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幕間ー幼馴染の追慕
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幼い頃出会ったミーティシアは、可愛くて花のような女性だった。
物怖じしないし、へこたれない。
俺が泣いていると、慰め、苛められると相手を怒る。
弱かった俺は彼女に守られて成長した。
でもある日、運命が変わる。
彼女のあまりの美しさ、可愛らしさに、きっと神が手を差し伸べたのだろう。
そして貴族も。
平民であり孤児である彼女は、男爵家に養女として迎えられた。
貴族の家だから、もちろん近づく事さえ出来ない。
俺は孤児院で課せられた仕事をこなしつつ、近くの農家の仕事や色々な仕事を請け負って、少しずつ金を貯めた。
そして学園に入学できる年齢になった。
やっとミアに再会出来る。
俺は、同じ学園に通う貴族の従者になる為に、数年前からある貴族の家に仕えた。
何でも率先して仕事をする俺は信頼されて、従者の一人に選ばれて、主人と共に学園に行く。
授業を一緒に受けられるわけでもないし、主な仕事は身の回りの世話だが、学園に入ることは可能だ。
何かを届けたり、学園でも時間が空いた時に色々な雑務を手伝っている内に、知り合いも増えた。
当然、学園の噂話も耳に届く。
ミアは王子に見初められたのだという。
ある日、偶然見かけたミアに声をかけた。
五年ぶりの再会に、ミアは驚いたが、輝くようだった笑顔は向けてもらえない。
ただ、虫でも見たような目を向けられた。
「私に気安く話しかけないでね?王子様のお嫁さんになるんだから」
彼女はそう言って、背を向けた。
その背を見続けたけれど、ついぞ振り返ることはなかった。
涙で視界が歪んで、俺は地面に膝を着いた。
俺は何を求めて此処まで来たんだろう?
どうせ身分違いじゃないか?
もう住む世界が違うのに。
それでも彼女の悪評を聞くと、心配で学園から離れる事は出来なかった。
いつか、守ってくれた彼女のために、今度は俺が守りたいと。
声をかけることすら拒否されても、どうしても諦めがつかなかった。
だが、卒業の日、彼女は事故で記憶を失ってしまった事を会場の生徒達に告げ、颯爽と出て行った。
俺は慌ててその後を追う。
声をかけないでね?
そう言った彼女が脳裏に浮かんで、声をかけるのを躊躇うと、彼女は不思議そうに振り返った。
「ミア……」
名前を呼ぶけど、拒絶はされない。
そして、あの冷たい瞳で見られることもなかった。
「ごめんなさい。私何も覚えてなくて。貴方はどなたですか?」
「……ああ、ごめん。俺はペーター。君の孤児院時代の幼馴染だよ」
希望が胸に生まれる。
彼女は、俺の説明に、申し訳なさそうな顔をした。
昔のミアのように。
「そうなんだ。覚えてなくて、ごめんね?」
「いや、いい……いや、良くはないけど、大丈夫。これから君はどうするの?」
貴族のままでいるのかな?
それなら俺を従者にして欲しい。
ミアの傍にいたい。
冷たくされるのはもう嫌だ。
誰と一緒にいてもいいから、俺も。
だが、ミアの答えは予想の範囲外だった。
「冒険者になろうと思って」
「えっ」
冒険者?
あの危険な仕事をミアが?
平民でも貴族でもなく?
いきなり冒険者……?
「じゃあ私、急ぐから」
微笑んだミアは、記憶よりも輝いていて、何だか楽しそうで。
呆気に取られているうちに、彼女は走り去ってしまった。
ああ、ミア。
学園に来た頃は別人だったけど、元に戻ったんだな。
今のミアが俺が好きだったミアだ。
あの頃の、天真爛漫で優しくて、好奇心旺盛で、正義感の強いミア。
それなら、俺も冒険者になろう。
命をかけて君を守る。
そう決意するのは早かった。
すぐに仕えていた貴族の家の従者も辞める事を伝える。
渋られたけど、仕方がない。
けれど、翌日男爵家に行くと、ミアは既に姿を消していた。
冒険者ギルドで冒険者登録をしたけれど、ミアの事は教えてもらえなかった。
ああ、どうしよう。
でも広い世界を何の頼りもなく探し続けても出会えるなんて奇跡は起きない。
俺は、教えてもらえるまで、待ち続ける事しか出来なかった。
孤児院時代の知り合いで、どうしても助けになりたい。
その言葉を信じてくれた人が、雨の中でも立ち尽くす俺を見て、漸くミアの行き先を教えてくれたのは一週間後だった。
物怖じしないし、へこたれない。
俺が泣いていると、慰め、苛められると相手を怒る。
弱かった俺は彼女に守られて成長した。
でもある日、運命が変わる。
彼女のあまりの美しさ、可愛らしさに、きっと神が手を差し伸べたのだろう。
そして貴族も。
平民であり孤児である彼女は、男爵家に養女として迎えられた。
貴族の家だから、もちろん近づく事さえ出来ない。
俺は孤児院で課せられた仕事をこなしつつ、近くの農家の仕事や色々な仕事を請け負って、少しずつ金を貯めた。
そして学園に入学できる年齢になった。
やっとミアに再会出来る。
俺は、同じ学園に通う貴族の従者になる為に、数年前からある貴族の家に仕えた。
何でも率先して仕事をする俺は信頼されて、従者の一人に選ばれて、主人と共に学園に行く。
授業を一緒に受けられるわけでもないし、主な仕事は身の回りの世話だが、学園に入ることは可能だ。
何かを届けたり、学園でも時間が空いた時に色々な雑務を手伝っている内に、知り合いも増えた。
当然、学園の噂話も耳に届く。
ミアは王子に見初められたのだという。
ある日、偶然見かけたミアに声をかけた。
五年ぶりの再会に、ミアは驚いたが、輝くようだった笑顔は向けてもらえない。
ただ、虫でも見たような目を向けられた。
「私に気安く話しかけないでね?王子様のお嫁さんになるんだから」
彼女はそう言って、背を向けた。
その背を見続けたけれど、ついぞ振り返ることはなかった。
涙で視界が歪んで、俺は地面に膝を着いた。
俺は何を求めて此処まで来たんだろう?
どうせ身分違いじゃないか?
もう住む世界が違うのに。
それでも彼女の悪評を聞くと、心配で学園から離れる事は出来なかった。
いつか、守ってくれた彼女のために、今度は俺が守りたいと。
声をかけることすら拒否されても、どうしても諦めがつかなかった。
だが、卒業の日、彼女は事故で記憶を失ってしまった事を会場の生徒達に告げ、颯爽と出て行った。
俺は慌ててその後を追う。
声をかけないでね?
そう言った彼女が脳裏に浮かんで、声をかけるのを躊躇うと、彼女は不思議そうに振り返った。
「ミア……」
名前を呼ぶけど、拒絶はされない。
そして、あの冷たい瞳で見られることもなかった。
「ごめんなさい。私何も覚えてなくて。貴方はどなたですか?」
「……ああ、ごめん。俺はペーター。君の孤児院時代の幼馴染だよ」
希望が胸に生まれる。
彼女は、俺の説明に、申し訳なさそうな顔をした。
昔のミアのように。
「そうなんだ。覚えてなくて、ごめんね?」
「いや、いい……いや、良くはないけど、大丈夫。これから君はどうするの?」
貴族のままでいるのかな?
それなら俺を従者にして欲しい。
ミアの傍にいたい。
冷たくされるのはもう嫌だ。
誰と一緒にいてもいいから、俺も。
だが、ミアの答えは予想の範囲外だった。
「冒険者になろうと思って」
「えっ」
冒険者?
あの危険な仕事をミアが?
平民でも貴族でもなく?
いきなり冒険者……?
「じゃあ私、急ぐから」
微笑んだミアは、記憶よりも輝いていて、何だか楽しそうで。
呆気に取られているうちに、彼女は走り去ってしまった。
ああ、ミア。
学園に来た頃は別人だったけど、元に戻ったんだな。
今のミアが俺が好きだったミアだ。
あの頃の、天真爛漫で優しくて、好奇心旺盛で、正義感の強いミア。
それなら、俺も冒険者になろう。
命をかけて君を守る。
そう決意するのは早かった。
すぐに仕えていた貴族の家の従者も辞める事を伝える。
渋られたけど、仕方がない。
けれど、翌日男爵家に行くと、ミアは既に姿を消していた。
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ああ、どうしよう。
でも広い世界を何の頼りもなく探し続けても出会えるなんて奇跡は起きない。
俺は、教えてもらえるまで、待ち続ける事しか出来なかった。
孤児院時代の知り合いで、どうしても助けになりたい。
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