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教義と信仰
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「兄に聞いたのですけれど、神聖国の使者は最初15人いらして、今は10人になられているのは何故でしょうか」
「………それは、私にも解りかねます」
内容が内容だけに、目をスッと細めて真剣な顔付きでマグノリアは答えた。
マリアローゼも、少しほっと息を吐いて続ける。
「ええと、他の使者の方達は何と言ってらっしゃるのでしょうか?」
「別の任務があったのでは?という事で混乱は起きていないようですが、そこも妙だと思っております」
「分かりました。……それと、今日、アート神殿騎士にわたくしの行いを「聖女の真似事だ」と言われました。
でも、聖女はそのような事を現在ではしていないはずです。
彼は何故そんな事を口にしたのでしょうか?
わたくしの反論に考え込んでいらっしゃいましたけれど、教えと現実の聖女が、乖離しているように思えるのですが、どうなのでしょう?」
多分カレンドゥラからも話は聞いていただろうマグノリアは、
静かな湖面のような美しい目を真っ直ぐに向けてくる。
「神殿で教わる聖女と言うのは、半ば神格化されています。
歴史や聖なる書に書かれている聖女と、現在の聖女を混同させるような教え方といえばそうなるでしょうか。
現実を直視しない者、曲解する者、都合の良い所だけを見る者、神職者にも様々な人間がおります。
それゆえ、教義は一つでありながら、神に仕える我々は一枚岩ではありません」
「マグノリア様、わたくしみたいな子供に真摯にお答えくださって、ありがとう存じます。わたくしは、貴女の信仰と行いに神を感じておりますわ」
「勿体無いお言葉です。ですが、そうありたいと願っております。これからも」
きっと兄や父からもマグノリアには話が伝わっているだろう。
ルクスリア神聖国そのものが巨大な悪であり、教会の腐敗が進んでいる現状も。
でも彼女の信仰はきっと揺がない。
一人になっても最後まで戦い続ける覚悟もあるのだろう。
「はい。わたくしも信じております」
マリアローゼの言葉に頷き、マグノリアは優しく、マリアローゼに微笑みかけた。
部屋での朝食を済ませた後、マリアローゼはなるべく目立たない様に簡素めの服を着せられていた。
髪の色も目立つ為に、編みこんで布帽子の中に入れている。
フリルのない前開きの空色ワンピースに、シンプルな白いエプロン姿だが、
使われている素材や仕立ての良さは一級品だ。
ミルリーリウムは着替え終わって、マリアローゼがくるりと回って見せると、ぱちぱちと拍手をした。
「まあ、可愛らしいこと。肖像画を描いてもらって、送ってもらいましょうね」
笑顔で物騒な事を言う。
マリアローゼは首をぶんぶん横に振った。
「そんな、大袈裟でございますわ」
「でも…きっと送らないと、旦那様が拗ねてしまわれるわ」
母と娘の名を呼んで、最後まで往生際悪く抵抗していた父を思い出して、
マリアローゼはうーーーん、と唸って考え込んだ。
追い討ちをかけるように、笑顔で頬に手をやったミルリーリウムが首を傾げて微笑む。
「娘の成長を見逃したくないって言ってらしたもの。
送ってあげないと、馬に飛び乗って会いにきてしまいそうですね」
それは駄目だ。
国政が滞ってしまうじゃないか。
「わかりました……」
国政と娘への愛情だと、後者が重いらしい。
国政と比べたら娘の羞恥は我慢するしかないのである。
何故、同行する使用人の中に料理人の他に画家がいるのか疑問だったが、こういうことだったのか。
マリアローゼはその事はもう考えるのはやめよう、と切り捨てて町散歩へのうきうきを取り戻す。
ルーナは昨日まで持っていた鞄と、違う鞄を用意して直立して待っていた。
そこへ、兄のシルヴァインがやって来る。
「さあ、お出かけしようか、ローゼ」
「お土産を買って参りますから、安静にしていてくださいませね」
仮病だと分かっているけれど、そんな風にベッドの上の母に声をかけて、
マリアローゼはお辞儀をして部屋を出る。
廊下には同行する騎士達が勢ぞろいしていた。
フェレスとパーウェルは町にいてもおかしくないような軽装の旅姿、
カレンドゥラは旅装でも今までの軽鎧でもなく、神聖教の修道女のような慎ましやかな服を着ている。
同じく修道服を着たユーグがその隣にいた。
今日も73である。
「………それは、私にも解りかねます」
内容が内容だけに、目をスッと細めて真剣な顔付きでマグノリアは答えた。
マリアローゼも、少しほっと息を吐いて続ける。
「ええと、他の使者の方達は何と言ってらっしゃるのでしょうか?」
「別の任務があったのでは?という事で混乱は起きていないようですが、そこも妙だと思っております」
「分かりました。……それと、今日、アート神殿騎士にわたくしの行いを「聖女の真似事だ」と言われました。
でも、聖女はそのような事を現在ではしていないはずです。
彼は何故そんな事を口にしたのでしょうか?
わたくしの反論に考え込んでいらっしゃいましたけれど、教えと現実の聖女が、乖離しているように思えるのですが、どうなのでしょう?」
多分カレンドゥラからも話は聞いていただろうマグノリアは、
静かな湖面のような美しい目を真っ直ぐに向けてくる。
「神殿で教わる聖女と言うのは、半ば神格化されています。
歴史や聖なる書に書かれている聖女と、現在の聖女を混同させるような教え方といえばそうなるでしょうか。
現実を直視しない者、曲解する者、都合の良い所だけを見る者、神職者にも様々な人間がおります。
それゆえ、教義は一つでありながら、神に仕える我々は一枚岩ではありません」
「マグノリア様、わたくしみたいな子供に真摯にお答えくださって、ありがとう存じます。わたくしは、貴女の信仰と行いに神を感じておりますわ」
「勿体無いお言葉です。ですが、そうありたいと願っております。これからも」
きっと兄や父からもマグノリアには話が伝わっているだろう。
ルクスリア神聖国そのものが巨大な悪であり、教会の腐敗が進んでいる現状も。
でも彼女の信仰はきっと揺がない。
一人になっても最後まで戦い続ける覚悟もあるのだろう。
「はい。わたくしも信じております」
マリアローゼの言葉に頷き、マグノリアは優しく、マリアローゼに微笑みかけた。
部屋での朝食を済ませた後、マリアローゼはなるべく目立たない様に簡素めの服を着せられていた。
髪の色も目立つ為に、編みこんで布帽子の中に入れている。
フリルのない前開きの空色ワンピースに、シンプルな白いエプロン姿だが、
使われている素材や仕立ての良さは一級品だ。
ミルリーリウムは着替え終わって、マリアローゼがくるりと回って見せると、ぱちぱちと拍手をした。
「まあ、可愛らしいこと。肖像画を描いてもらって、送ってもらいましょうね」
笑顔で物騒な事を言う。
マリアローゼは首をぶんぶん横に振った。
「そんな、大袈裟でございますわ」
「でも…きっと送らないと、旦那様が拗ねてしまわれるわ」
母と娘の名を呼んで、最後まで往生際悪く抵抗していた父を思い出して、
マリアローゼはうーーーん、と唸って考え込んだ。
追い討ちをかけるように、笑顔で頬に手をやったミルリーリウムが首を傾げて微笑む。
「娘の成長を見逃したくないって言ってらしたもの。
送ってあげないと、馬に飛び乗って会いにきてしまいそうですね」
それは駄目だ。
国政が滞ってしまうじゃないか。
「わかりました……」
国政と娘への愛情だと、後者が重いらしい。
国政と比べたら娘の羞恥は我慢するしかないのである。
何故、同行する使用人の中に料理人の他に画家がいるのか疑問だったが、こういうことだったのか。
マリアローゼはその事はもう考えるのはやめよう、と切り捨てて町散歩へのうきうきを取り戻す。
ルーナは昨日まで持っていた鞄と、違う鞄を用意して直立して待っていた。
そこへ、兄のシルヴァインがやって来る。
「さあ、お出かけしようか、ローゼ」
「お土産を買って参りますから、安静にしていてくださいませね」
仮病だと分かっているけれど、そんな風にベッドの上の母に声をかけて、
マリアローゼはお辞儀をして部屋を出る。
廊下には同行する騎士達が勢ぞろいしていた。
フェレスとパーウェルは町にいてもおかしくないような軽装の旅姿、
カレンドゥラは旅装でも今までの軽鎧でもなく、神聖教の修道女のような慎ましやかな服を着ている。
同じく修道服を着たユーグがその隣にいた。
今日も73である。
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