ざまぁ返しを全力回避したヒロインは、冒険者として生きていく~別れた筈の攻略対象たちが全員追ってきた~

ひよこ1号

文字の大きさ
上 下
16 / 89

突然のランクアップ

しおりを挟む
びにょん、とスライムが身体の一部を伸ばして叩きつけるように振り下ろす。
アルトはひらりと避け、ノーツは避けながらその身体を切りつけた。

びちゃり、と音を立てて、伸ばした部分が下草に浸みるように広がる。
身体から離れると、形は崩れるのか。
でも身体が大きい分、核《コア》には届かなさそう。
火はどうかな、と思うけど、あの体積だと上から圧し掛かったらすぐに松明如きでは消えてしまうだろう。
アルトは多分、核《コア》を狙っている。
ノーツは多分、攻撃が来るたびに切り払って体積を減らしている。

てか、スライムって何処に目があるのか。
何で認識してるんだろう。
音?空気かな?
漫画で見る小さいスライムは可愛らしい顔が付いていたりするけれど、目の前のはぶよぶよした大きな粘液に、丸い核《コア》が真ん中でたゆたってるだけ。
魔法でも打ってみるか。

ばしん、と大きい触手のような物を伸ばして、二人が回避した瞬間を狙って。

火球《ファイア・ボール》、両手を突き出すように唱えて、火球は見事にスライムに命中した。
命中は、した。
したけど、ダメージは微々たるものだろう。
表面がじゅわっと溶けただけだ。

「「えっ」」

二人の驚く声がする。

「お前魔法使いだったのかよ!」

アルトの言葉に、私は木の影から顔を出して答える。

「学校で習っただけで、大した魔法は使えないです。魔法使いの枠に入れたら怒られますよ」
「いや、それでも才能がないと出来ないからな」

切り払いながら、ノーツは苦笑を浮かべていた。
でも、残念ながら役に立ってはいない。

うーん。
でも、珍しいのは光魔法なんだよね?
だったら、魔物に効果的なのも光魔法なのかもしれない。
ちょっと試してみるか。
元々試そうかなって思ってた奴だし。
辺りを照らせたらいいなって、灯りというか光?
さっきみたいに、攻撃可能な球にしたら、少しは効果あるかもしれない。

「ちょっと試したい事あるんで、回避に集中して貰えますか?さっきみたいに無駄打ちになるかもですけど」
「おお、やれやれ」

アルトは楽しそうに言い、ノーツは無言で頷いた。

私は集中する。
光球《ライトボール》

んー……?
さっきはバシュッて感じで飛んでったのに、照らそうという意識が強くなっちゃったのかな。
へろへろ……と低速でキングスライムに近づいていく。
スライムの頭にもハテナが沢山浮かんでそう。
完全に無駄打ちだし、二人も何か残念そうな顔をしている。
でも一番残念に思っているのはこの私だ!

へろへろを、スライムは避けようともしなかった。
そりゃそうだ。
だって何の力もなさそうだもん。

どぱん!

でも、あろうことか、光の球はスライムに接触した途端爆発した。
大量の粘液が辺りに飛び散って、アルトはその瞬間を逃さずに、核《コア》をナイフで撃ち抜いた。
途端に、ぶるりと巨体が震えて、でろりと辺りに粘液が広がっていく。

「ふあー!アルトさん凄いですね!流石です」

パチパチと拍手をすると、アルトが呆れたように言った。

「いや、凄いのお前だろ。さっきの、あの、変なのは何だ」

変なの。
変なのとは失礼な。
私もそう思うけど。
でも、何と聞かれても私は分からない。

「よく分かりません。何か、新魔法?試し打ちですね」
「すごい威力だったぞ。あそこまで一気に体積を削るには高位の位階の魔法でもないと無理だ」

そうですよね。
多分、普通なら。
光属性だからなのかなあ?
秘匿してるから、言うのはやめておく。

「あ、でも二人ともべっちゃべちゃですね。戻りましょうか?」
「そうだな」
「核《コア》と魔石の売り上げはお前にやるよ」

スライムの近くで何かを拾っていたアルトが言う。
私は両手を振った。

「いやいや、貰えませんて。どうしてもっていうなら三等分です」
「しょーがねーな」

私達は元来た道を引き返して、無事街へと辿り着いた。
ギルドに着くと、依頼の薬草を渡す私の横で、二人が受付嬢と話をしている。
どうやら、あの場所にいてはいけないモンスターだった事を伝えているらしい。

「今回も良い感じですね。過剰達成ですよ」
「わーい」

私が無邪気に喜んでいると、隣の受付嬢がこっそりと、私の担当さんに耳打ちする。

何だろう?
二人の悪口かな?
スライムでべちゃべちゃだもんね。
スライム臭えんだよ!とか言われてたら可哀想。

担当のエミリーが、驚いた様にエッ!と言っている。
逆に今度はエミリーが、受付嬢にこっそり内緒話。
何だか可愛い。

二人でスライム塗れなんて、何してたのかしら?卑猥ね!
とか言われてたらどうしよう。
私には関係ないけど。
まあ、キングスライム倒しただけなんですけどね。

エミリーが、仕切りなおすようにコホン、と咳払い。
何か書類みたいなのを書いた後で、判子をポンと押してから、私にギルドカードを返してくれた。

おや?
冒険者ランクがあがっている…だと……?

「えぇと…これは……」
「過剰達成と、依頼の遂行率もそうなんですけど…三人だけでキングスライム倒したので、その分でランクあがっちゃいました。一応、魔法の件は秘匿って事で、ミルリにもあの二人に伝えて貰ってます」

こっそりとエミリーに言われた。
ミルリとは隣の受付嬢だろう。
てぇ、事は、あの二人はきちんと、私が魔法を使った話も報告したのね。
あの、妙な魔法を。
てか、あれってスライム以外にも効果あるのかな?
あるとしても使い道……例えば一角兎《アルミラージ》に使って成功した日には、爆散である。
お肉食べれない。
かと言って、あんなに低速じゃ素早い敵とか、小さな敵には当たらないだろう。
使いどころが難しいな。

「ご配慮ありがとうございます。二人は誤解してますけど、ただのまぐれで使い道の無い魔法なので、役にはあんまり立ってなかったですが……」

まあ、早々こんな事でレベルも上がらないだろう。
違うからランク元に戻して!って言うのも何だし、その分真面目に頑張ろう。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

妖精の取り替え子として平民に転落した元王女ですが、努力チートで幸せになります。

haru.
恋愛
「今ここに、17年間偽られ続けた真実を証すッ! ここにいるアクリアーナは本物の王女ではないッ! 妖精の取り替え子によって偽られた偽物だッ!」 17年間マルヴィーア王国の第二王女として生きてきた人生を否定された。王家が主催する夜会会場で、自分の婚約者と本物の王女だと名乗る少女に…… 家族とは見た目も才能も似ておらず、肩身の狭い思いをしてきたアクリアーナ。 王女から平民に身を落とす事になり、辛い人生が待ち受けていると思っていたが、王族として恥じぬように生きてきた17年間の足掻きは無駄ではなかった。 「あれ? 何だか王女でいるよりも楽しいかもしれない!」 自身の努力でチートを手に入れていたアクリアーナ。 そんな王女を秘かに想っていた騎士団の第三師団長が騎士を辞めて私を追ってきた!? アクリアーナの知らぬ所で彼女を愛し、幸せを願う者達。 王女ではなくなった筈が染み付いた王族としての秩序で困っている民を見捨てられないアクリアーナの人生は一体どうなる!? ※ ヨーロッパの伝承にある取り替え子(チェンジリング)とは違う話となっております。 異世界の創作小説として見て頂けたら嬉しいです。 (❁ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾ペコ

A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~

名無し
ファンタジー
「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」 「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」 「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」 「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」 「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」 「くっ……」  問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。  彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。  さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。 「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」 「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」 「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」  拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。  これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

ちょっっっっっと早かった!〜婚約破棄されたらリアクションは慎重に!〜

オリハルコン陸
ファンタジー
王子から婚約破棄を告げられた令嬢。 ちょっっっっっと反応をミスってしまい……

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

【完結】契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい~

九條葉月
ファンタジー
【ファンタジー1位獲得!】 【HOTランキング1位獲得!】 とある公爵との契約結婚を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。 花を包むビニールがなければ似たような素材を求めてダンジョンに潜り、吸水スポンジ代わりにスライムを捕まえたり……。そうして準備を進めているのに、なぜか店の実態はお花屋さんからかけ離れていって――?

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

処理中です...