悪役令嬢? 何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ひよこ1号

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神聖国への旅立ち

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スヤスヤと健やかに眠り、目覚める。
幼女の朝は早い…。

胸元にいるロサをふよふよすると、もぞもぞとロサが這い出してきた。
じゃれるように頬に身体を寄せたり、指や掌を潜り抜けたり
まるで遊んでいるかのように見えて、元気そうね、とマリアローゼも微笑む。
枕元の箱を引き寄せて中身を見ると、エレパースから届けられたハーブや薬草と、
栄養価の高い木の実の他に、クッキーが入ったクッキー缶も入れてある。
缶をあければ中身はまだ半分くらい残っていた。
2,3枚箱に入れると缶をしめて、缶は枕元に置き、箱の中にロサを放つ。
ロサは箱の中でもそもそ動きながら、食事を始めた。
箱の蓋を閉じて、ベッドの下に下ろすと、不寝番をしていたナーヴァに声をかけて、
朝の支度を手早く済ませる。

今日の昼にはルクスリア神聖国へと旅立つのだ。

何時もどおりの時間に迎えに来たカンナと共に庭を走り、
戻っては湯浴みをして、朝食へ向かう。
いつもより静かでしんみりとした朝食を終えて、部屋に戻る。

町へ行きたいと願ってはいたが、それを飛び越えての長い旅路になってしまった。
しかも危険も伴う旅路だ。

でも私は絶対に此処へ戻ってくる。

柔らかいベッドに腰掛けて決意を新たにして、足元の箱からロサを胸元に戻した。


「行って参ります、お父様、お兄様達」

ずらりと並ぶ大勢の従業員と、家族に、マリアローゼは丁寧にお辞儀をして見せた。
父はもう涙目である。

「嫌だ…やっぱりやめよう……」
「旦那様」

フラフラと手を伸ばして近寄ろうとするジェラルドを、ランバートがスッと後ろから羽交い絞めにする。
貴族たりえない狼狽をする父に、マリアローゼは溜息を漏らした。

「お母様もわたくしも、きちんと戻って参りますので、お願いした色々をちゃんとこなしてくださいませね」

「んぐぐ……私も共に行っては駄目だろうか!」
「駄目に決まっておりますわ」

何とか前に出ようとするものの、ランバートも神妙な面持ちで邪魔している。
静かな攻防を目に、母はふふふっと笑って華麗にスルーして馬車に乗り込んだ。
とても悲しい気持だったのに、父の振る舞いでめちゃくちゃ冷静になるマリアローゼ5歳である。

「とにかく!わたくしの心配は無用です。ランバート、父を宜しくお願いいたしますね」
「承りました」

まだ諦めない父を押し止める為に、ランバートは会釈しか出来ないが、
返答を見て、マリアローゼはシルヴァインに抱き上げられ馬車に乗り込んだ。

「シルヴァインと私が入れ替わってもバレないのでは?」
「往生際が悪いですわ!」
「残念ですが、お譲りする気はありません」

娘と息子に素気無く却下されて、漸くジェラルドは手を下ろした。
乗り込んだシルヴァインが笑顔のまま素早く扉を閉めて錠を下ろすと、
マリアローゼを抱きしめたまま母の隣の椅子に座る。
座った所で、ノクスが壁を叩いて御者へ合図をして、馬車がゆっくりと動き出す。
遠くで妻と娘の名を呼ぶ悲しい父の声がした。

フィロソフィ公爵家の旅馬車は普通の馬車と違い、とても広く作られている。
現世で言うところのキャンピングカーに近いだろうか。
出入り口が左側にあり、右寄せに長椅子が4脚、向かい合わせになるように設えてある。
簡易的なトイレと調理場も有り、長旅に適するよう作られていた。
とはいえ、基本的には街道沿いなので高級な宿に泊まるため殆ど出番はないのだが。

馬車には母の向かいに侍女のエイラ、その横にカンナ。
二人と背中合わせにアルベルトとテースタ、その向かいにノクスとルーナが同乗している。
一番後ろだけ三人用の椅子なのだが、シルヴァインはマリアローゼを膝から下ろす気はなさそうだ。
右側には扉が無い為、大きな窓がついている。
半分だけ持ち上げられるようになっているガラス窓だが、今は閉まっている。
内側と外側に鎧戸もついているので、閉めてしまうと外は見えない仕様だ。

マリアローゼはシルヴァインの膝の上から窓の外を眺めた。
町の中を走って、まずは王城へと向かう。
使者達と合流して、ルクスリア神聖国へと旅立つ為だ。
王城の門を潜り抜けて、馬車溜まりへと入っていく。
荷を乗せた馬車は門の前で待機して、王城へは馬で入った護衛騎士と神殿騎士が馬車の周囲を固める。
本来なら国を挙げて、となる所だが、表向きには今回の招聘は歓迎されていない。
よって王と王妃は見送りには出て来ず、マリアローゼも馬車から挨拶を受けるだけの予定だった。
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