悪役令嬢? 何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ひよこ1号

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信仰における聖女

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幼い兄妹と、その後ろを幼い侍女と剣を携えた少女が続く。
その後ろを行く巨躯の男に並んで歩きながら、イノートは言われた言葉を反芻していた。
王と王妃に謁見した時、確かにそう告げられていたのを思い出す。
仕方なく招聘には応じるが、公爵令嬢は聖女でないと本人が言っている、と。
「それを判断するのは神聖国の議会である」とユバータは不遜にも言ってのけた。
偶にいる、宗教と言う権威を笠に着る傲岸な人間の一人だ。
マリアローゼが口にした最初の文言は、確かに王城で聞いたとおりだった。
だが、続く言葉は、幼い少女の責任感と言うには重い一言だ。
にも拘らず、自分の我侭だと通している。
我侭な公爵令嬢が、楽な暮らしを捨てたくないから聖女になるのを拒んでいる、と揶揄する輩すらいたのだ。
実際はどうだ?
聖職者でもなく、貴族でもない人々の為に、責任を感じて足を運ぶ少女が、
そんなくだらない理由で聖女という役職を拒むわけがない。

イノートが悶々と考えている間、シルヴァインの先導で町の外れ近くの教会に辿りついた。
街道は続いているが、もう少し行けば町並みが途絶える、その手前に小さな教会と大きな庭が見える。
そこには、老若男女がぽつりぽつりと座っていた。
みすぼらしい子供達が、少しはなれた所で遊んでいる。

「聖女さま……?」

金色の髪を後ろで一括りにした少女が、そう言って駆け寄ってきた。
それを聞いた人々が、疲れ切った顔に、僅かに期待を込めた眼差しを向ける。
シルヴァインは少し溜息をついて、少女に再度説明をした。

「さっきも言った通りだけど、招聘されただけで聖女ではないんだよ」
「でも……はい。言われたとおりにお待ちしておりました」

金髪の少女が、困ったように笑顔を浮かべて、ぺこりと頭を下げる。
申し訳なく思いつつも、マリアローゼは人々に向かって、スカートをつまんでお辞儀をした。

「マリアローゼと申します。聖女ではありませんが、薬は持ってきていますので、
出来るだけ皆さまの手当てをさせて頂きます」

敢えて家の名前や身分は出さずに挨拶を終え、少女に促される人々と共に、
教会の端にある椅子に座り、手当てを始める。
マリアローゼは患部に丁寧に薬を塗り、自分は聖女じゃないし、薬で治すんだからね!と強調して手当てをしていた。
横ではせっせとルーナが手伝っている。
マリアローゼが塗った薬の上に、ガーゼを貼り付けたり、包帯を巻いたり…
薬を作りながら、マリクがルーナとノクスに教え込んだお陰でもある。
全く知らなかったマリアローゼは、いつの間に!?と目を見開いた。

「ルーナ、素晴らしいですわ…マリクに習いましたの?」
「はい、時々習っていて、最近はお薬の勉強もしておりました」

初耳である。
ルーナはマリアローゼに褒めてもらえたのが嬉しくて、珍しくにこにこと子供らしい笑顔を浮かべた。

「大変助かりますわ、ルーナ」

日も大分落ち、辺りに闇が落ちてくる頃に、やっと人の波が途切れた。
泣きながら感謝する人も、マリアローゼを拝む人もいたが、聖女じゃないと分かっていただけただろうか?
不安になりつつも、マリアローゼは最後に集まった人々に言う。

「わたくしは聖女じゃなく、薬で皆様を手当てしましたので、
薬の効果が切れればまた苦しみが始まるかもしれません。
力が及ばない事、大変申し訳なく思います」

出来るだけ伝わりやすくする為に、丁寧すぎない言葉を選んでマリアローゼはお辞儀をした。

「いつか、皆さまの手に出来るようなお薬を作ります。
どうか、その時まで待っていてください」

「頭を下げないでください…そのお気持だけでじゅうぶんです……」

この教会に勤める金髪の少女、エリサが胸の前で指を組んで泣きながら言うと、
周囲の人々もそうだそうだと同調した。

「そろそろ戻るお時間です」

キリの良い所でウルススが言い、ひょいとマリアローゼを抱き上げた。
強引にでも断ち切らないと、賛美する声が止まないだろうと思ってのことでもある。
ルーナは慌てて道具をしまうと、鞄を持って後に続く。
先を越されたシルヴァインは、ウルススの考えを悟って、そのままマリアローゼを任せることにした。

盾にするなら大きい方がいいからな…

等と思いつつ、油断せずにカンナと並んでウルススの前を歩く。
イノートはマリアローゼの献身と、マリアローゼの言葉を考え、それでもそれこそが聖女ではないかと思い始めていた。
それなら、彼女の望むように神聖国に囚われるような一生は送らせてはいけないのかもしれない。
相変わらずうんうんと悶々しつつ、ウルススの大きな背中の向こうにいる少女を思いながら、
イノートは一番後ろを歩いて行った。
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