ざまぁ返しを全力回避したヒロインは、冒険者として生きていく~別れた筈の攻略対象たちが全員追ってきた~

ひよこ1号

文字の大きさ
上 下
87 / 89

妙な生き物と反省する二人

しおりを挟む
次の部屋は、罠も鍵も無く、王子が開けると中には何もいなかった。
最初はそう思ったのだが、何だか空気の流れがおかしいような気がして、私は二人が入るのを手で制する。

じっと目を凝らすと、ふわりふわりと薄い光の塊のような物が漂っている。

「見えますか?」
「ええ、僅かに」
「何だろう……見た事ないな」

うーん?
これは魔物なのか、精霊みたいなものなのか?
この世界での扱いもよく分からない。

「投げてみるか?」
「いえ、私が近づいてみますので、一応援護に入れるようにしてて下さい」

王子は手に持った棍棒を投げたそうにしている。
いきなり投げて敵対するよりは、中立か敵対か知りたい。
中立ならばわざわざ戦う必要もないのだ。
戦力は温存するに限る。
何にしても近づかないことには、宝箱も探せない。

だが、ふわふわは特に私に反応する事も無く、ただ漂っているだけ。
ちょっと触れてみようと手を伸ばしたら、それが落ちた。

「えっ?」

触った途端実体化して、ふさふさの丸い物になって、地べたに落ちている。
周囲のふわふわは特に攻撃してこない。
地べたの丸い生き物?はみゅ~と鳴き声を発した。
思わず拾い上げると、毛の中に目と口だけある生物だ。

「みゅ~」
「お前は一体何だ……」
「みゅ~」
「じゃあ、みゅーって呼ぶね」

私がそういうと、嬉しそうにジャンプして私の肩に乗る。
他にもふわふわはいるけど、あんまり連れ帰ってもな……。
メガネと王子を振り返るが、二人ともあまり興味はなさそうだ。
可愛いのに。

「奇妙な動物?ですね?」
「精霊というか霊体?ではないのだな」
「みたいですね。かと言って魔物でもなさそうですけど……とりあえず宝箱開けますね」

罠を解除して鍵を開けると、中には、銀色の小さな短刀《ナイフ》が入っていた。
おお、攻撃の通じない系の奴にも通じそうな武器だ。
小さいけど。
まあ、悪くはない戦利品だな。
ゴブ達がいきなり5匹も居ると思わなかったし。
何処かの部屋から出てきて大集合してただけかもしれないけどね。
王子の背負い袋に戦利品を入れて、部屋を後にする。

部屋から出て左に進むと、左右に道が続いている。
とりあえず、そのまま真っ直ぐ突き当りまで行くと、角で左に曲がる道。
ちなみに今はメガネを力縄《ストレングス・ロープ》で繋いで歩かせているので、地図作成《マッピング》は王子にやらせている。
基本的には地図作成《マッピング》は後衛の仕事だ。
斥候《スカウト》が行う事もあるが、先行しなければいけないのと、両手を開けておかないと対処できない事が多々あるからで。
同じく前衛も基本的にはすぐに戦闘に入れるように武器を携帯しているし、斥候《スカウト》のフォローに入る役目もある。
地図作成《マッピング》を斥候《スカウト》が行う場合、先行して罠《トラップ》の有無を調べたりしつつになるので、調べて進んで、地図作成《マッピング》という形になり時間がかかるのだ。
なので、基本的には知識系の技能が高い魔術師が安定、だと私は思っている。
だが、それと同時に技能《スキル》に職制限がないこの世界においては、基本を知っている事は有利に繋がる。
出来るならば全員が、基礎の技能《スキル》は覚えていく方がいい。

角を左に行けば上に続く階段方面の道と繋がる筈だ。
だが、メガネが曲がり角から一歩そちらに進んだ時に、罠《トラップ》が発動した。
ジャキン!という音と共に、床から鉄の棘が生える。

「わっ!」

慌てて後ずさったメガネを、私はひらりと回避する。
メガネはその勢いのまま、王子を巻き込んで倒れた。

「あー革靴《ブーツ》、良いのに替えておいて良かったですね。革だけのだったら、足怪我してたかも」
「あ、あわわ・・・」

メガネは震えた。
王子は巻き込み転倒から起き上がる。
私はメガネに手を貸して、立たせた。
王子は元々鉄鎧の装備なので頑丈だが、私とメガネはそうでもない。
横から貫かれたら痛いだろうな。

「さ、どうします?もう一巡しますか?」

力縄《ストレングス・ロープ》をぷらぷらさせて聞くと、さっと顔色を悪くした二人が無言で左右に首を振る。
やっぱり神経磨り減るよね。
私で言えば、目隠し状態で罠《トラップ》がある道を進まされるくらいにしんどい。

「……悪かった」
「……もうしません」

二人の謝罪を受け取った私は、メガネの腰から力縄《ストレングス・ロープ》を外して丸く纏めて縛ってからベルトに下げる。
そして、罠《トラップ》を飛び越えて、真っ直ぐ進んだ。
王子とメガネは転ぶのが怖いのか、廊下の端の隙間をそろそろカニ歩きしてこちら側に来る。
慎重なのは良い傾向だ。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

処理中です...