ざまぁ返しを全力回避したヒロインは、冒険者として生きていく~別れた筈の攻略対象たちが全員追ってきた~

ひよこ1号

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命の対価…そしてメガネ

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「さて、狼持って帰りましょう。狩人さん、居ますか?」
「はい」

ひょっこりと木陰から顔を出した狩人に頼んで、村人も動員して狼の死体を運んで貰う。
全部を食べられる訳ではないので、二匹の狼の肉は村人に分けて、毛皮と素材だけ回収する。
残りは街まで一緒に送ってくれるというので、狼を水で洗って内臓を抜き、荷馬車に積んで貰った。

20銀、20銀かぁ。
結構大変だった。
村長が支払ってくれたお金には銅貨も混じっていたので、生活感がありすぎるのも切ない。
一応きちんと枚数は確認して、報酬を受け取る。

狼の肉にもお礼を言われたけれど、どっちみち持って帰るのが面倒なので問題ない。
村人にとっては重要なタンパク源になるだろう。

荷馬車には解体の為に、牛の革を敷いてもらった。
中には木の桶も
どうせ帰るのに一時間かかるのだから、済ませてしまいたい。

「さ、アル。一緒に解体しますよ」
「……えっ?」
「はい、短刀《ナイフ》…ああ、アル専用のナイフも買いましょうね」

笑顔で言うと、王子は恐々と狼の死体を見た。

「じゃあ、私の真似してくださいね」

ニッコリ笑えば、それ以上抵抗もできずに、王子は私の言葉に従って、狼の毛皮を剥ぎ始めた。

ゴトゴト揺れるので、怪我をしないように注意しつつ、何とか全部の素材を回収した。
牙や爪は何に使うのか分からないけど、細工物や錬金術には使えそうだ。
毛皮は毛皮商に売るのが良さそう。
ふさふさの尻尾はなんだか可愛いから、一本自分の為に取って置こうと思った。
だって、初討伐だし。
王子にも一本あげよう。

「はい、尻尾、一本あげます」
「う、うむ……これは何かに使うのか?」
「いえ?ふさふさだから触ると気持いいですよ」

特に何か役立つわけではない。
王子は、言われたとおりに素直に尻尾を膝の上で撫でている。
そうしていると、何か動物を可愛がってるように見えるの不思議。

「ふむ、確かに手触りはいいな」
「あとはそうですねぇ。装飾品にするとか?鞄とかに付けたり?」
「ほう」

感心してるけど、貴族令息や令嬢が絶対つけない類の飾りですよね。
でも、狩りとかする人は付けたりするのかな?
よく城とか屋敷に剥製飾ってる人はいるけど。
王子の部屋に敷いてある敷物も、毛皮だから何かしらの獣の皮だ。

送ってくれた親切な村人さんが、商人を紹介してくれた。
おかげで肉と毛皮も売れて、毛皮が50銀貨、肉が15銀貨に解体済なので+5銀貨で売れる。
村の報酬より高い……!
そりゃ村人だって戦えるのなら、戦って売りたいよね、皮も肉も。
折角送ってくれたので、村人さんにも宿屋のクレープを買って持たせる。
美味しいから食べにきてね!の宣伝も忘れない。
銀貨一枚は安くはないだろうけどね。

私と王子は、依頼書に終了のサインを貰ったものを、ギルドへと持って行った。

「探しましたよ!ミア」

え?
何か既視感あるんですけど…。
メガネが立っていた。
メガネをくいっとして、こちらを見ている。
黒髪に青い瞳の美青年だ。
といっても少年らしい頬の膨らみもあって、発展途上。

「ああ、何ですかその血は!何処か怪我を!?」

言われて私も気づいた。
そういえば血塗れや。
解体するから、ギルドに入る前に魔法かければいいかなって放置してたんだった。

「大丈夫です。返り血です」

何も大丈夫ではないけど、怪我はしていない。
私と王子は、清潔《クリーン》で汚れを落とした。
便利、便利。

「奥の部屋、借りますね」
「ええ、どうぞ」

エミリーに言うと、メガネを引っ張って、王子と共に個室に入る。

「何で来たんですか?」

テイク2だよ。
何でまた増えたの。

「い、いや、その、私は……元々殿下の側近として生を受けた身だ」

王子を見ると、王子はゆるく首を横に振る。
知らなかったらしい。

「アルクハイド殿下がいなければ、私の存在する意味もない……というのは建前で、ミアが危険な旅に出たというので、助力が出来ればと駆けつけました」
「所持金は?」
「え?…ああ、少ないですが…」

事情を聞くだけ無駄な気がして、とりあえず所持金について聞く。
白金貨2枚と銀貨に銅貨。
大金を持ち歩くんじゃありませんパート2。
説教の上、白金貨はギルドに預けるように諭した。
私もやったので、きつくは責めない。

「そういえば、名前何でしたっけ?」
「……あ、それは……サーフィスです」
「じゃあ、サーフ。宿屋はアルと同じ所にして。アルは一年先まで宿代払ってるけど、一ヶ月更新でいいと思う。今後はアルと行動してね」

そういうと、名前を聞かれてしょんぼりした顔のまま、メガネは力なく頷いた。
これで王子の送り迎えからは解放された。
やったね!
でも、王子はおいといてメガネもいついなくなるか分からない。
明日からはビシビシ育てねばなるまい。
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