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贈物じゃないよ目利きだよ
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市場を巡っていると、王子が私を呼び止めた。
「ミア……」
「もしかして、見つけました?」
「うむ」
私と王子は短い会話を終えると、王子がある露店の前に戻った。
装飾品を並べて売っている店だ。
この前とは違う店で、こちらは首飾《ネックレス》や耳飾《イヤリング》などがメインのよう。
はあ、綺麗ですね。
私は着けたいとか欲しいとか今は思わないけど。
ついでに違いも分からん。
王子は幾つか手に取って見ている。
店主は微笑を浮かべつつ、耳当たりの良い言葉を並べて、巧みに購買意欲を煽っていた。
幾つかの商品に加えて、王子は目敏く店主の後ろの箱の中の物まで指で示す。
「それも売り物か?」
「おお、お客様、御目が高い!これは他の商品より少々値が張りまして……」
えー?
明らかに高い値段で売ろうとしていない?
「銀貨50枚……といったところでしょうか」
「ふむ。全て買いたいが、持ち合わせが金貨1枚しかないからな……」
金貨、と聞くと店主の顔に喜色が浮かぶ。
さて、どうするか、と値踏みするように王子の手にしている商品と、新たに奥から出した商品を見る。
銀貨50枚を30枚までまければ、金貨が手に入るのだ。
多少高めな金額を言っていたのか、決断は早かった。
「ええ、ええ、ようございます。まとめて金貨一枚で、お売り致しましょう。お嬢さんも幸せ者ですな」
ねっとりとした笑みは不快だが、私はにこっと微笑み返した。
「はい。嬉しいです!」
そのやり取りに、何だかノーツはしょげているようだ。
何で?
メガネも私と王子を忙しなく見比べている。
親の金で買うの?みたいな事を言われたのに、明らかに金貨はフライングだからだろう。
けれど、空気は読んだようだ。
少し離れた場所で、メガネが問い質してきた。
「あの……昨日、ミアは親の金で、その…買う物ではないと言っていませんでしたか?」
気まずそうに言うメガネに、私は笑いかける。
「良く出来ました。これは何も私が身に着けるものじゃないんですよ」
「そうなのか?」
何故か驚いた様に声を上げたのは、ノーツだ。
さっきまでしょんもりしてたのに。
少し元気になっている。
「ええ。アルは目利きが出来るので、きちんとした品を見つけたら、あるべき場所に戻してあげるんですよ」
まあ転売ですけどね。
転売と言うと、現代では悪い事のように言われていたなぁ。
いや、実際に悪い人達も大勢いたと思う。
例えば、買占めをして価格を吊り上げる人とか。
でも骨董品屋のように、価値のあるものを見抜いて、それなりの値で売るのは悪い事とは思えない。
労せずに金儲けが出来るという点では忌避されるのかもしれないが。
正当な価格、正当な価値を見抜ける者の特権でもある。
真贋を見極める目というのは、一朝一夕に養えるものではないからだ。
それに、見極めに失敗すれば損もする。
だから、私も王子のお小遣い範囲なら特に文句は言わない。
変に散財されたら嫌だけど、お金稼ぎの大変さを知った王子にその心配はなさそう。
「ああ、そういう事でしたか……」
メガネも納得した。
ついでにメガネをクイッとした。
それ、何か意味あるの?
ずれやすいの?
「サーフって目が悪いの?」
「悪い、と言うほどではありませんが、良くはないです」
「だったら、眼鏡の予備も買っておく?片眼鏡《モノクル》でもいいけど」
でも、お高いんでしょう?
そう言いたげな顔でメガネは私を見る。
ええ、お高いですよね。
「高いけど、先行投資っていうか……戦いの最中に割れたら困るじゃない?」
「……う……想像したくはないですが、…それは確かにそうですね」
パリンして目に刺さった所でも想像してしまったのだろうか。
割れなくても皹が入るだけで、十分視界は塞がれる。
ここぞという時に、そんな状況に陥って、メガネメガネ…みたいにはなりたくないよね。
命かかってますからね。
「じゃあ明日の午後、宝石商のところで見繕ってもらいましょう。ちょうど売り物もあるし」
「分かった」
「分かりました」
素直に頷く二人と、考え込むノーツ。
「その宝石商とはリーメント商会か?」
「ええ、良くご存知ですね」
「俺も行く事になっているからな……一緒に行ってもいいか?どうも、ああいう店は慣れない」
ノーツは眉を下げて後ろ頭に手をやっている。
確かに、似合わなさそう。
キラキラしてるもんね、あそこ。
「緊張しますよね。別に構いませんよ。何ならお昼も何処かで一緒に食べましょう」
「……そうか!それはいいな」
勝手に段取りを決められて、王子とメガネは少し不満そう。
君達のような生まれながらのお貴族様にはこの感覚が分からんか。
一人で行くと場違いで、帰りたくなるんだよ!
「じゃあ、折角だし、ノーツさんのおすすめのお店行きましょう。いつも私の宿屋で食べてましたからね。明日は賄いを遠慮しておくので、別のお店に行けますよ」
二人に言えば、興味が湧いたのかぱあっと笑顔になる。
単純でよろしい。
リサさんのお料理は毎日食べても飽きないけどね!
「ミア……」
「もしかして、見つけました?」
「うむ」
私と王子は短い会話を終えると、王子がある露店の前に戻った。
装飾品を並べて売っている店だ。
この前とは違う店で、こちらは首飾《ネックレス》や耳飾《イヤリング》などがメインのよう。
はあ、綺麗ですね。
私は着けたいとか欲しいとか今は思わないけど。
ついでに違いも分からん。
王子は幾つか手に取って見ている。
店主は微笑を浮かべつつ、耳当たりの良い言葉を並べて、巧みに購買意欲を煽っていた。
幾つかの商品に加えて、王子は目敏く店主の後ろの箱の中の物まで指で示す。
「それも売り物か?」
「おお、お客様、御目が高い!これは他の商品より少々値が張りまして……」
えー?
明らかに高い値段で売ろうとしていない?
「銀貨50枚……といったところでしょうか」
「ふむ。全て買いたいが、持ち合わせが金貨1枚しかないからな……」
金貨、と聞くと店主の顔に喜色が浮かぶ。
さて、どうするか、と値踏みするように王子の手にしている商品と、新たに奥から出した商品を見る。
銀貨50枚を30枚までまければ、金貨が手に入るのだ。
多少高めな金額を言っていたのか、決断は早かった。
「ええ、ええ、ようございます。まとめて金貨一枚で、お売り致しましょう。お嬢さんも幸せ者ですな」
ねっとりとした笑みは不快だが、私はにこっと微笑み返した。
「はい。嬉しいです!」
そのやり取りに、何だかノーツはしょげているようだ。
何で?
メガネも私と王子を忙しなく見比べている。
親の金で買うの?みたいな事を言われたのに、明らかに金貨はフライングだからだろう。
けれど、空気は読んだようだ。
少し離れた場所で、メガネが問い質してきた。
「あの……昨日、ミアは親の金で、その…買う物ではないと言っていませんでしたか?」
気まずそうに言うメガネに、私は笑いかける。
「良く出来ました。これは何も私が身に着けるものじゃないんですよ」
「そうなのか?」
何故か驚いた様に声を上げたのは、ノーツだ。
さっきまでしょんもりしてたのに。
少し元気になっている。
「ええ。アルは目利きが出来るので、きちんとした品を見つけたら、あるべき場所に戻してあげるんですよ」
まあ転売ですけどね。
転売と言うと、現代では悪い事のように言われていたなぁ。
いや、実際に悪い人達も大勢いたと思う。
例えば、買占めをして価格を吊り上げる人とか。
でも骨董品屋のように、価値のあるものを見抜いて、それなりの値で売るのは悪い事とは思えない。
労せずに金儲けが出来るという点では忌避されるのかもしれないが。
正当な価格、正当な価値を見抜ける者の特権でもある。
真贋を見極める目というのは、一朝一夕に養えるものではないからだ。
それに、見極めに失敗すれば損もする。
だから、私も王子のお小遣い範囲なら特に文句は言わない。
変に散財されたら嫌だけど、お金稼ぎの大変さを知った王子にその心配はなさそう。
「ああ、そういう事でしたか……」
メガネも納得した。
ついでにメガネをクイッとした。
それ、何か意味あるの?
ずれやすいの?
「サーフって目が悪いの?」
「悪い、と言うほどではありませんが、良くはないです」
「だったら、眼鏡の予備も買っておく?片眼鏡《モノクル》でもいいけど」
でも、お高いんでしょう?
そう言いたげな顔でメガネは私を見る。
ええ、お高いですよね。
「高いけど、先行投資っていうか……戦いの最中に割れたら困るじゃない?」
「……う……想像したくはないですが、…それは確かにそうですね」
パリンして目に刺さった所でも想像してしまったのだろうか。
割れなくても皹が入るだけで、十分視界は塞がれる。
ここぞという時に、そんな状況に陥って、メガネメガネ…みたいにはなりたくないよね。
命かかってますからね。
「じゃあ明日の午後、宝石商のところで見繕ってもらいましょう。ちょうど売り物もあるし」
「分かった」
「分かりました」
素直に頷く二人と、考え込むノーツ。
「その宝石商とはリーメント商会か?」
「ええ、良くご存知ですね」
「俺も行く事になっているからな……一緒に行ってもいいか?どうも、ああいう店は慣れない」
ノーツは眉を下げて後ろ頭に手をやっている。
確かに、似合わなさそう。
キラキラしてるもんね、あそこ。
「緊張しますよね。別に構いませんよ。何ならお昼も何処かで一緒に食べましょう」
「……そうか!それはいいな」
勝手に段取りを決められて、王子とメガネは少し不満そう。
君達のような生まれながらのお貴族様にはこの感覚が分からんか。
一人で行くと場違いで、帰りたくなるんだよ!
「じゃあ、折角だし、ノーツさんのおすすめのお店行きましょう。いつも私の宿屋で食べてましたからね。明日は賄いを遠慮しておくので、別のお店に行けますよ」
二人に言えば、興味が湧いたのかぱあっと笑顔になる。
単純でよろしい。
リサさんのお料理は毎日食べても飽きないけどね!
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