悪役令嬢? 何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く

ひよこ1号

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---二人の王子

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公爵家一家に見送られて、ロランドは王城へ向かう馬車に揺られていた。
毎日新鮮な思いで、マリアローゼとも、マリアローゼの兄達とも楽しく過ごしたのを反芻し…。
初対面の無作法な自分を思い出すと途端に恥ずかしくなったりもして。
それに、使用人達への傲慢な態度や、不遜な物言いも見直す切欠になった。
マリアローゼは誰に対しても、丁寧に淑女らしく振る舞う。
同じ年頃の令嬢を見てきたが、振りだけでない、本物の淑女らしさがあるように思えた。
視点も斬新で、いつも鮮やかな感心や感動を与えてくれる。

やはり、兄上と結婚してしまうのだろうか?

いや…でもローゼは誰にも嫁がないと言っていたか。

それは兄も自分も、彼女に慕われていないという事で。
同じ立ち位置にいるのだけれど、何とも悲しいような残念な気持である。

王城へと馬車が入っていくと、騎士達がきびきびと敬礼する。
城ではなく王宮の入口で、馬車をおりると、まずは父の元へ向かう。
今日は、母と共に来賓室にいるとの事で、そちらに足を向けた。
公爵邸を出発する前に、先触れの使者は既に王城へ行かせておいたのだ。

「ただいま戻りました」

入室の許可を得て挨拶をすると、父と母が頷く。

「公爵家は如何でした?」
「とても勉強になり、楽しく過ごせました」

母の問いかけに答えると、母は扇の向こうで目を細めて笑った。

「僕が犯した小さな過ちでも、多くの人々が迷惑を被る事が分かりました。
しかも先日の過ちは小さなものでなく、大変な迷惑を皆にかけたと思います」

母は頷き、父王はふむ、とじっくり息子を眺めた。

「良い時間を過ごせたようだな」
「はい。とても貴重な時間でした」

夫婦が王と王妃でなく、両親として笑い会うのを初めて見た気がして、ロランドは目を丸くした。
今まで、他の人々の甘言や讒言に惑わされて、目が曇っていたと感じる。

父上と母上の顔さえ、まともに見えていなかったのか……

無邪気に笑いあう公爵家のマリアローゼを中心にした家族はとても温かかった。
だが、自分の父と母も、きちんと自分を見てくれていた。
今やっと気づいたのだ。

「父上、母上、宜しいですか」

ノックと共に、兄の声がしてロランドは扉を振り向いた。
優秀な兄が先触れを出さないとは、珍しい事もあるものだ。

「入りなさい」

部屋に入ると、ロランドにまず目を留めて、兄が挨拶をする。

「失礼致します。
ロランド、お帰り」

「ただ今戻りました、兄上」

「父上、母上、マリアローゼ嬢が神聖国に招聘されたというのは真実ですか?」

「えっ?ローゼが?」

挨拶もそこそこに、焦ったように言う兄に、ロランドが思わず言うと、
兄が呼びかけに僅かに眉を顰めた。

そうか。愛称で呼んだから…

気づいて、ロランドは口を噤む。
昔なら優越感に浸ったかもしれないが、今はそんな気分になれなかった。

「ええ、そうね。手紙が届いたのは昨日だったかしら。
手紙と共に迎えを寄越している筈ですから、2,3日中には迎えが到着しますわね」

後半は隣にいる王に確認するように話しかける王妃に、アルベルトが言い募った。

「私も神聖国に同道させて下さい」
「立場を考えた上での発言か?」

厳しい口調で王が言うと、アルベルトはこくりと頷いた。
王妃も王も、厳しい眼差しを兄に向けている。

「失礼ながら申し上げます。マリアローゼ嬢は我が国にとって重要な人物です。
みすみす他国に渡す訳にはいかぬかと存じます。
聖女でなければよし、もし聖女であるとするなら
私の婚約者という肩書きで連れ帰る事が出来ましょう」

「ふふ、強引な言い分だこと」

王妃が扇を口に当てて笑うと、窘めるように王が見遣った。

「危険な旅になるやもしれんぞ」
「危険は承知の上です」

「ふむ。フィロソフィ公爵家は王家との婚約を望んでいないのは分かっているな?
となれば先制して、婚約者と名乗る事は許されぬ。
神聖国に至り、聖女の審議を終えた後に、聖女なれば婚約を許そう。
マリアローゼも一時的に受け入れよう。
だが、最初から王位継承者として同道を許す訳には参らぬ。
そなたはただの付き人として向かう覚悟はあるか?」

「構いません。何もなければ、身分を伏せたまま帰途につきます。
私の身に何かあっても、捨て置いて構いません。ロランドがおります」

「兄上…」

あんなに欲しかった王位が、目の前にあっても嬉しくはない。
決然とマリアローゼを護る為に熱弁を奮う兄が眩しく感じた。

「兄上、どうか無事にお戻り下さい。
 そしてどうか、マリアローゼ嬢をお守り下さい」

驚いたように、兄が振り返る。
そして、公爵家の兄弟のように、優しい眼差しがロランドに向けられた。

「頑張るよ。父上と母上を頼む」

まだ幼い兄弟が目の前で誓い合う姿に、王妃は目を細めた。
何度言い聞かせても、兄の無関心と弟の嫉妬が止まなかった時期が嘗てはあったのだ。
マリアローゼという一人の少女が、まるで歯車を噛み合わせたように
良い方向へ動かしているような、そんな気がする。
そして、胸に温かいものが満ちるのを感じた。

幼いのに、父と母を頼む、だなんて。

愛らしさと涙ぐましさに胸が満たされて、同時にマリアローゼを失う訳にはいかないとカメリアは改めて思う。

「では、行ってらっしゃい。貴方にはテースタを付けるけれど、出来る事は何でも自分でするように。
それから、勇気と蛮勇を履き違えない事、いいですね?」
「承知致しました、母上」
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