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やる気がないんじゃなくて狂気の錬金術師だった
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「一つしかないですし、何で無料であげなきゃいけないんですか……」
約束したのに時間スルーした挙句に、本読めば?って言ってくる人に、無料であげたいなんて思えない。
私が育てたんだよ?
まあ、種からじゃないし、一週間くらいだけども。
それに一つだけじゃなくて五つはいますけども。
「む、そうだな。じゃあ、その薬草を使って目の前で回復薬を作ってやろう」
ドヤ顔で言うけど、それって最初にギルド通してお願いした事じゃん。
私は思わず呆れた目を向けた。
「何のご褒美にもなってないですよ、それ。本読むからいいです」
肩を掴んでいた手の力が緩んでいたので、手で振り払った。
私の冷たい言葉に気がついたアーヴォが眉を顰める。
「道具は持っているのか?」
「いえ、まだ持っていませんけど」
「じゃあ、回復薬が作れる道具を一セット分けてやる。それでどうだ?」
「ガラス瓶もつけてくれます?薬草以外の材料も一式」
私が首を傾げて言うと、溜息を吐いてアーヴォが掌をひらひらと上下に振った。
「構わん」
「じゃあ、取って来るので、約束の品を用意しておいて下さいね」
「分かった」
私は走って宿屋に戻った。
いい運動になりそう。
あと、薬草ちゃんもう少し増やそうかな。
宿屋にある薬草ちゃんを一つ引っこ抜いて、私は錬金術師宅へと走って戻る。
はあはあ、と息切れしながら、抜いてきた薬草を見ると、アーヴォは喜色を浮かべた。
目の細かい布に、大きく切った薬草と数種類の材料を包んで縛り、水を入れた鍋で煮立てる。
「おお……」
アーヴォが歓喜の声を上げるので見てみると、煮立てた汁が鮮やかな青だ。
若干光っているような。
青の洞窟とかのあの綺麗な青。
それを布で漉して透明な入れ物に移す。
更に其処から小分けに、店に並んでいた瓶に注ぎ入れて封をしていく。
そして、残った液体を見て、徐にアーヴォは自分の手にナイフを突き立てた。
「ガァッ」
「えっ」
こわ!
発狂したの?
な、何?
手からは勿論血が溢れて、ナイフを抜いた途端にぼたぼたと血が零れる。
だが、ヒヒ、と笑いながらアーヴォは漉すのに使った大瓶をつかんで、その中に残った液体を飲み干した。
途端に、手に負った傷がシュウシュウと癒えていく。
「ハハハハハハハハハハハハハ!越えた!越えたぞ!私は奴を越えた!」
何か笑い出した。
そして叫び出した。
口の端から涎も垂れてるし、やば。
こっわ。
私はもう、ドン引きどころじゃない。
物理的に距離をとってしまった。
でも、まだ報酬半分しか貰ってない。
「ミアとやら。喜べ。お前を専属の採取人としてやろう。一日10銀貨でどうだ?破格だろう」
いや、血走った目で言われても。
それにぶっちゃけ、多分それ、私の事騙しにきてません?
だって、魔法薬《ポーション》でも回復薬は10銀貨で、多分これは10銀貨を越える性能になってる。
それが、薬草一つにつき5,6本出来るとしたら、かなりの金額になるよね。
まあ、どこまで売れ行きがいいのか分からんけども。
これがエミリーさんの言ってた注意ですね、わかります。
「あー…その前に、今日の報酬下さい。私が持って帰っていい道具ってどれですか?」
アーヴォが見るからに嫌そうな顔で舌打ちした。
え、態度悪。
そして、ぞんざいに木箱にいれた道具を、足でこっちに寄せる。
私はそれを持ち上げた。
「専属契約はちょっと冒険者ギルド通さないといけないって言われてるので、一度帰りますね!」
そう挨拶をして、脱兎の如く逃げ帰る。
だって、あの人断ったらあのナイフで刺してきそう。
こわいこわい。
往来で囲んでくるイキってる冒険者より怖い。
一番怖い人って話が通じない人だもんね。
私は道具一式を持って、冒険者ギルドに逃げ帰った。
そして、個室面談です。
「……そう。そんな事があったの。ごめんね、変な人紹介しちゃったみたいで……」
「いえ、大丈夫です。でも、専属契約はギルドの方から断ってもらえますか?今は薬草採取してるけど、ずっと続ける訳じゃないので」
「ええ、それは勿論!あと、錬金術工房と鍛冶工房だったら、ギルドが管理している場所がここにあるわ」
スッとエミリーさんが街の地図を見せてくれる。
料理とは違い、錬金術と鍛冶は失敗した時に火事も起こりやすいので、なるべく街の外周近くに施設や工房があるのだ。
指を差した場所を、あらためて矢印付きで書き込んでくれる。
「お詫びにこの地図をあげるわ」
「え、いいんですか?ありがとうございます!」
街の地図ゲット!
今まで冒険者ギルドと東門と宿屋と大聖堂くらいしか日々行かないからいいかなって思ってた。
でも、さすがにそろそろ必要だよね。
今日は大変な目にあったけど、道具は揃ったし良かった。
もう二度と会いたくないし、本で勉強しますわ。
その時私の中では、事件はもう終わっていたのだけど、そうは問屋が卸さなかった。
問屋ならちゃんと卸せよ!
でも、アーヴォは諦めてくれていなかったのである。
約束したのに時間スルーした挙句に、本読めば?って言ってくる人に、無料であげたいなんて思えない。
私が育てたんだよ?
まあ、種からじゃないし、一週間くらいだけども。
それに一つだけじゃなくて五つはいますけども。
「む、そうだな。じゃあ、その薬草を使って目の前で回復薬を作ってやろう」
ドヤ顔で言うけど、それって最初にギルド通してお願いした事じゃん。
私は思わず呆れた目を向けた。
「何のご褒美にもなってないですよ、それ。本読むからいいです」
肩を掴んでいた手の力が緩んでいたので、手で振り払った。
私の冷たい言葉に気がついたアーヴォが眉を顰める。
「道具は持っているのか?」
「いえ、まだ持っていませんけど」
「じゃあ、回復薬が作れる道具を一セット分けてやる。それでどうだ?」
「ガラス瓶もつけてくれます?薬草以外の材料も一式」
私が首を傾げて言うと、溜息を吐いてアーヴォが掌をひらひらと上下に振った。
「構わん」
「じゃあ、取って来るので、約束の品を用意しておいて下さいね」
「分かった」
私は走って宿屋に戻った。
いい運動になりそう。
あと、薬草ちゃんもう少し増やそうかな。
宿屋にある薬草ちゃんを一つ引っこ抜いて、私は錬金術師宅へと走って戻る。
はあはあ、と息切れしながら、抜いてきた薬草を見ると、アーヴォは喜色を浮かべた。
目の細かい布に、大きく切った薬草と数種類の材料を包んで縛り、水を入れた鍋で煮立てる。
「おお……」
アーヴォが歓喜の声を上げるので見てみると、煮立てた汁が鮮やかな青だ。
若干光っているような。
青の洞窟とかのあの綺麗な青。
それを布で漉して透明な入れ物に移す。
更に其処から小分けに、店に並んでいた瓶に注ぎ入れて封をしていく。
そして、残った液体を見て、徐にアーヴォは自分の手にナイフを突き立てた。
「ガァッ」
「えっ」
こわ!
発狂したの?
な、何?
手からは勿論血が溢れて、ナイフを抜いた途端にぼたぼたと血が零れる。
だが、ヒヒ、と笑いながらアーヴォは漉すのに使った大瓶をつかんで、その中に残った液体を飲み干した。
途端に、手に負った傷がシュウシュウと癒えていく。
「ハハハハハハハハハハハハハ!越えた!越えたぞ!私は奴を越えた!」
何か笑い出した。
そして叫び出した。
口の端から涎も垂れてるし、やば。
こっわ。
私はもう、ドン引きどころじゃない。
物理的に距離をとってしまった。
でも、まだ報酬半分しか貰ってない。
「ミアとやら。喜べ。お前を専属の採取人としてやろう。一日10銀貨でどうだ?破格だろう」
いや、血走った目で言われても。
それにぶっちゃけ、多分それ、私の事騙しにきてません?
だって、魔法薬《ポーション》でも回復薬は10銀貨で、多分これは10銀貨を越える性能になってる。
それが、薬草一つにつき5,6本出来るとしたら、かなりの金額になるよね。
まあ、どこまで売れ行きがいいのか分からんけども。
これがエミリーさんの言ってた注意ですね、わかります。
「あー…その前に、今日の報酬下さい。私が持って帰っていい道具ってどれですか?」
アーヴォが見るからに嫌そうな顔で舌打ちした。
え、態度悪。
そして、ぞんざいに木箱にいれた道具を、足でこっちに寄せる。
私はそれを持ち上げた。
「専属契約はちょっと冒険者ギルド通さないといけないって言われてるので、一度帰りますね!」
そう挨拶をして、脱兎の如く逃げ帰る。
だって、あの人断ったらあのナイフで刺してきそう。
こわいこわい。
往来で囲んでくるイキってる冒険者より怖い。
一番怖い人って話が通じない人だもんね。
私は道具一式を持って、冒険者ギルドに逃げ帰った。
そして、個室面談です。
「……そう。そんな事があったの。ごめんね、変な人紹介しちゃったみたいで……」
「いえ、大丈夫です。でも、専属契約はギルドの方から断ってもらえますか?今は薬草採取してるけど、ずっと続ける訳じゃないので」
「ええ、それは勿論!あと、錬金術工房と鍛冶工房だったら、ギルドが管理している場所がここにあるわ」
スッとエミリーさんが街の地図を見せてくれる。
料理とは違い、錬金術と鍛冶は失敗した時に火事も起こりやすいので、なるべく街の外周近くに施設や工房があるのだ。
指を差した場所を、あらためて矢印付きで書き込んでくれる。
「お詫びにこの地図をあげるわ」
「え、いいんですか?ありがとうございます!」
街の地図ゲット!
今まで冒険者ギルドと東門と宿屋と大聖堂くらいしか日々行かないからいいかなって思ってた。
でも、さすがにそろそろ必要だよね。
今日は大変な目にあったけど、道具は揃ったし良かった。
もう二度と会いたくないし、本で勉強しますわ。
その時私の中では、事件はもう終わっていたのだけど、そうは問屋が卸さなかった。
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