ざまぁ返しを全力回避したヒロインは、冒険者として生きていく~別れた筈の攻略対象たちが全員追ってきた~

ひよこ1号

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甘やかしすぎの王様

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結果からいうと、凄い掘り出し物があった。
やっぱり持たせてたよ、王様が。
親心だね!
私では開けられない鞄があったから、王子に開けさせたらすんなりそれは口を開いた。
使用者確認の鍵付き鞄。
これはいい。
取っておこう。
そう思っていた私だけど、中身はもっと凄かった。
折りたたまれていた布の背負い袋、収納魔法付きだってすぐ分かった。
何故って、王子の持ち物にしては簡素だから。
最初に商人に聞いたとおり、貴族の持ち物には到底見えない造りだからね。
鞄の大きさは、王子に背負わせてみたら、縦の長さが腿の半分まである。
人が余裕で入れそうな大きさ。
どれだけ多く入るのか分からないけど、10倍とかだったら、そりゃあもう沢山入るね。
これは便利。
多分、相当な金額すると思う。
何に使う気だったんだ、王様、戦争か?
ああ、戦争に使うなら便利だ。
荷物を大量に運べるって事は、食糧問題が一気に解決するもんね。

他にも普通サイズの背負い袋二つに、中くらいの背負い袋三つ、ポーチが五つある。
あとは宝飾品、なんだけど。

「これ多分、魔法がかかった品だと思うんですけど、何か説明受けてます?」
「いや、初めて見たぞ」

説明しろよぉおおぉ!
良い顔でサムズアップしてそうな王様に世界の中心から叫んでみる。
勝手な妄想だけど。

「うーん。これは売るのは控えた方が良さげですねぇ。アルクって、家族と喧嘩してないんですよね?」
「ああ。円満だが」

こくっと王子は頷いてニコッと微笑む。
だったら、手紙で問い合わせ出来るな?
私も頷き返して、普通の背負い袋と何だか良さげなマントだけ鞄から出した。

「じゃあお手紙で、現状報告と、対外的には廃嫡扱いにしてほしい事と、魔法の品の説明を求めて下さい」
「……ふむ、分かった」
「文房具はそこの机の上に置いておいたので」

一応使いそうな物は部屋に設置した。
扱いの分からない豪華な金の置時計も机の上に文鎮代わりに置いてある。
ギラギラしてるし宝石もついてるから高く売れそう。
マントにかける魔法って、大体耐火が多いと思うんだよね。
呪いのアイテムなんて入れないだろうし、王子が着けてても問題なさそう。
私もマント欲しいな。
防寒具になる、軽いやつ。
今すぐ必要な訳じゃないけれど。
折角だから、普段着とパジャマも欲しい。
気に入ったのがなければ、裁縫で作っても良いし。

王子は真面目に机に向かっている。
私は必要なものは取り出したので、魔法道具専門鞄の蓋を閉じた。
一番大きい背負い袋なら、この大量の荷物も入り切るかもしれないけれど、無駄は省きたい。
だいたい、それがお勧めなら王様だってそうした筈だし。
今の生活に必要なもの以外はやっぱり売るのがいい。
稼げるようになったら、買い足していけばいいのだ。
つーても王子の場合は、冒険とは違う形で既に稼いでるけどな!
それはノーカンなのです。

「書けたぞ、ミア」

何だか得意満面の王子から手紙を受け取って、私は内容を確認しつつ質問する。

「王族の手紙って特殊な送り方あるんですかね?もし無ければ冒険者ギルド通して送ってもらいますか」
「……すまん、世事には疎くてな。城から出すならば勅使を使うのだろうが……」

でしょうね。
かといって、隣国の王族通して勅使で…なーんて大袈裟な事は出来ない。
完全に私用でしかないもんね。
やっぱり冒険者ギルドかなぁ。
ギルド職員なら、手紙運んでもきちんと受け取って貰えそうだもんな。

「じゃあ、これは明日ギルドに預けましょう。封していいですよ」
「うむ、分かった」

封蝋を溶かして、丸めた手紙に垂らして指輪を上から押し付ける。
ナチュラルにやってるけど、その指輪、まずくない?
もしかしたら今日、宝石店の店主に見られてたかもしれない。
ああ。
我が家=王家、みたいな脳内変化が起きてあの金額になったかもしれないよね。
迂闊だった。
でも、上客ではあるのだから、彼らが積極的に何かしてくるとは思わないけど。

「アルク、その指輪って、王家のだよね?」
「ああ、良くわかったな、ミア!」
「それ、しまっておこ」

キラキラっと喜んだ笑顔から一転、しょんもりする王子。
着けていたいのかな?
でも駄目。

「指ごと切って、指輪を盗む人もいるらしいですよ」
「しまっておこう」

物騒な言葉を口にすれば、王子は秒で指輪を外した。
そしてハンカチに包んで、ポーチの中にいれる。

「明日もお買い物行きましょう。首飾りにして身に着けるのならいいですよ。そうやってポーチに入れておくと、他の物取り出す時にポロって落としそう」

あるあるだと思う。
王族の印がついた指輪なんて悪用される未来しか見えないもん。
王子を装った手紙出したり、他の国で王子の振りしたりとかね。

「そうか。それは危ないな。気をつけよう」
「あ、もういい時間ですね。夕食食べに行きましょう」

私は王子を伴って、いつもの私の宿で食事をしてから、王子を部屋に送り届けた。
王子の宿から私の定宿までは、大通りや明るい道が多いので危険は無い。
危険はないのだけど、宝石店のイケメン執事が、いた。
ああ、何かヤバい。
ミアって名前から辿ったって事か、尾行されてたか。
でも王子の方へ行かなかったって事は、荒事ではないのかな。

「何か用ですか?」
「はい。我が主人が貴女にお話があると申しておりまして」
「夜ですよ?宿の人も心配するので行きません」
「勿論でございます。私はお時間を配慮せよと言いつかっておりますので、貴女の都合の良い日時を教えて頂きたく、馳せ参じた次第でございます」

慇懃な態度だが、目は鋭い。

「私以外にもう一人連れてっても良いのなら、構いませんよ」
「どうぞ」
「じゃあ、明日の午前中にお店に直接伺います」
「主人もお喜びになるでしょう。お待ち申し上げております」

最後まで丁寧な所作と態度を崩すことなく、執事は頭を下げて立ち去っていった。
この街でもあの風体は目立つ。
冒険者の多い街だ。
平民か冒険者という容姿の人々がいる中、貴族や執事といった見た目はすごく浮いている。
無理矢理連れ去られる事がなかったのは、きっと私と取引をしたいのだろう。
内容は分からないけど、犯罪ではないと思いたい。

私は溜息を吐いて、一日のルーティンを終えてから眠りに就いた。
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