ざまぁ返しを全力回避したヒロインは、冒険者として生きていく~別れた筈の攻略対象たちが全員追ってきた~

ひよこ1号

文字の大きさ
上 下
42 / 89

ふむ、なるほど、分からん

しおりを挟む
「素敵ですね。他に売れる宝石ありますか?」

間髪いれずにそう聞くと、ううん、と王子は首を捻る。

「宝石を持ってきたつもりはないが……」
「ふむ。何かの飾りにはついてそうですけどね」

剣もギラギラだったし、荷物も鬼ほど多いし。

「とりあえず今日は、このいらないタイツと、宝石だけ売りに行きましょう」
「……え?いや、タイツは…」
「使いませんよ。夜会に行くんですか?」
「その予定は無いが……」

じゃあ問題ねぇ!
私は笑顔で鞄を持つと、王子に差し出した。
王子は諦めたように、それを手にする。
剣だけベルトに差し込んで……服と比べるとみすぼらしいけど仕方ない。

まずは古着屋へ行って、王子が着用していたタイツです、と売り込む。
鞄も特に魔法付きでもないからそのまま売った。
金貨5枚になった。やったね。

「割と安いのだな……」

王子はちょっとしょんぼりしているが、タイツと鞄で5金貨は高いよ!?

「いや、古着の割に高いですよ。需要だってそこまでないだろうし、王子の持ち物だという付加価値も一応加味されてると思いますよ」

現代の金額に直せば50万だよ。十分だよ。

「そ、そうか。では次は宝石店だな」
「宝石店では適度に偉そうにしていいですよ」

貴族っぽい方が売れそうだし。
でも王子は首を捻って難しいな、と言っている。
まあ散々駄目駄目言ってきたし、匙加減は難しいよね。

「売りたい物があるのだが、店主は居るか」
「私がこの店の主でございます。よろしければ、こちらへ」

店主は店番かと言いたくなる位、若い。
若いといっても二十代から三十代だと思う。
銀色の髪に、青灰色の瞳のイケメンだ。
通されたのは奥の部屋。
店の前にも奥の部屋の前にも用心棒らしい男達が立っている。
あまり荒くれ者には見えないのは、店の信用に関わるからだろう。

早速香りの良いお茶も運ばれてきて、私は護衛ですという顔で椅子の横に立ったのだが、王子は目敏く注意してくる。
隣をぽふぽふ叩いて。

「ミアも座れ」
「はい」

私も素直に従っておく。
そこまで大都会という訳でもないし、詐欺をしにきた訳でもないので、特に名前を詐称する必要も無いだろう。
王子は紅茶に手を伸ばして、香りを嗅いでから言う。

「ブルーム産の春摘みか。中々良い趣味をしている」
「おや……流石でございますな。この時期で無いと中々手に入りませんもので」
「今日はこれを売りたい」

胸元からハンカチを出して、その上に先程の月長石を載せる。
店主がほお、と目を見張った。
うん、その価値全然分からんけど。
とりあえず、紅茶も飲んでみる。
美味しい。
流石、ブルーム産の春摘みですね。
ちっとも分からんけど。

「手に取っても?」
「うむ。構わん」

店主はハンカチごと手に乗せて、目にルーペを着けて色々な角度から確認する。
すると王子は、何やら話し出した。
その指輪の曰くとやらを。
何かの物語みたいで、私の初めて聞く話だ。
店主も宝石を見ながら、時折耳を傾けて頷いていた。

「我が家に伝わる宝石で、実際はどうか分からんがな」

最後に王子スマイルで、嘘じゃないけど本当かも分からないよ、みたいに付け足す。
え?これ、詐欺じゃない?大丈夫?
変なところで度胸あるな、こいつ。

「ふむ。確かに品は良い物の様ですな。台座は悪いし、古いが……20金で如何でしょう?」
「良いだろう。そなたの目も商売も信用に足りそうだ」

二人はにこりと笑んで握手を交わした。
店主か片手を上げると、奥から執事らしき隙の無い男が出てきた。
黒髪を後ろで一本にまとめている、鋭い灰色の眼をしている男だ。
ベルベットの台座の上に上質な皮袋に入れられた金貨を差し出してくる。

「どうぞ、お確かめください」

王子が私を見て、私が皮袋に手を伸ばして確認する。

「確認しました」
「うむ。ではまた、寄らせて貰おう」
「是非、御贔屓に」

深く礼をした店主と執事に見送られて、部屋を出て、それから冒険者ギルドに行く。
今日だけで25金貨稼いだんだが??
どうなってんの?
目立つ王子は表に立たせて、私だけ受付で預金を済ませる。
ついでに王子の為の魔法書も3冊買った。
私も使っている能力開示《ステータス》と清潔《クリーン》と鑑定《アプレイザル》だ。
これは、金策手帳もつけた方がいいな!
私は再び王子を連れて、王子の部屋に戻った。

「じゃあ王子、お片づけしましょう」
「分かった」

夜会用の服は2着、そこそこ綺麗な貴族の坊ちゃん服は3着、あとシャツとタイツを纏めて一つの鞄に入れて、部屋の隅に置いておく。

「服はもうこれ以外は全部売りましょうね」
「む、……むぅ……」

眉を顰めるが反論はしない。
だって着ていく場所が無いものね。
うっかりそんな時が来た時に為に二着は保留したけど。
でもその時になってみないと分からないじゃない?
流行とかもあるから、この先何年も経ってからなら、取っておく意味はあまり無いと思う。
かといって、この街だけで大量に古着屋さんに売ったら価格崩壊しそうだし、たまーに一着ずつ売るとかしかないかも。
もっと大きな都市に持っていって売る方がいいのかなぁ?
その道のプロに相談した方が良さそうな気もする。
古着屋のおじさんに聞いてみるかな。
出来れば大きな町に行商へ行く人がいて、沢山買ってくれたら楽なんだけど。

あ、そうだ。

「王子、これ魔法書です。覚えてください」
「ありがとう、ミア」

王子は素直に受け取って、魔法書を開く。
うにょってるうにょってる。
シュッと魔法書が消えて、王子は軽く頭を振った。

「ふむ、こんな物があるとは知らなかった。凄いな、ミアは」
「いえ、凄いのは作った人達でしょう。迷宮でも見つかるそうですし、楽しみですね」
「ああ!」

まだ全然実力足りてないけどな!
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

妖精の取り替え子として平民に転落した元王女ですが、努力チートで幸せになります。

haru.
恋愛
「今ここに、17年間偽られ続けた真実を証すッ! ここにいるアクリアーナは本物の王女ではないッ! 妖精の取り替え子によって偽られた偽物だッ!」 17年間マルヴィーア王国の第二王女として生きてきた人生を否定された。王家が主催する夜会会場で、自分の婚約者と本物の王女だと名乗る少女に…… 家族とは見た目も才能も似ておらず、肩身の狭い思いをしてきたアクリアーナ。 王女から平民に身を落とす事になり、辛い人生が待ち受けていると思っていたが、王族として恥じぬように生きてきた17年間の足掻きは無駄ではなかった。 「あれ? 何だか王女でいるよりも楽しいかもしれない!」 自身の努力でチートを手に入れていたアクリアーナ。 そんな王女を秘かに想っていた騎士団の第三師団長が騎士を辞めて私を追ってきた!? アクリアーナの知らぬ所で彼女を愛し、幸せを願う者達。 王女ではなくなった筈が染み付いた王族としての秩序で困っている民を見捨てられないアクリアーナの人生は一体どうなる!? ※ ヨーロッパの伝承にある取り替え子(チェンジリング)とは違う話となっております。 異世界の創作小説として見て頂けたら嬉しいです。 (❁ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾ペコ

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~

名無し
ファンタジー
「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」 「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」 「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」 「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」 「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」 「くっ……」  問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。  彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。  さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。 「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」 「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」 「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」  拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。  これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

ちょっっっっっと早かった!〜婚約破棄されたらリアクションは慎重に!〜

オリハルコン陸
ファンタジー
王子から婚約破棄を告げられた令嬢。 ちょっっっっっと反応をミスってしまい……

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...