ざまぁ返しを全力回避したヒロインは、冒険者として生きていく~別れた筈の攻略対象たちが全員追ってきた~

ひよこ1号

文字の大きさ
上 下
38 / 89

不憫な王子様

しおりを挟む

美味しい料理を食べながら、冒険者達から聞いたこの街の説明もする。
楽しい食事を終えた後、私は王子を宿まで送って行く事にした。

「いや、普通逆じゃないか……?」

王子は困ったように眉を下げるが、今日やらかしたばかりである。
狙われていないとも限らない。

「今日やらかしたの忘れてないですか?私も全然強くないですけど、人がいた方が防犯になります。夜中は絶対部屋の鍵を開けたらだめですよ。私が呼んでるとか火事だって言われてもです」
「……えっ、本当に火事だったらどうするんだ」

驚いた様に言うが、私は冷たい目を王子に向ける。

「二階か三階でしょ?火が部屋まできたら、飛び降りればいいんですよ。死にはしません。怪我はするでしょうけど」
「そっ、それに女性を待たせるなど……」
「夜中に男性の元を訪れる、そういう女だと思ってるんですか?ひどいですぅ」

拗ねたように顔を背ければ、ち、ちがっと言いながら王子は慌てる。
本当にこいつ、騙されそう。

「とにかく、暫く、夜中は部屋の鍵を開けない。分かった?私の言う事聞けないなら、もうここでお別れしますよ」
「分かった!誓う!誓うからそんな事を言わないでくれ……」

涙ながらに縋る姿はかわいそう。
でも心を鬼にしないと、こいつ丸裸にされそうだもんな。
子犬がふわふわの毛を全部剃られると思ったら、ちょっとゾッとするわ。
見つけたのが今日で、お金も取り上げておいて良かった、ほんと。

「分かりました。明日の朝迎えに来るので、良い子にしててください。朝食は私の宿で食べますからね」
「分かった!」

必死でブンブン首を縦に振る王子。
今日だけは、仕方ないと部屋の前にまで付いて行って、見届けてから帰る。
何かこう、お母さんかな?私。
首根っこを噛んで運んでる親猫みたいな気分。
一応、外では特に尾行もされていなかったし、街中でも視線はあるけど追われてはいなさそうだった。
熟練の護衛やら諜報活動する人だったら、多分私には認識できていないけれども。
王子を放り出したとはいえ、王家も護衛は残してると思うんだよなぁ。
でも、その人達の役目が見守るだけなら、やはり危険は自分で対処しないといけない。
手順を踏んで、納得させた上で城を出てきたというのも意外な話だ。
そうしてなかったら、王家に連絡入れて引き取って貰ったけどね。
ついでに報奨金貰うぐらいはしたと思う。
まあ、国王と弟が良い人達で良かったよ。
下手したら、王子を惑わした罪とかで私も殺されてもおかしくなかったもんね。
はー怖い怖い。
今後もその心配は完全に消えるわけじゃないけれど、いつまでも私も弱いままでいるつもりはないし。
全部跳ね返せるくらいには強くなってやる。

私は決意も新たに、部屋に戻るとルーティーンを開始する。
素振りに筋トレ、薬草本の読み込み。
程よく運動して、脳みそに文字列を見せればあっという間に朝になるのである。

目覚めたら、いつもの装備を身に着けて王子の元へと向かう。
部屋に迎えに行き、名前を呼びながらノックすると、恐る恐る王子が扉を細く開いた。
一応警戒してるね?
感心、感心。
でも、何か様子がおかしい。
顔色があまり良くない。
何だろう?

「中入ってもいいですか?」
「……あ、ああ、いいぞ」

部屋の中に入ると、何というかどうしようもなかった。
鬼のように荷物が積みあがっていて、ベッド以外は荷物で埋まっている。
でも、それくらいで顔色悪くなったりしないな?

「ちゃんと寝れました?」
「それが、あまり寝れなくて……」

新しい生活に馴染めないとかならいいけど、枕が僕に合わないとかだったらぶっ飛ばずぞ。
じっと見ていると、王子はとんでもない白状をした。

「鎧が……脱げなくてな……寝転がったけれど、あまり寝心地は良くなくて」

はぁぁ……何とも予想外の理由。
私のは部分的に皮鎧だから、着脱は簡単だ。
皮鎧の部分だけはずせば、普通の服だからそのままでも眠れる。
そうしたことはないけれど、鎧を着けたままでも多少痛いだろうけど寝れない事はないけれど。
そうかぁ。
金属鎧って、自力で着脱するの手間かかりそうだし、王子だから通常の着替えも従者任せだったら、鎧なんて難易度クソ高えじゃねぇか!
王様ァァ!!
貴方の息子がとんでもないところで躓いてますよぉぉ!
でも、こればかりは王子の所為とは言い切れない。
怒られるかな?どうかな?みたいに伺ってくるような、やらかしてしまった後の子犬みたいな目線に、ちょっと同情。
頭を優しく撫でた。

「鎧を脱いだり着たりするのは難しいですよね?ちょっと手伝ってあげるので、自力でも出来るか確認してあげますから、そんなに落ち込まなくていいですよ」

涙目になった王子の背に回って、ちょっと構成を確認してみる。
あっ、これは面倒くさい。
細い紐でいくつもの部品を括り付けるように着せてある。
何でこんな面倒臭い構造なの!?
確かに衝撃で外れたりしないようにというのはわかるんだけどさ、一人で着れないじゃん。
ていうか、解いて脱がせる事は出来るけど、元の様に着せる自信はないです。
だって、どこに紐通すのかもわかんないもん。

「アルク、これ、難しい。脱がす事は出来るけど、私じゃ着せる事できないかもしれない。暫く、脱いだり着たりし易いように、新しい鎧買う?」
「……そうだな。休めないと体力が落ちるだろうし、訓練にも身が入らないのでは本末転倒だ」
「分かった。とりあえず脱ごうね」

意外に冷静な分析に、私も頷いた。
私は細い紐を解いていく。
何か、私にもまだまだ知らない事がある。
昨日の夜置き去りにされた後、一人で悪戦苦闘したのかと思うと何だか切ないな。
生涯で一番、最悪の就寝だっただろうと思うと、かわいそう。
それなのに、叱られると思っていたとか、不憫。
王子を解放するべく、私は無心に紐を解き続けた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...