぐむマリアローゼに、優しい笑みを浮かべて、グランスは妹の名前を告げた。
マリアローゼはふんす、と力強く頷く。
必ず行って、お薬でもし治らなくても、何か解決方法を見つけよう。
頷いたマリアローゼに、グランスもこくりと頷き返して笑顔を向けた。

「ローゼ、どこにいるんだ?」

呼びかける兄の声がして、マリアローゼは振り返り答えた。

「ここに居りますわ、お兄様」
「勝手に出歩いては駄目だろう。心配するじゃないか」

確かに、皆が働いてる時にこっそりと馬車を抜け出して散策していたので、少し気まずい。
でもそれよりも、大事なのは木彫りの熊だ。

「ご覧になってください!ローゼのお守りですわ」

ドヤっと自慢するように、小さな両手の平にちょうど乗るくらいの大きさの熊を差し出して見せ付けると、
シルヴァインは少し驚いてから、グランスに向けて会釈をした。

「妹が我侭を言ったようで申し訳ない」

外行きの礼儀正しい笑顔を浮かべて、シルヴァインが挨拶をすると、
グランスは悲しげな優しい微笑を浮かべた。

「……いえ、とてもお優しい妹さんですね」
「はい。俺の、家族の宝物です」

否定しないし、恥ずかしい事を言われる。
マリアローゼをひょいと抱き上げて、シルヴァインは破顔した。
もしかして、マリアローゼを褒めるだけで好感度があがるのではなかろうか。
と邪推したくなるくらいに上機嫌な返答だ。

グランスは二人を嬉しそうに眺めて、静かに立ち上がった。
向こうからユバータが焚き火に向かって歩いてきている。

「そろそろ交代の時間なので失礼します」

一礼すると、ユバータとは反対方向へグランスは歩き去って行った。
シルヴァインはマリアローゼを抱えたまま、まだ辿りついていないユバータを一瞥して
公爵家の旅馬車の方へと歩みを進める。

「これだけ人数がいるし、目の届かない場所は余り無いけど心配するからね。
閉じ込められたくなかったら、きちんと居場所は把握させてくれ」
「…あ、は、はい。気をつけますわ」

暗に次やったら閉じ込めるからな、という脅しである。
この兄は絶対やる。

マリアローゼはさすがに閉じ込められるのは嫌なので、慌てて返事を返した。
満足したように、じっとマリアローゼを見詰めながらシルヴァインが頷く。

「そういえば、ルーナから報告を貰って調べてみたけど、あれは魔物寄せの薬草が入っていたかもしれない」
「確実ではないのですか?」
「まあ…中身がなくなっていたからね」

ぎくり。
確かにロサが食べて証拠隠滅を謀ってしまったのだ。

「残り香が似ているとカンナが言っていたから可能性は高いな」
「まあ…だからロサが食べてしまったのですね」
「何て?」

うっかり相槌を打って、真顔で聞き返されてマリアローゼは目を泳がせた。

「言ってませんでしたのね。中身はロサが食べてしまいましたの…」
「クッ……ハハハ」

また飼い主が飼い主だから、従魔も従魔だとでも言い出すのでしょう…とジト目で見るが、
一頻り笑った後は、マリアローゼの頭を撫でるだけで、シルヴァインからの追撃は無かった。
そしていつもの優しい笑みを湛えて、マリアローゼの頭に口づけを落とす。

「今日は何か起こるかもしれないから、良い子にしているんだよ」
「……はい、承知致しました」

静かな声で囁かれて、マリアローゼは素直に頷く。
それは半ば予想していた出来事だ。
馬車の故障などそうそう起きるものではないし、旅程の途中の難所でもある。
回避する方法も多々あるだろうけれど、見えない敵と戦うよりは
見える敵を迎え撃つ方を選んだのだろうと推測出来る。
何も起こらなくても用心は必要だ。

馬車の中に戻されたマリアローゼは、料理人達が外で作った温かい食事を運ばれて夕食を取る。
その後、長椅子を繋げるように大きなベッドにした場所で、ミルリーリウムと共に早めに眠りに着いたのだった。
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