上 下
69 / 89

小魚しか取れない奴らとは違う

しおりを挟む
「ああ、良かった、ミア。伝えたい事があったんだ」

ギルドに報告に戻ると、ノーツが待っていたようで、話しかけてきた。
ずっと待ってたのかな?
かわいそう。
スーパーの前でご主人を待っている犬みたい。

「え?ずっと待ってたんですか?」
「あ、いや、報告に来ると思って少し前からだから、気にしなくていい」
「それなら良かったです。えっと?伝えたい事って何ですか?」

私が問いかけると、少し困ったようにノーツは周囲を見回した。
人が多いここでは話せない内容か。
私はエミリーさんに声をかける。

「奥の部屋お借りします」
「ええ、どうぞー」

当然のように王子とメガネも付いて来ようとしたけれど、無言で受付を指差したら、しおしおと戻って行った。
何の話か分からない以上、付属物はいらん。
部屋に入ると、ノーツはさっきよりも申し訳なさそうにしている。
耳を伏せて、俯いている大きなわんこ。

「え?何か叱られるような事したんですか?」

私がノーツを叱るとか、そんな要素無いと思うんだけどなぁ?
ノーツは僅かに頷いてるけど。
一体何なんだろう?
怒らないから言ってみなさい。
ってよく言うけど、絶対怒るよね。
益々理由が分からないぞ。

「……あの、薬だ」

ああ、あげたやつ。
試作品だ。

「落として割っちゃったとか?その位で怒りませんよ?」

別に怪我がなく戻ってきてくれれば良いってお守りみたいな、保険みたいなものだし。
どうせ飲んだら無くなる、消え物だ。
後生大事に取っておく物ではない。

「いや違う。20階層の水の街で、荷物整理をしている時に、錬金術師に見られてしまったんだ」
「薬を、ですか?」

ははあ、それは厄介な。
かと言って、見せびらかした訳でもないのに、怒ったりしませんが。
でも、ノーツは相変わらず申し訳なさそう。

「自ら迷宮にも挑むダーヴィドという高名な錬金術師なんだが、どうしても製作者が知りたいというので、確認してからと答えたんだ。薬も譲って欲しいと言われたが、断った」

んんん、流石です。
うちの子供達だったら、ドヤ顔で私の名前をバラしそう。
後で注意しておかないとな。
とはいえ、この街一番の錬金術師で、私が今一番話したい人だ。
怪我の功名とはこういう事をいうのだろう。

「ご配慮ありがとうございます、ノーツさん。私も話をしてみたいと思っていた相手なので、口外しないという約束でなら、その人にだけ名前を教えても大丈夫です。機会を作ってもらえれば、薬も持っていくと伝えてください」
「……そうか!」

ぱあっとノーツの顔が明るく輝く。
良かった良かった。
伏せていた耳もピコーンと立ち上がってるみたい。

「あと、宜しければこの後、夕食を食べに行きますけど、一緒にどうですか?」
「ああ、喜んで」
「冒険のお話聞きたいです」

にこにこ話をしながら、ギルドの広間に戻ると、二人は掌に銀貨を載せて肩を下げていた。
ああ。
稼ぎの少なさにまた打ちひしがれているのね。
無理も無いけど。
小魚しか獲って来れない鵜だもんな。

「さ、二人とも。夕食にしましょう」

二人は顔を上げると、にこにこしているノーツに目を向けた。
王子がぽそりと言う。

「その、ノーツさんも一緒にか?」
「そうですよ。冒険の話、アルとサーフも聞きたいでしょう?」

そう言ったら興味が湧いたのか、二人は頷いた。
単純で素直なのは良いことだ。
私は私の報酬を受け取って、三人と一緒に「黄金の野うさぎ亭」に向かった。
ノーツにも是非クレープを食べて貰いたい。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

今日も聖女は拳をふるう

こう7
ファンタジー
この世界オーロラルでは、12歳になると各国の各町にある教会で洗礼式が行われる。 その際、神様から聖女の称号を承ると、どんな傷も病気もあっという間に直す回復魔法を習得出来る。 そんな称号を手に入れたのは、小さな小さな村に住んでいる1人の女の子だった。 女の子はふと思う、「どんだけ怪我しても治るなら、いくらでも強い敵に突貫出来る!」。 これは、男勝りの脳筋少女アリスの物語。

【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。

曽根原ツタ
恋愛
 ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。  ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。  その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。  ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?  

冷たかった夫が別人のように豹変した

京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。 ざまぁ。ゆるゆる設定

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

出来損ない王女(5歳)が、問題児部隊の隊長に就任しました

瑠美るみ子
ファンタジー
魔法至上主義のグラスター王国にて。 レクティタは王族にも関わらず魔力が無かったため、実の父である国王から虐げられていた。 そんな中、彼女は国境の王国魔法軍第七特殊部隊の隊長に任命される。 そこは、実力はあるものの、異教徒や平民の魔法使いばかり集まった部隊で、最近巷で有名になっている集団であった。 王国魔法のみが正当な魔法と信じる国王は、国民から英雄視される第七部隊が目障りだった。そのため、褒美としてレクティタを隊長に就任させ、彼女を生贄に部隊を潰そうとした……のだが。 「隊長~勉強頑張っているか~?」 「ひひひ……差し入れのお菓子です」 「あ、クッキー!!」 「この時間にお菓子をあげると夕飯が入らなくなるからやめなさいといつも言っているでしょう! 隊長もこっそり食べない! せめて一枚だけにしないさい!」 第七部隊の面々は、国王の思惑とは反対に、レクティタと交流していきどんどん仲良くなっていく。 そして、レクティタ自身もまた、変人だが魔法使いのエリートである彼らに囲まれて、英才教育を受けていくうちに己の才能を開花していく。 ほのぼのとコメディ七割、戦闘とシリアス三割ぐらいの、第七部隊の日常物語。 *小説家になろう・カクヨム様にても掲載しています。

今、目の前で娘が婚約破棄されていますが、夫が盛大にブチ切れているようです

シアノ
恋愛
「アンナレーナ・エリアルト公爵令嬢、僕は君との婚約を破棄する!」  卒業パーティーで王太子ソルタンからそう告げられたのは──わたくしの娘!?  娘のアンナレーナはとてもいい子で、婚約破棄されるような非などないはずだ。  しかし、ソルタンの意味ありげな視線が、何故かわたくしに向けられていて……。  婚約破棄されている令嬢のお母様視点。  サクッと読める短編です。細かいことは気にしない人向け。  過激なざまぁ描写はありません。因果応報レベルです。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

処理中です...