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湖畔の宿と家族旅行
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「そこの宿で、湖を見ながら湖で獲れた魚料理が食べられるらしい。行こうかローゼ」
「はい、お兄様」
先ほど目に留めた高級そうな宿を手で差され、マリアローゼは頷き返した。
湖に張り出した板材の上に、テーブルが並べられている。
柵の向こうは湖だ。
運ばれてきた魚の姿煮は、野菜と塩とハーブであっさりとしているが美味しい。
パンも高級なのか、町で食べたような固さはなく、食べやすくて美味しい。
シルヴァインやフェレス、ウルススはその他に大きなステーキも頼んでモリモリと食べている。
美味しそう……
とじっと見詰めていたら、予想外にルーナからお嬢様、と声がかかった。
「お肉をお召し上がりになりますか?」
「あまり多くは食べれないけれど…少し食べたいですわ」
「では、少々お待ち下さい」
ルーナはスッと席を立って、厨房の方へ向かい、暫くして戻ってきた。
「今、用意をしておりますので、もう少しお待ち下さいませ」
「ありがとう、ルーナ」
礼を言うと、ルーナは控えめに微笑む。
その大人びた表情に、マリアローゼはやはり親馬鹿目線で成長を喜ぶ視線を向けつつ、新鮮な野菜サラダをしゃくしゃくと食べた。
ルーナが頼んでくれたのは、一口サイズの盛り合わせだった。
それぞれ味付けも趣向を凝らしていて、果実のソースだったり野菜のソースだったりして、味も見た目も美味しい。
肉も柔らかくジューシーで、丁度良い焼き加減だった。
公爵家のシェフに負けずとも劣らない腕前である。
マリアローゼは力強くこっくりと頷いた。
やはりというか何というか、色々な料理を一手に作る料理人の方が味の幅が広いし、美味しい。
そして、特化された専門料理を作る人々はギルドに守られているが故か、
味に対する練度が低いというか、向上心を妨げられている気がする。
黙っていても人が来る場所で、そこまで美味でもない料理を出す店みたいなものかもしれない。
む。
はたと気がついて、マリアローゼは動きを止めた。
宿題の答えの一つが転がっていたのである。
貴族が泊まる高級宿は、厨房と料理人が揃っているので食事処も完備されていれば、部屋で食事を取る事も可能だ。
そして、お抱えの料理人を連れていれば、厨房を使わせてくれる上に食材の手配もして貰える。
何故そのような形態になったのかといえば、貴族の舌が肥えているせいだろうか。
お抱えの料理人の腕が良ければ、庶民向けの食事で満足は出来ないし、当然商業ギルド傘下の料理人ギルドにはそこまでの技量と経験のある料理人も少ない。
そうして差が開いてしまった為に、特別に高級宿は例外として、ギルドの制約を緩めているのかもしれない。
ホテル業までしなければならないというのも面倒ではあるが、
街中に制限のないレストランを開業したいのであれば、盲点ではあった。
前世の知識で表現するなら、オーベルジュである。
王都の中では資金が掛かるのと土地問題で難しいかもしれないが、
郊外であれば広い庭や建物を併設した豪奢なオーベルジュを作るのも面白いかもしれない。
王宮に泊まれるのであれば良いが、そうではない貴族達や、貴族籍のない商人にも利用できるようにすれば…
だが問題もある。
王都の中では警備兵や騎士団がいるが、郊外に作るとなると警備は別に必要となってくる。
その辺りの採算については、キースかシルヴァインに相談しないと分からない。
などとマリアローゼがぐるぐる考えていると、皆の視線が注がれているのに気がついた。
「すみません、考え事を致しておりました」
少し冷えたけれど、美味しい食事を再開して、マリアローゼは新たに手紙を書くことに決めて、
改めて山に囲まれた湖という美しい景色に目を向ける。
もうすぐ夏だというのに、湖を吹き抜ける風はとても爽やかで涼しい。
山々も頂上付近は万年雪を被っていて、青々とした威容も目に美しい光景だ。
「素晴らしい避暑地ですわね」
「ああ、落ち着いたらいつかまた来ようか」
マリアローゼの呟きに、シルヴァインが同意の言葉を返す。
こくりと頷きながらマリアローゼは大きな目を瞬かせて、湖を眺めた。
家族旅行とか、いいなぁ。
現代であれば気軽に出来る旅行も、この世界では割と命がけな部分がある。
しかも、高位貴族であり、王城での責務もある宰相では、おいそれと旅行が出来ないのだ。
だが、馬車で3日の距離にしてこの素晴らしい自然。
いつか家族でこれたら、とマリアローゼはシルヴァインににっこり微笑みかけた。
「はい、お兄様」
先ほど目に留めた高級そうな宿を手で差され、マリアローゼは頷き返した。
湖に張り出した板材の上に、テーブルが並べられている。
柵の向こうは湖だ。
運ばれてきた魚の姿煮は、野菜と塩とハーブであっさりとしているが美味しい。
パンも高級なのか、町で食べたような固さはなく、食べやすくて美味しい。
シルヴァインやフェレス、ウルススはその他に大きなステーキも頼んでモリモリと食べている。
美味しそう……
とじっと見詰めていたら、予想外にルーナからお嬢様、と声がかかった。
「お肉をお召し上がりになりますか?」
「あまり多くは食べれないけれど…少し食べたいですわ」
「では、少々お待ち下さい」
ルーナはスッと席を立って、厨房の方へ向かい、暫くして戻ってきた。
「今、用意をしておりますので、もう少しお待ち下さいませ」
「ありがとう、ルーナ」
礼を言うと、ルーナは控えめに微笑む。
その大人びた表情に、マリアローゼはやはり親馬鹿目線で成長を喜ぶ視線を向けつつ、新鮮な野菜サラダをしゃくしゃくと食べた。
ルーナが頼んでくれたのは、一口サイズの盛り合わせだった。
それぞれ味付けも趣向を凝らしていて、果実のソースだったり野菜のソースだったりして、味も見た目も美味しい。
肉も柔らかくジューシーで、丁度良い焼き加減だった。
公爵家のシェフに負けずとも劣らない腕前である。
マリアローゼは力強くこっくりと頷いた。
やはりというか何というか、色々な料理を一手に作る料理人の方が味の幅が広いし、美味しい。
そして、特化された専門料理を作る人々はギルドに守られているが故か、
味に対する練度が低いというか、向上心を妨げられている気がする。
黙っていても人が来る場所で、そこまで美味でもない料理を出す店みたいなものかもしれない。
む。
はたと気がついて、マリアローゼは動きを止めた。
宿題の答えの一つが転がっていたのである。
貴族が泊まる高級宿は、厨房と料理人が揃っているので食事処も完備されていれば、部屋で食事を取る事も可能だ。
そして、お抱えの料理人を連れていれば、厨房を使わせてくれる上に食材の手配もして貰える。
何故そのような形態になったのかといえば、貴族の舌が肥えているせいだろうか。
お抱えの料理人の腕が良ければ、庶民向けの食事で満足は出来ないし、当然商業ギルド傘下の料理人ギルドにはそこまでの技量と経験のある料理人も少ない。
そうして差が開いてしまった為に、特別に高級宿は例外として、ギルドの制約を緩めているのかもしれない。
ホテル業までしなければならないというのも面倒ではあるが、
街中に制限のないレストランを開業したいのであれば、盲点ではあった。
前世の知識で表現するなら、オーベルジュである。
王都の中では資金が掛かるのと土地問題で難しいかもしれないが、
郊外であれば広い庭や建物を併設した豪奢なオーベルジュを作るのも面白いかもしれない。
王宮に泊まれるのであれば良いが、そうではない貴族達や、貴族籍のない商人にも利用できるようにすれば…
だが問題もある。
王都の中では警備兵や騎士団がいるが、郊外に作るとなると警備は別に必要となってくる。
その辺りの採算については、キースかシルヴァインに相談しないと分からない。
などとマリアローゼがぐるぐる考えていると、皆の視線が注がれているのに気がついた。
「すみません、考え事を致しておりました」
少し冷えたけれど、美味しい食事を再開して、マリアローゼは新たに手紙を書くことに決めて、
改めて山に囲まれた湖という美しい景色に目を向ける。
もうすぐ夏だというのに、湖を吹き抜ける風はとても爽やかで涼しい。
山々も頂上付近は万年雪を被っていて、青々とした威容も目に美しい光景だ。
「素晴らしい避暑地ですわね」
「ああ、落ち着いたらいつかまた来ようか」
マリアローゼの呟きに、シルヴァインが同意の言葉を返す。
こくりと頷きながらマリアローゼは大きな目を瞬かせて、湖を眺めた。
家族旅行とか、いいなぁ。
現代であれば気軽に出来る旅行も、この世界では割と命がけな部分がある。
しかも、高位貴族であり、王城での責務もある宰相では、おいそれと旅行が出来ないのだ。
だが、馬車で3日の距離にしてこの素晴らしい自然。
いつか家族でこれたら、とマリアローゼはシルヴァインににっこり微笑みかけた。
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