ざまぁ返しを全力回避したヒロインは、冒険者として生きていく~別れた筈の攻略対象たちが全員追ってきた~

ひよこ1号

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本屋でエンカウント

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「授業は特にはしておりませんね。ただ、新しい魔法開発や付与、魔道具製作のために、研究している方達もいるので、その方達の意見交換会が時折開かれています。あたらしい理論があれば、発表などもしているので、参考になればと思いますが」
「ふむふむ。では実践的な魔法の演習などはされていないという事でしょうか?」
「ええ。戦闘に使う魔法などは、魔法を使うことに特化した氏族《クラン》の偉大な唱え手《グランドキャスター》が研究と開発の先陣を切っておりますね。氏族《クラン》に入れば、もしかしたら色々教授して貰えるかもしれませんが……」

ああ、氏族《クラン》かぁ。
色々と面倒そうだな。

「貴重なお話有難うございました」

そうか。
何となく感じていた違和感に気がついた。
氏族《クラン》は何も仲良しグループではないという事だ。
ゲームの世界では、友人《フレンド》達と仲良く過ごす場だったり、戦争や覇権争いの為の人数だったりするけれど。
この世界というか、現実的な場だと全然意味合いが異なってくる。
目的が一緒だったり、または生き方の問題でもあり、似た環境の人々や、身分だったり。
何かしらの共通点を持って、集まっているのだろう。
偉大な唱え手《グランドキャスター》は魔法の構築と実践、しかも戦闘に特化した集団と言うのはある意味面白い。
けれど、入るかと言われたら、魔術師を目指す訳ではないので私は入らない。
メガネはどうするかな。
うーん。
成長させるなら有益な気もするんだけど。
何かしらの制約が発生するのは面倒。
氏族《クラン》に入ると中々抜けられない、とかも面倒。
893みたいな組織じゃないとは思いたい。
一度話を聞いてみるのも悪くないかなぁ。

図書館にも行きたいけど、行ったら行ったで時間を忘れてしまいそうなので、別の場所に行く。
本屋だ!
魔法協会のすぐ側にある書店に入る。
この世界では紙はある程度流通しているし、本も個人が持てる資産だ。
高いけど。
今のところどうしても必要な本は学園から拝借してきたので、喫緊に必要な物ではないのだが、興味を引く本はあるかなあという冷やかし。

「あ」
「おや」

長身の執事がいた。
胡散臭い異母兄弟の弟の方だ。
鋭く吊上がった灰色の目を優しげに細める。
だから、胡散臭いんだって。

「……どうも」
「奇遇ですね」
「尾行した訳じゃないですよね?」
「私の方が先に此処にいたのに?」

ですよね。
ちょっと安心した。
警戒し過ぎたかな?

「昨日は血塗れで帰還したとか。お怪我が無いようで何よりでございます」

マティアスが急に慇懃な言葉遣いになって、私はじろっと睨んだ。
こうやって、行動把握されてるのが気持悪いんだって!

「地獄耳ですね」
「耳も目も多い方が商売の役に立つものでございますよ」

はーん?
商売以外にも使ってそうだけどな?
まあ、いいけどさ。
関係ないし……いや、私の情報集めるのは止めてほしい。

「欲しい本があれば、進呈致しましょうか?」
「いいえ、結構です」

この前売買したんだから、こちらに十分な資金があると分かってて言う。
からかっている様にしか思えない。
キッと見上げて断ると、それは嬉しそうに微笑む。
ああああ、変態!
何で睨まれて嬉しそうなの?
怖い。

私は場所を移す事にした。
何か無いかな?
面白い本。
あ、そうだ、これいいな。
魔物図鑑。
大きな本を取り出して、ぱらぱら捲ってみる。
冒険に出るとしたら、こういうので知識の共有はしておいた方がいいよね。
5金……5金かぁぁ。
たっかいな!
うーん、ちょっと悩む。
お金はいっぱいあるけど、浪費していたらすぐになくなるし、そうなったら生活を支える手段がまだ、ない。
昨日の依頼だって、命がけだった。
トータルでも1金以下よ。
んぐぐ。
私はそっと魔物図鑑を棚に戻す。

図書館で読めばいいんです。
さすが図書館、叡智の宝庫です。
錬金術の本もなぁ。
欲しいんだよなぁ、簡単レシピ。
けどこれも、多分熟練の錬金術師に直接習う方が絶対良い。
ああ、この人達にも氏族《クラン》がありそうな?
あっ、これ。
魔法の遺物事典!
今まで発掘された有名な魔法の遺物が載ってる。
ロマンだ、ロマン。
装飾とかで、効果が分かる部分もあるのか、ふむふむ。
えっ?
魔力を込めた精製水をかけると、属性が分かるの?
炎の属性なら、水は蒸発する。
水の属性なら、水は吸収される。
風の属性なら、水は乾く。
土の属性なら、何も起きない。
光の属性なら、輝く。
闇の属性なら、濁る。

何それおもろ。
化学の実験みたい。
基礎知識なんだろうけど、お婆ちゃんの知恵袋みたいな感じだな。
精製水ならおうちにあるけど、魔力ってどうやって込めるんだろ?
よく分からん。
説明プリーズ。
頁を捲ってみるけど記述はない。
不親切だな、もー!
こういうとこあるよね!本って!

あっ、いけない。
読み耽っちゃった。
託児所《ギルド》に戻らないと。
私は本を棚に戻して、マティアスの事はすっかり忘れて店を後にした。

訓練場に行くと、ボロボロになった王子とメガネがいた。
ひんひん泣いている。

「……すまん、少しやりすぎたかもしれん……」
「ああ、良いんです。寧ろお世話になりました!明日も時間があれば、お願いします」
「問題ない」

王子もメガネもあちこちコブが出来たり、痣もある。
ちょっと可哀想。

「ほら、自分で清潔《クリーン》して。あと回復《キュア》してあげるので、こっちに座って下さい」

二人は言われたとおりに、魔法で汚れを落としたので、順番に回復《キュア》を……かけようとして、二人を連れて個室へ行く。

「一応、私の光魔法は秘匿して貰っているので、その心算でお願いします」

私も今うっかり忘れかけてたけどな。
流石に沢山の人々の前で使うわけにはいかない。
メガネは眉根を寄せた。

「何故です?素晴らしい力なのですから、公表すれば皆がミアを崇めるでしょう!」

崇めなくていいんだわ。
寧ろ迷惑ですわ。

「崇めるだけじゃ済まないからですよ。他のパーティや氏族《クラン》にしつこく勧誘されるのが嫌なんです。二人は私を守り切れるほど強くないでしょう?」

言われた二人はうっと言葉に詰まった。
顔色も悪い。
でしょうね。
だって練習ですらこんなボコボコになってるんだから。

「浅慮でした……私は考えが足りないな……」
「そういう事もある。私も沢山過ちを犯した……」

何だか慰めている。
幼稚園児が幼稚園児を慰めてるみたい。
そう考えると可愛いけど、メガネも意外としぶといな?
痛い思いをしたら帰ると思ってたんだけど。

「はい。回復《キュア》しますよ」

二人を順番に回復すると、痛みはすっかり引いたようで、顔を輝かせた。

「痛みが引きました!凄いですねミア」
「ミアは凄いんだ!」

ううん。
何だろうこの褒め殺しスタイル。
そして、何で王子がドヤ顔してるんだろう。
私はお前の物ではないんだが?
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