上 下
75 / 89

贈物じゃないよ目利きだよ

しおりを挟む
市場を巡っていると、王子が私を呼び止めた。

「ミア……」
「もしかして、見つけました?」
「うむ」

私と王子は短い会話を終えると、王子がある露店の前に戻った。
装飾品を並べて売っている店だ。
この前とは違う店で、こちらは首飾《ネックレス》や耳飾《イヤリング》などがメインのよう。
はあ、綺麗ですね。
私は着けたいとか欲しいとか今は思わないけど。
ついでに違いも分からん。

王子は幾つか手に取って見ている。
店主は微笑を浮かべつつ、耳当たりの良い言葉を並べて、巧みに購買意欲を煽っていた。
幾つかの商品に加えて、王子は目敏く店主の後ろの箱の中の物まで指で示す。

「それも売り物か?」
「おお、お客様、御目が高い!これは他の商品より少々値が張りまして……」

えー?
明らかに高い値段で売ろうとしていない?

「銀貨50枚……といったところでしょうか」
「ふむ。全て買いたいが、持ち合わせが金貨1枚しかないからな……」

金貨、と聞くと店主の顔に喜色が浮かぶ。
さて、どうするか、と値踏みするように王子の手にしている商品と、新たに奥から出した商品を見る。
銀貨50枚を30枚までまければ、金貨が手に入るのだ。
多少高めな金額を言っていたのか、決断は早かった。

「ええ、ええ、ようございます。まとめて金貨一枚で、お売り致しましょう。お嬢さんも幸せ者ですな」

ねっとりとした笑みは不快だが、私はにこっと微笑み返した。

「はい。嬉しいです!」

そのやり取りに、何だかノーツはしょげているようだ。
何で?
メガネも私と王子を忙しなく見比べている。
親の金で買うの?みたいな事を言われたのに、明らかに金貨はフライングだからだろう。
けれど、空気は読んだようだ。

少し離れた場所で、メガネが問い質してきた。

「あの……昨日、ミアは親の金で、その…買う物ではないと言っていませんでしたか?」

気まずそうに言うメガネに、私は笑いかける。

「良く出来ました。これは何も私が身に着けるものじゃないんですよ」
「そうなのか?」

何故か驚いた様に声を上げたのは、ノーツだ。
さっきまでしょんもりしてたのに。
少し元気になっている。

「ええ。アルは目利きが出来るので、きちんとした品を見つけたら、あるべき場所に戻してあげるんですよ」

まあ転売ですけどね。
転売と言うと、現代では悪い事のように言われていたなぁ。
いや、実際に悪い人達も大勢いたと思う。
例えば、買占めをして価格を吊り上げる人とか。
でも骨董品屋のように、価値のあるものを見抜いて、それなりの値で売るのは悪い事とは思えない。
労せずに金儲けが出来るという点では忌避されるのかもしれないが。
正当な価格、正当な価値を見抜ける者の特権でもある。
真贋を見極める目というのは、一朝一夕に養えるものではないからだ。
それに、見極めに失敗すれば損もする。
だから、私も王子のお小遣い範囲なら特に文句は言わない。
変に散財されたら嫌だけど、お金稼ぎの大変さを知った王子にその心配はなさそう。

「ああ、そういう事でしたか……」

メガネも納得した。
ついでにメガネをクイッとした。
それ、何か意味あるの?
ずれやすいの?

「サーフって目が悪いの?」
「悪い、と言うほどではありませんが、良くはないです」
「だったら、眼鏡の予備も買っておく?片眼鏡《モノクル》でもいいけど」

でも、お高いんでしょう?
そう言いたげな顔でメガネは私を見る。
ええ、お高いですよね。

「高いけど、先行投資っていうか……戦いの最中に割れたら困るじゃない?」
「……う……想像したくはないですが、…それは確かにそうですね」

パリンして目に刺さった所でも想像してしまったのだろうか。
割れなくても皹が入るだけで、十分視界は塞がれる。
ここぞという時に、そんな状況に陥って、メガネメガネ…みたいにはなりたくないよね。
命かかってますからね。

「じゃあ明日の午後、宝石商のところで見繕ってもらいましょう。ちょうど売り物もあるし」
「分かった」
「分かりました」

素直に頷く二人と、考え込むノーツ。

「その宝石商とはリーメント商会か?」
「ええ、良くご存知ですね」
「俺も行く事になっているからな……一緒に行ってもいいか?どうも、ああいう店は慣れない」

ノーツは眉を下げて後ろ頭に手をやっている。
確かに、似合わなさそう。
キラキラしてるもんね、あそこ。

「緊張しますよね。別に構いませんよ。何ならお昼も何処かで一緒に食べましょう」
「……そうか!それはいいな」

勝手に段取りを決められて、王子とメガネは少し不満そう。
君達のような生まれながらのお貴族様にはこの感覚が分からんか。
一人で行くと場違いで、帰りたくなるんだよ!

「じゃあ、折角だし、ノーツさんのおすすめのお店行きましょう。いつも私の宿屋で食べてましたからね。明日は賄いを遠慮しておくので、別のお店に行けますよ」

二人に言えば、興味が湧いたのかぱあっと笑顔になる。
単純でよろしい。
リサさんのお料理は毎日食べても飽きないけどね!
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。

曽根原ツタ
恋愛
 ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。  ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。  その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。  ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?  

必要なくなったと婚約破棄された聖女は、召喚されて元婚約者たちに仕返ししました

珠宮さくら
ファンタジー
派遣聖女として、ぞんざいに扱われてきたネリネだが、新しい聖女が見つかったとして、婚約者だったスカリ王子から必要ないと追い出されて喜んで帰国しようとした。 だが、ネリネは別の世界に聖女として召喚されてしまう。そこでは今までのぞんざいさの真逆な対応をされて、心が荒んでいた彼女は感激して滅びさせまいと奮闘する。 亀裂の先が、あの国と繋がっていることがわかり、元婚約者たちとぞんざいに扱ってきた国に仕返しをしつつ、ネリネは聖女として力を振るって世界を救うことになる。 ※全5話。予約投稿済。

冷たかった夫が別人のように豹変した

京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。 ざまぁ。ゆるゆる設定

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

出来損ない王女(5歳)が、問題児部隊の隊長に就任しました

瑠美るみ子
ファンタジー
魔法至上主義のグラスター王国にて。 レクティタは王族にも関わらず魔力が無かったため、実の父である国王から虐げられていた。 そんな中、彼女は国境の王国魔法軍第七特殊部隊の隊長に任命される。 そこは、実力はあるものの、異教徒や平民の魔法使いばかり集まった部隊で、最近巷で有名になっている集団であった。 王国魔法のみが正当な魔法と信じる国王は、国民から英雄視される第七部隊が目障りだった。そのため、褒美としてレクティタを隊長に就任させ、彼女を生贄に部隊を潰そうとした……のだが。 「隊長~勉強頑張っているか~?」 「ひひひ……差し入れのお菓子です」 「あ、クッキー!!」 「この時間にお菓子をあげると夕飯が入らなくなるからやめなさいといつも言っているでしょう! 隊長もこっそり食べない! せめて一枚だけにしないさい!」 第七部隊の面々は、国王の思惑とは反対に、レクティタと交流していきどんどん仲良くなっていく。 そして、レクティタ自身もまた、変人だが魔法使いのエリートである彼らに囲まれて、英才教育を受けていくうちに己の才能を開花していく。 ほのぼのとコメディ七割、戦闘とシリアス三割ぐらいの、第七部隊の日常物語。 *小説家になろう・カクヨム様にても掲載しています。

今、目の前で娘が婚約破棄されていますが、夫が盛大にブチ切れているようです

シアノ
恋愛
「アンナレーナ・エリアルト公爵令嬢、僕は君との婚約を破棄する!」  卒業パーティーで王太子ソルタンからそう告げられたのは──わたくしの娘!?  娘のアンナレーナはとてもいい子で、婚約破棄されるような非などないはずだ。  しかし、ソルタンの意味ありげな視線が、何故かわたくしに向けられていて……。  婚約破棄されている令嬢のお母様視点。  サクッと読める短編です。細かいことは気にしない人向け。  過激なざまぁ描写はありません。因果応報レベルです。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

処理中です...