上 下
71 / 89

原作クラッシャー?

しおりを挟む
今日は少し私も朝練だ。
王子とメガネを保父《ノーツ》に預けて、弓の練習。
的を射るだけなんだけど、これも意外と楽しい。
アルトとの訓練で、短刀《ナイフ》の投擲はやっていたけど、弓はもっと威力出るな。
弦の力、しゅごい。
使っている弓と、自分の癖を把握しつつ、的の中心に矢を寄せていく。
綺麗で質の良い弓ばかりじゃないしね。
映画で見た美形エルフみたいに、二本撃ちとか出来るようになったらめっちゃかっこいいんだけど。
そういや、この世界エルフいるのかな?
獣人とか、いたら……。
モフモフしたぃいぃいぃ!
いやいや、この街で見かけてないって事は、居ないって事かもしれない。
エルフは知らんけど。

私は適度なところで弓練を切り上げて、ティアに変装して大聖堂に向かう。
アウリスのお出迎えを受けて、治療院へ。
どうやら件の騒動は落ち着いてきた模様。
回復要員も、今は十分いる。
だから、私も無理しない。
今日は冒険に出る予定がないから、十二人まで。
終わったら帰る。
帰ったら薬草採取の前に、武器屋で二人の短刀《ナイフ》も買わないと…。
予定を考えながら、帰ろうとしていると、忠犬のようにアウリスもスッと付いてくる。
真面目だなぁ。

「アウリス様、もうわたくしに危険など無いと思いますので、送迎は結構ですよ?」
「短い距離です。大した時間も取られないのですから、貴女の身の安全には代えられません」

駄目か。
駄目だな。
裏口から入って、さっさと着替えたいんだよ、なんて言えない。

「アウリス様は本当に、誠実な御方ですのね」
「……そ、そうですか……」

大した褒め言葉でもないのに、頬にほんのり朱が上る。
純情か!
この温室育ちめ!

大階段の上で、そんな話をしていたら、やべぇ女が現れた。

「この、原作クラッシャー!あんたでしょ!あんたのせいで、私がどれだけ大変な思いしたと思ってんの?!」

桃色の髪を振り乱した女が、私を指差して怒鳴っている。
私は思わず、私の背後に何かいるのかと確認したが、私だけだった。
この人は私に怒鳴っているのか。
何で?
原作クラッシャー?
私何も壊してないけど。
あれ?
ざまあ返しを素直にしなかったせいで、このモブ子さんの運命を変えちゃったのかな?

「アウリス様、お知り合いですか?」
「いや、知らない」

「あんたも転生者なんでしょ!?ふざけんな!」

ずんずん近寄ってくるので、思わず身を引くと、アウリスが私の前に立ちはだかった。
すると、女の歩が止まる。

「あ……アウリス、さ、ま……?アウリス様、私アリサって言います」
「ふむ。アリサとやら、さっさとこの場を立ち去れ」
「えっ?」
「ティア殿への不敬な振る舞いを許すわけにはいかない」

自己紹介を聞き流して、アウリスは追い返そうとしているけど。
素直に言う事聞くかなぁ?
アウリスのマントに掴まりつつ、少しだけアリサを見るけれど、こっわ。
ヒロインだから髪ピンクなん?
眼は赤いですね。
でもヒロインの表情じゃないね。
こっわ。

「アウリス様はその女に騙されているんです!」
「……は?何を騙すというのだ」

まあね。
恋愛要素ゼロなのに、騙すも騙されるもないんだわ。

「アウリス様に言葉巧みに近づいて、寵愛を得ようとしてるんですよ!」

自己紹介乙ですな。
お前といっしょにするなよ。
アウリスは、大きく溜息を吐いた。

「私とティア殿はその様な関係ではない」
「えっ?」

驚いたような顔をして私とアウリスを見比べるアリサ。
いや、何の確証も無く怒鳴り込んだお前の方に驚くわ。
私は早く帰りたいんだよ!
残業させるんじゃねぇ。

「ティア殿、これで分かっただろう?貴女には護衛が必要です」
「……ええ、そ、そのようですね……」

いやこの女はお前目当てだから、半分はお前のせいだぞ。
言いたいけれど、そんな事を言えば責任を感じて、お迎えにも現れるかもしれない。
それは絶対嫌だ。
アリサのせいで、私の送迎お断りの道が断たれた。
ぐぬぬ。
余計な事しやがって。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。

曽根原ツタ
恋愛
 ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。  ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。  その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。  ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?  

冷たかった夫が別人のように豹変した

京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。 ざまぁ。ゆるゆる設定

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

出来損ない王女(5歳)が、問題児部隊の隊長に就任しました

瑠美るみ子
ファンタジー
魔法至上主義のグラスター王国にて。 レクティタは王族にも関わらず魔力が無かったため、実の父である国王から虐げられていた。 そんな中、彼女は国境の王国魔法軍第七特殊部隊の隊長に任命される。 そこは、実力はあるものの、異教徒や平民の魔法使いばかり集まった部隊で、最近巷で有名になっている集団であった。 王国魔法のみが正当な魔法と信じる国王は、国民から英雄視される第七部隊が目障りだった。そのため、褒美としてレクティタを隊長に就任させ、彼女を生贄に部隊を潰そうとした……のだが。 「隊長~勉強頑張っているか~?」 「ひひひ……差し入れのお菓子です」 「あ、クッキー!!」 「この時間にお菓子をあげると夕飯が入らなくなるからやめなさいといつも言っているでしょう! 隊長もこっそり食べない! せめて一枚だけにしないさい!」 第七部隊の面々は、国王の思惑とは反対に、レクティタと交流していきどんどん仲良くなっていく。 そして、レクティタ自身もまた、変人だが魔法使いのエリートである彼らに囲まれて、英才教育を受けていくうちに己の才能を開花していく。 ほのぼのとコメディ七割、戦闘とシリアス三割ぐらいの、第七部隊の日常物語。 *小説家になろう・カクヨム様にても掲載しています。

今、目の前で娘が婚約破棄されていますが、夫が盛大にブチ切れているようです

シアノ
恋愛
「アンナレーナ・エリアルト公爵令嬢、僕は君との婚約を破棄する!」  卒業パーティーで王太子ソルタンからそう告げられたのは──わたくしの娘!?  娘のアンナレーナはとてもいい子で、婚約破棄されるような非などないはずだ。  しかし、ソルタンの意味ありげな視線が、何故かわたくしに向けられていて……。  婚約破棄されている令嬢のお母様視点。  サクッと読める短編です。細かいことは気にしない人向け。  過激なざまぁ描写はありません。因果応報レベルです。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...