悪役令嬢? 何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ひよこ1号

文字の大きさ
上 下
55 / 357
連載

ラジオ体操と短剣

しおりを挟む
二人がにこやかに挨拶をして、シルヴァインは長机の上の手紙と個包装された小さい包みに目を留める。
ルーナが大きめの袋を用意して、小さい包みを中に収め、残りのロバ達はまた丁寧に鞄にしまう。
シルヴァインは、ローゼの向かいの椅子に座ると、手紙にさらりと目を通した。
手紙の内容に、シルヴァインがギラリと目を光らせる。
面白いものを見つけた、というような覇気みたいなものが感じられて、マリアローゼは身を竦めた。
兄のこういう時の雰囲気は、頼もしい反面怖くもあるのだ。

「じゃあこれは、まとめて預けてくるよ」

そんな態度は一瞬で押しこめて、シルヴァインは爽やかな笑みを浮かべる。
戻ったばかりなのに、颯爽と立ち上がり部屋を出ようとするシルヴァインに、カンナが声をかけた。

「お供します」
「いや、いいよ。別の所に用があるから」

腰を浮かせかけたカンナを制して、シルヴァインが断りを入れると、改めてマリアローゼに向けて微笑んだ。

「すぐ戻ってくるから良い子にしてるんだよ」
「お願いします、お兄様」

兄が部屋から出て行くのを見送り、窓辺に移動して通りを眺めていると、
宿から出た兄が、目敏くマリアローゼを見つけて、大きく手をブンブンと振ってきた。
兄へ小さく手を振り返して、護衛をフェレスに頼んだのか、連れ立って通りを歩いていくのを見送る。

そういえば、最近運動不足なのでは。

今日は散歩だから、当然の如く町中を歩き回ってはいたが、出発してからは殆ど馬車移動だ。
前世の旅行でもそうだったが、移動距離が長くても身体を動かしているわけではない。
でも何となーく動いたような気になってしまうものだ。

かといって、護衛されている身では中々外をうろつく事はできないので、外での運動は出来ない。
室内で出来る運動…腹筋に腕立て伏せ、ラジオ体操…!

マリアローゼはこっそりベッドの影に隠れながら、運動を始めた。
時折ベッドから見え隠れするマリアローゼに、ミルリーリウムは何をしているのかしら?と観察を始める。
釣られる様に、カンナもマリアローゼの動きを見て、ぽん、と納得したように手を打った。

「帝国式体操ですね」

えっ?
はっ?

耳慣れない言葉と、懐かしい言葉のミックスに、マリアローゼは動きを止めてカンナを見た。
カンナはニコニコ笑顔を浮かべながら頷く。

「懐かしいです。帝国の友人がよくそうやって体操してました」
「ま、まあ…そうでしたの…」

全然知らんかった。

まさか、ラジオ体操が帝国に伝わっているなんて、そんな話は思いも寄らず…
今まで読んできた本のジャンルからもかけ離れているので、知りようが無かったのは仕方がないのだが。
やはり、前世の記憶を残した転生者という存在が、ある一定数いるのだと奇しくも証明されてしまった。

でも、逆に伝わっているものが存在しているのは良い事でもあるかもしれない。
自分がうっかりやってしまった時に、言い訳として使えるからだ。
堂々と、帝国式体操ですわっ!とふんぞり返れるというものである。

「最近、少し学んだだけなので、間違いもあるかもしれませんが…」

ふんぞり返れる程ラジオ体操にも、帝国式体操にも通じている訳ではないので言い訳をしつつ、
マリアローゼは控えめに体操を続けた。
体力作りは毎日の反復が大事なのである。
いつの間にかすすすっと寄ってきたルーナも、見よう見まねでマリアローゼの動きを模倣し始めた。
幼い二人が一生懸命運動するのを、微笑ましく見守りながら、ミルリーリウムは紅茶を飲む。

魔法で負荷をかけることは出来ないのかしら?

のんびりと体操をしながら、マリアローゼはぼんやりと考え始めた。
実際に魔法を使おうと思って使ったことはないので、感覚はまだぼんやりとしか分からない。
領地に行ってからでないと、魔法は習えないと言われているので、当然その辺りの書籍も読ませて貰えない。
負荷となると重力……精緻な技術が必要になりそうな上、属性も二系統は必要そうだ。
操作を誤ったら、腕が捩れるとかそういう怖いことにもなりかねない。
マリアローゼはうっかり想像してしまい、ぶんぶんと首を振って、それを振り払った。

ダンベルを作った方が、早いし安全だわ……

でもこの世界では金属も貴重な資源なので、実際には剣を素振りした方がいいのかもしれない。
まだ持たせても貰えていないが……。
せめて身を護る為に短剣の一つでも用意してくるべきだった。
そういえば、馬車の中で母が短剣の手入れをしていたっけ、と考え付き、マリアローゼは運動を切り上げた。

「お母様、わたくしも短剣が欲しいです」
「そうね。きちんとした物は誕生日に贈りますけれど…今欲しいのよね?」
「…はい、できれば…護身用に頂きたいのです」

ミルリーリウムはニコッと微笑むと、旅行鞄から、一振りの短剣を取り出して、マリアローゼに手渡した。
革製の鞘に収まっているそれは、適度な重さがありつつも、細身で小さい。
そして、更に革製の装具を取り出すと、マリアローゼを抱き上げて椅子の上に下ろした。
右足の右側面に差込口が来るようにベルトをしめ、先ほど渡したナイフを鞘ごと括りつける。

「さあ、出来ましたよ」
「か…かっこいいですわ!」

マリアローゼは嬉しそうに、スカートをたくし上げたり下ろしたりしてニコニコしている。
その様子を眺めながら、ミルリーリウムは少し心配そうな顔をした。

「でも、取り扱いには気をつけるのですよ。切れ味が鋭いですから、本当にいざという時にお使いなさい」
「分かりました。みだりに触ることはいたしませんわ」

意図を汲んで、マリアローゼはふんすと頷く。
実際に怪我を負ってしまっては本末転倒だし、持たせてもらえなくなってしまうかもしれない。
重々気をつけなければ…とマリアローゼは、固く心に誓った。
しおりを挟む
❤キャライメージはPixivにあるので、宜しければご覧になって下さいませ
感想 135

あなたにおすすめの小説

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。