悪役令嬢? 何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ひよこ1号

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初めての景色

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通常より大きな6頭立ての馬車と、それを取り囲むように馬で移動する騎士達が珍しいのか、大通りを歩く人々が時折足を止めて馬車を見ている。
国としては歓迎していない為、今回の聖女候補を招聘する話は王国では周知されていない。
貴族達は知っていても、庶民には凡そその話は回ってはいなかった。
迎えに来た使者達が気を悪くするのも最もといえば最もである。
どの時代のどの国でも、大抵は歓迎されていただろう。
お祭り騒ぎになる事もしばしばで、過去の文献には壮麗な見送りの様子も描写されている。
ところが今回は、貴族を始め、庶民に至るまで個人的な接触も無ければ歓待もない。
折角やってきたのに無視されたような形である。

ある意味マリアローゼにはこの状況は有り難かった。
勿論そうなるように、王と王妃と父の手回しがあったのも分かってはいる。
王都の中心に立つ王城を出て北の大通りを進み、北の大門をくぐると王都をぐるりと囲む城壁の外に出る。
そこからは街道沿いに小麦畑が広がっていた。
まだ青い穂がさやさやと風に揺られていて、初めて目にする光景にマリアローゼは目を輝かせる。

「美しい景色ですわねえ……」

何の変哲もない畑を絶賛するマリアローゼに、カンナは嬉しそうに笑いかける。

「この辺りの小麦畑は広いので、しばらくこの風景が続きますよ。
秋になると黄金色に染まって、それもまた綺麗なので、季節が変わったらお見せしたいです」

「まあ……是非見てみたいです」

マリアローゼは大きな目をぱちぱち瞬かせて、にっこりと笑い返した。

車窓を見るのは前世でも好きだったし、今も変わらない。
時折通り過ぎていく旅人や、畑作業をしている農夫、冒険者や傭兵に守られながら旅をしている商人。
様々な人々が、街道ですれ違って行く。
ずっと見ていたいと思っていたマリアローゼだったが、心地よい僅かな振動と背中に感じるぬくもりに瞼が重くなり、気付かぬ内にすやすやと眠ってしまっていた。
目が覚めると布団の中にいたので、マリアローゼはぼんやりと夢かしら…などと考えていた。
ゆっくりと起き上がると、見覚えのない部屋で、母が近くのソファーセットに座って、本を読んでいる。

「起きたのね、ローゼ」

気配に気付いて、本から顔を上げた母が微笑む。
エイラがさっとやってきて、身だしなみを整えてくれたので、マリアローゼは母の隣へと移動した。
ルーナがそれに会わせるように、紅茶を持ってきて、マリアローゼとミルリーリウムの前に置く。

「ありがとうルーナ」

マリアローゼは喉が渇いていたのに気がついて、紅茶をこくりこくりと飲み始めた。

「いつの間にか寝てしまいました…もっとお外を見ていたかったのに……」

拗ねたように唇を尖らせるマリアローゼに、母がふふふと笑って優しく髪を撫でる。

「まだ旅は始まったばかりですよ。これからも沢山色々な景色を見れるのですから、夜は早目にぐっすりと寝ましょうね」

ハッと気がついて外を見ると、まだ夕暮れである。
オレンジ色の光に、小さな町と森が映し出されていた。

「お母様、町の中をお散歩して来ても宜しいですか?」
「そうね…カンナさんと、ルーナとシルヴァインも一緒に行って貰いましょう」

母が言い終わると、エイラが部屋の外へと向かった。
ルーナは、マリアローゼが馬車の中に持ち込んでいた手荷物をさっと取ってきて、待機している。
幼くても出来る侍女なのである。

「行こうか、お姫様」

部屋に入ってくるなり、仰々しい態度で手を差し出してくるシルヴァイン。
きっと体力があり余ってるんだろうなぁ、とマリアローゼは失礼な事を思いつつ、差し出された手に小さな手を重ねる。

「はい、お兄様」

兄の後ろから入室したエイラは、ぺこりと頭を下げて見送り、廊下で待機していたカンナとウルスス、もう一人神聖国の騎士イノートと合流して外へ向かう。

宿は高級なのだろう、貴族と召使らしき人達もいて、調度品や飾られた絵画も質が良さそうな物だ。
1階にはレストランも併設されている。
木材とガラスで出来た扉を開けると、目の前が街道で、道の両脇にはずらりと店が立ち並んでいた。
王都よりは鄙びているし、大きい町ではなさそうだが、人通りも少なくはない。

「この町の町長にさっき会ってきたけど、聖女に会いに来る人々は追い返してるそうだよ」
「まあ…やはりそうなのですね」

「……それは、聖女様のご負担にならないようにする為です」

黙っていようかいまいかという逡巡した間の後にイノートが口を挟んだ。
本来なら口を出すべきではないのを分かりつつ、神聖国が無慈悲だと思われたくない為に弁護したのだ。
マリアローゼは足を止めて、イノートを振り返った。

「分かっておりますわ。お心遣い感謝致します。
でも、私は聖女ではありませんの。
王城でもお聞き及びかと思いますが、招聘されたので伺うだけですし、
聖女を頼りにここまで来た方々にも説明する責があると思いますの。
我侭をお許しくださいませ」

マリアローゼは丁寧に説明すると、ちょこんとお辞儀をしてみせる。
シルヴァインは、イノートに対して冷たい視線を浴びせたままだったが、マリアローゼを見ると表情を和らげた。

「教会へ行こう。そこに留まってもらっているから。もう諦めた人もいるかもしれないけれど」
「はい、お兄様」
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