悪役令嬢? 何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ひよこ1号

文字の大きさ
上 下
20 / 357
連載

---二人の王子

しおりを挟む
公爵家一家に見送られて、ロランドは王城へ向かう馬車に揺られていた。
毎日新鮮な思いで、マリアローゼとも、マリアローゼの兄達とも楽しく過ごしたのを反芻し…。
初対面の無作法な自分を思い出すと途端に恥ずかしくなったりもして。
それに、使用人達への傲慢な態度や、不遜な物言いも見直す切欠になった。
マリアローゼは誰に対しても、丁寧に淑女らしく振る舞う。
同じ年頃の令嬢を見てきたが、振りだけでない、本物の淑女らしさがあるように思えた。
視点も斬新で、いつも鮮やかな感心や感動を与えてくれる。

やはり、兄上と結婚してしまうのだろうか?

いや…でもローゼは誰にも嫁がないと言っていたか。

それは兄も自分も、彼女に慕われていないという事で。
同じ立ち位置にいるのだけれど、何とも悲しいような残念な気持である。

王城へと馬車が入っていくと、騎士達がきびきびと敬礼する。
城ではなく王宮の入口で、馬車をおりると、まずは父の元へ向かう。
今日は、母と共に来賓室にいるとの事で、そちらに足を向けた。
公爵邸を出発する前に、先触れの使者は既に王城へ行かせておいたのだ。

「ただいま戻りました」

入室の許可を得て挨拶をすると、父と母が頷く。

「公爵家は如何でした?」
「とても勉強になり、楽しく過ごせました」

母の問いかけに答えると、母は扇の向こうで目を細めて笑った。

「僕が犯した小さな過ちでも、多くの人々が迷惑を被る事が分かりました。
しかも先日の過ちは小さなものでなく、大変な迷惑を皆にかけたと思います」

母は頷き、父王はふむ、とじっくり息子を眺めた。

「良い時間を過ごせたようだな」
「はい。とても貴重な時間でした」

夫婦が王と王妃でなく、両親として笑い会うのを初めて見た気がして、ロランドは目を丸くした。
今まで、他の人々の甘言や讒言に惑わされて、目が曇っていたと感じる。

父上と母上の顔さえ、まともに見えていなかったのか……

無邪気に笑いあう公爵家のマリアローゼを中心にした家族はとても温かかった。
だが、自分の父と母も、きちんと自分を見てくれていた。
今やっと気づいたのだ。

「父上、母上、宜しいですか」

ノックと共に、兄の声がしてロランドは扉を振り向いた。
優秀な兄が先触れを出さないとは、珍しい事もあるものだ。

「入りなさい」

部屋に入ると、ロランドにまず目を留めて、兄が挨拶をする。

「失礼致します。
ロランド、お帰り」

「ただ今戻りました、兄上」

「父上、母上、マリアローゼ嬢が神聖国に招聘されたというのは真実ですか?」

「えっ?ローゼが?」

挨拶もそこそこに、焦ったように言う兄に、ロランドが思わず言うと、
兄が呼びかけに僅かに眉を顰めた。

そうか。愛称で呼んだから…

気づいて、ロランドは口を噤む。
昔なら優越感に浸ったかもしれないが、今はそんな気分になれなかった。

「ええ、そうね。手紙が届いたのは昨日だったかしら。
手紙と共に迎えを寄越している筈ですから、2,3日中には迎えが到着しますわね」

後半は隣にいる王に確認するように話しかける王妃に、アルベルトが言い募った。

「私も神聖国に同道させて下さい」
「立場を考えた上での発言か?」

厳しい口調で王が言うと、アルベルトはこくりと頷いた。
王妃も王も、厳しい眼差しを兄に向けている。

「失礼ながら申し上げます。マリアローゼ嬢は我が国にとって重要な人物です。
みすみす他国に渡す訳にはいかぬかと存じます。
聖女でなければよし、もし聖女であるとするなら
私の婚約者という肩書きで連れ帰る事が出来ましょう」

「ふふ、強引な言い分だこと」

王妃が扇を口に当てて笑うと、窘めるように王が見遣った。

「危険な旅になるやもしれんぞ」
「危険は承知の上です」

「ふむ。フィロソフィ公爵家は王家との婚約を望んでいないのは分かっているな?
となれば先制して、婚約者と名乗る事は許されぬ。
神聖国に至り、聖女の審議を終えた後に、聖女なれば婚約を許そう。
マリアローゼも一時的に受け入れよう。
だが、最初から王位継承者として同道を許す訳には参らぬ。
そなたはただの付き人として向かう覚悟はあるか?」

「構いません。何もなければ、身分を伏せたまま帰途につきます。
私の身に何かあっても、捨て置いて構いません。ロランドがおります」

「兄上…」

あんなに欲しかった王位が、目の前にあっても嬉しくはない。
決然とマリアローゼを護る為に熱弁を奮う兄が眩しく感じた。

「兄上、どうか無事にお戻り下さい。
 そしてどうか、マリアローゼ嬢をお守り下さい」

驚いたように、兄が振り返る。
そして、公爵家の兄弟のように、優しい眼差しがロランドに向けられた。

「頑張るよ。父上と母上を頼む」

まだ幼い兄弟が目の前で誓い合う姿に、王妃は目を細めた。
何度言い聞かせても、兄の無関心と弟の嫉妬が止まなかった時期が嘗てはあったのだ。
マリアローゼという一人の少女が、まるで歯車を噛み合わせたように
良い方向へ動かしているような、そんな気がする。
そして、胸に温かいものが満ちるのを感じた。

幼いのに、父と母を頼む、だなんて。

愛らしさと涙ぐましさに胸が満たされて、同時にマリアローゼを失う訳にはいかないとカメリアは改めて思う。

「では、行ってらっしゃい。貴方にはテースタを付けるけれど、出来る事は何でも自分でするように。
それから、勇気と蛮勇を履き違えない事、いいですね?」
「承知致しました、母上」
しおりを挟む
❤キャライメージはPixivにあるので、宜しければご覧になって下さいませ
感想 135

あなたにおすすめの小説

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。