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兄達への手紙withロバ
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マリアローゼが目を覚ますと、もう夕方だった。
まだ陽は沈んではいないが、大分傾いてきている。
もぞもぞと起き上がり、ベッドの縁に這い出ると、母のミルリーリウムがソファで優雅にお茶を飲んでいた。
「おはよう、ローゼ」
「お母様、戻ってすぐ寝てしまって申し訳ありません」
「疲れたのでしょう。気にする事ではありませんわ。
お土産の果実はどれも美味しかったですよ、ありがとうローゼ」
「お気に召して頂けたのなら嬉しゅうございます」
まだ眠気のとれない目をくしくしと擦りながら、母の横に座って抱きつく。
母は、優しく抱きしめて、マリアローゼの頬を指で撫でた。
「無理はしなくていいのですよ」
「はい……あ、でもわたくし、お兄様達にお手紙を書かなくてはいけないのでしたわ」
突然覚醒したのか、マリアローゼはしゃんと背筋を伸ばして座り直す。
「あら?そういえばシルヴァインお兄様は?」
「ローゼと一緒に戻った後に、またカンナさんとお出かけしました。
この町に滞在しているカンナさんのご友人に会いに行くとか。
夕食までには戻るでしょう」
兄に言い付かったのか、ルーナが目の前の長机に、手紙の用意を整えている。
そして、可愛いロバの置物を一つずつ丁寧に並べていく。
「随分沢山いるけれど…?」
と不思議そうな顔をするミルリーリウムに、マリアローゼはにっこりと笑いかける。
「お兄様達にひとつずつと、ロランド様と、マリクとエレパースとヴァローナと…」
マリアローゼは小さい指を折りながら、誰にあげるかを数えた。
「あとはわたくしの分と…お父様はまた別のものにしようと思ってます。
お母様と王妃様はうさぎにしました」
ルーナに差し出された兎の置物を、マリアローゼが母の手の上にちょこんと乗せる。
「まあ…嬉しいわ。可愛いらしい」
赤いリボンを首に巻いた白い毛並みの兎を、白い手の上で色々な角度から眺めて嬉しそうに母が笑う。
王妃に贈る兎は、黄色の毛並みに白いリボンをしている。
「お母様に差し上げるのは、王妃様うさぎで、王妃様に差し上げるのはお母様うさぎですの」
「まあ……」
女の子らしい気遣いの詰まった贈り物に、ミルリーリウムは感動で涙ぐんだ。
当のマリアローゼはふんふんと、一生懸命に綺麗に包装を続けている。
手書きのカードを添えて、紙袋に入れてから、生地屋で買ったリボンを念入りに選んで結ぶ。
そして時間をかけて丹念にロバを眺めては、誰に贈るかを熟考して、カードと共に包装して行く。
最後は兄達への手紙、代表してキース宛に手紙をしたためる。
宿題の1つは、
「蜂蜜以外の甘味を探す事」
精製して甘味料として菓子や料理に使う為、癖のない味が好ましい。
見つけ出せなくても、探し方などを模索しておいてもらえれば、今後の指標に出来る。
もう1つは、
「商業ギルドとの軋轢を避ける方法」
現在の食事が出来る店の形態を変え、色々な料理を出せる店を構えたいのだが、
やり方は二通り。
貴族に仕える料理人のように、少ない人数で多様な料理を作る方式。
ギルドの規則に従って、専門の料理人を集めて、一箇所で働かせる方式。
どちらにしても反発は生まれるのは必然なので、その回避方法の検討だ。
ギルドの規則や特化した専門料理人を使わないならば、商業ギルドの管轄ではない場所、町の外や郊外で店を開くというのも良い方法かもしれない。
贅沢や流行が好きな貴族なら、馬車に乗って食事に行く、というスタイルが生まれる可能性もある。
ただ、食事に関しては庶民にまで間口を広げるには時間がかかりそうだ。
王国は豊かな方だが、貧民や孤児もいるのに、そちらの問題を後回しにして…というのも気が進まないし、緊急性も低い。
なので、後はぽいっと丸投げ。
あとは近況というか、食べて美味しかった果実やデザートについて書き連ねて終了した。
手紙はシルヴァインも読むだろう事を考えて、封はしないままにしておく。
封と言えば封蝋。
意外と面倒なんだよね…と手順を思い浮かべる。
蝋を溶かして垂らして印を押す。
これ、魔道具でスタンプ出来るやつにしたら楽では?
現代であればその手間こそが楽しい、というやつではあるのだが、常に仕事で使うとしたらどうだろう。
貴族だけではなくて、ギルドなどの組織でも使うが、完全受注製作になる上に上限は決まっているので、
商売としてはあまり旨みがない。
自宅用という事で、早速レノとクリスタ宛に、思いついた魔道具についての製作依頼の手紙を書き上げる。
そして、出来上がったら父に渡すようにとお願いも添えた。
等とせっせとマリアローゼが作業を進めているうちに、シルヴァインがカンナと共に戻ってきた。
「おかえりなさいませ、シルヴァインお兄様、カンナお姉様」
「ただいまローゼ」
「ただいま戻りました」
まだ陽は沈んではいないが、大分傾いてきている。
もぞもぞと起き上がり、ベッドの縁に這い出ると、母のミルリーリウムがソファで優雅にお茶を飲んでいた。
「おはよう、ローゼ」
「お母様、戻ってすぐ寝てしまって申し訳ありません」
「疲れたのでしょう。気にする事ではありませんわ。
お土産の果実はどれも美味しかったですよ、ありがとうローゼ」
「お気に召して頂けたのなら嬉しゅうございます」
まだ眠気のとれない目をくしくしと擦りながら、母の横に座って抱きつく。
母は、優しく抱きしめて、マリアローゼの頬を指で撫でた。
「無理はしなくていいのですよ」
「はい……あ、でもわたくし、お兄様達にお手紙を書かなくてはいけないのでしたわ」
突然覚醒したのか、マリアローゼはしゃんと背筋を伸ばして座り直す。
「あら?そういえばシルヴァインお兄様は?」
「ローゼと一緒に戻った後に、またカンナさんとお出かけしました。
この町に滞在しているカンナさんのご友人に会いに行くとか。
夕食までには戻るでしょう」
兄に言い付かったのか、ルーナが目の前の長机に、手紙の用意を整えている。
そして、可愛いロバの置物を一つずつ丁寧に並べていく。
「随分沢山いるけれど…?」
と不思議そうな顔をするミルリーリウムに、マリアローゼはにっこりと笑いかける。
「お兄様達にひとつずつと、ロランド様と、マリクとエレパースとヴァローナと…」
マリアローゼは小さい指を折りながら、誰にあげるかを数えた。
「あとはわたくしの分と…お父様はまた別のものにしようと思ってます。
お母様と王妃様はうさぎにしました」
ルーナに差し出された兎の置物を、マリアローゼが母の手の上にちょこんと乗せる。
「まあ…嬉しいわ。可愛いらしい」
赤いリボンを首に巻いた白い毛並みの兎を、白い手の上で色々な角度から眺めて嬉しそうに母が笑う。
王妃に贈る兎は、黄色の毛並みに白いリボンをしている。
「お母様に差し上げるのは、王妃様うさぎで、王妃様に差し上げるのはお母様うさぎですの」
「まあ……」
女の子らしい気遣いの詰まった贈り物に、ミルリーリウムは感動で涙ぐんだ。
当のマリアローゼはふんふんと、一生懸命に綺麗に包装を続けている。
手書きのカードを添えて、紙袋に入れてから、生地屋で買ったリボンを念入りに選んで結ぶ。
そして時間をかけて丹念にロバを眺めては、誰に贈るかを熟考して、カードと共に包装して行く。
最後は兄達への手紙、代表してキース宛に手紙をしたためる。
宿題の1つは、
「蜂蜜以外の甘味を探す事」
精製して甘味料として菓子や料理に使う為、癖のない味が好ましい。
見つけ出せなくても、探し方などを模索しておいてもらえれば、今後の指標に出来る。
もう1つは、
「商業ギルドとの軋轢を避ける方法」
現在の食事が出来る店の形態を変え、色々な料理を出せる店を構えたいのだが、
やり方は二通り。
貴族に仕える料理人のように、少ない人数で多様な料理を作る方式。
ギルドの規則に従って、専門の料理人を集めて、一箇所で働かせる方式。
どちらにしても反発は生まれるのは必然なので、その回避方法の検討だ。
ギルドの規則や特化した専門料理人を使わないならば、商業ギルドの管轄ではない場所、町の外や郊外で店を開くというのも良い方法かもしれない。
贅沢や流行が好きな貴族なら、馬車に乗って食事に行く、というスタイルが生まれる可能性もある。
ただ、食事に関しては庶民にまで間口を広げるには時間がかかりそうだ。
王国は豊かな方だが、貧民や孤児もいるのに、そちらの問題を後回しにして…というのも気が進まないし、緊急性も低い。
なので、後はぽいっと丸投げ。
あとは近況というか、食べて美味しかった果実やデザートについて書き連ねて終了した。
手紙はシルヴァインも読むだろう事を考えて、封はしないままにしておく。
封と言えば封蝋。
意外と面倒なんだよね…と手順を思い浮かべる。
蝋を溶かして垂らして印を押す。
これ、魔道具でスタンプ出来るやつにしたら楽では?
現代であればその手間こそが楽しい、というやつではあるのだが、常に仕事で使うとしたらどうだろう。
貴族だけではなくて、ギルドなどの組織でも使うが、完全受注製作になる上に上限は決まっているので、
商売としてはあまり旨みがない。
自宅用という事で、早速レノとクリスタ宛に、思いついた魔道具についての製作依頼の手紙を書き上げる。
そして、出来上がったら父に渡すようにとお願いも添えた。
等とせっせとマリアローゼが作業を進めているうちに、シルヴァインがカンナと共に戻ってきた。
「おかえりなさいませ、シルヴァインお兄様、カンナお姉様」
「ただいまローゼ」
「ただいま戻りました」
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