ざまぁ返しを全力回避したヒロインは、冒険者として生きていく~別れた筈の攻略対象たちが全員追ってきた~

ひよこ1号

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引越しでも泥棒でもないんです

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訓練の後で昼食を摂ってから、私はアルトと王子を連れて、王子の部屋に行く。
荷物多すぎだな。
一人二つ持ったとして六個じゃ話にならない。
アルトもそう思ったようで。

「ギルドで荷車借りてくるわ。盗まれねぇように縄で取っ手縛っとけ」
「解りました。お願いします」

先に下に運ぶにしても、二個ずつだし、二個ずつ縄で結んでおけば一個だけ持って逃げるのは難しいだろう。
バランスも崩すし、重いから逃げ切れない。
残すもの以外は、そうやってきゅっと縛った。
丁度両手で持ち易い長さで。
ガツガツ壁にぶつけながらも、階段を下りて外で待つ。

「アル、荷物見ててね。あと部屋の鍵頂戴」
「分かった」

私は荷物を入り口の近くに置いて、王子の部屋の下辺りをみれば、ちょうど荷車を引いたアルトが戻ってきた。

「アルトさん、そこで止まってて」
「?おう」

入り口横で待っていた王子の首に、私の荷物の縄をかけて無理矢理四つ持たせた。

「荷車まで頑張って」
「…ぐ、ぬぬ……首が……」

言いながらも王子は素直にアルトが待っている場所までよれよれ歩いて行く。
アルトは手伝うでもなく、その姿を腕組みしながら見て、口の端を上げて笑っていた。
私は王子から受け取っておいた鍵で、部屋を開けて、扉を閉める。
ちょうど、王子が荷車に辿り着いて、アルトが荷馬車に荷物を積んでいたので窓から声をかけた。

「アル、そこで荷物受け取って」
「……おお、分かった」

意図を察した王子が窓の下に立って、荷物を二つ分、片方ずつ受け取る。
縄で繋がれているので、何とか荷物が届く距離だった。
だって、いちいち階段上り下りとかダルくて。
服だけなら投げても良かったんだけど、中には他のガラクタもあるので、それは止めておく。
王子が受け取った荷物を、柵の外からアルトが受け取って荷車に載せる。
引越し業者かな?
何事かと目を向けられるけど、泥棒ではないです。
こんな泥棒いたら怖いね。
素早く作業を済ませて、窓を閉じて鍵も閉めて外に出る。
これが片付けば、王子の狙われる理由も激減するな。
カモオンリーでネギはもうないよ!
いや、どっちかっていうと、王子はカモかネギって聞かれたらネギの方かな…。
まあ、いいか。

古着屋さんのおじさんは震えた。
何しろ量が多いし、質も良い。

「こ、こ、これは……銀行に行かねばならんな……!」

カッと目を見開くおじさん。
そうか。
高くなりそうだもんね。
しかも売るまでにまだ冒険者を雇ったり旅したりする資金もいる。
うーん。
契約書だけ交わして、売り上げの何%か貰う方法でもいいんだけどな。
急ぎじゃないし。
でもおじさんだって、手に入れた金額によっては血迷うかもしれないよね。
無くなっても別にいいけど。
元々貧乏な私からしたら、これは付録でオマケみたいなものだ。

「お困りですか?」

あっ胡散臭い人達がきた。
アルトも胡乱な目を向けている。
現れたのはエストリとマティアスだ。
この変態ストーカー共め。
あれ?
でももしかして?
金の匂いを嗅ぎつけただけかな?
興味があるのは私でも王子でもないなら良かった。
良かった……のか?
まあ、いい。

「おおエストリ殿。これはこれはむさ苦しい我が店に足をお運び頂くとは…」

おじさんが急に揉み手をし始めた。
初めて生で見た。
生揉み手だ。

「尾行は止めて下さい。迷惑ですよ」

私が言うと、エストリは苦笑して両手を広げながら肩を竦めた。
うっさんくせぇぇ!

「そんな、まさか。貴女に危害が及ぶのではないかと心配して影ながら護衛させて頂いていただけでして」
「おや?お嬢さんとはお知り合いで」
「ええ。我々とも良いご縁を頂いております」

そうきたかぁ。
実際別の人に尾行もされてたし、うまい言い訳だよね。
これはこれ以上追及できないし、うーん。
おじさんもエストリの丁寧な応対に、私への言葉がお嬢ちゃんからお嬢さんに格上げされとる。
苦しゅうない。

「実はこのお嬢さんの知り合いの高貴な御方から、品物を譲り受ける事になりましてな。王都まで売りに行こうと思っておりましたが、はてさて、この量と質。生半な金額では済まぬと、銀行へ参る所存でございまして」
「ほう。それならば、丁度良い。僭越ながら私が出資させて頂きましょう。なに、こちらの取り分は売り上げの一割で構いません」

えっ?
何それ優しさの塊?
と思ったけど、胡散臭いんだよなぁ。
先回りして盗賊に襲わせたりしそうだもん。
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