ざまぁ返しを全力回避したヒロインは、冒険者として生きていく~別れた筈の攻略対象たちが全員追ってきた~

ひよこ1号

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森での遭遇、いる筈のないものがいた

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迷宮の街、遺跡の街とも言われるアルティア。
主に街の外壁の外に有り、地上に建造物がある構造物を遺跡と総称している。
だが、地下には勿論迷宮も抱えているものも多い。
基本的に遺跡も迷宮も規定以上の人数のパーティで挑む事になっている。
街の中に入り口がある迷宮は、大迷宮《ネルガル》という。
門と同じく東西南北に入り口が有り、門と同じく方向で難易度も異なる。
東が一番弱く、北が一番強い。

そんな話を聞き終わる頃には、もうご飯も食べ終わっていて。
私達は森に向かう事になった。

東門の衛兵達と何時もどおり挨拶を交わして、地図の通りに道を進んでいく。
ついでにアルトに質問してみた。

「森で迷わない様にするコツってあります?」
「慣れと勘」

参考にならねぇ。

私は思わずジト目で見てしまった。
仕方なく、専門家でなさそうなノーツを見る。

「ノーツさんは?」
「大体の方向を掴む事じゃないか?例えば日中なら太陽の位置とか」
「流石です。そういう事が聞きたかったんです。ノーツさんは教えるの上手ですね」

有益な情報に私が喜んで褒めると、ノーツが少しドヤ顔をした。
逆にアルトは何だか不機嫌そう。
「そんなに嫌ならノーツさんちの子になっちゃいなさい!」とか言い出しそう。
まあ、慣れと勘と言われればそれも正しいかもなんだけど、初心者だもんね。
一応私も、森の中を注意深く観察しながら二人と共に歩いていく。
街からの距離とかも含めて考えつつ、目当ての薬草が生えていないか、食べれる野草がないかも見る。

「あっ、これ…」
「ん?あったか?」
「いえ、肉の臭み消しになる野草です。付けあわせにも美味しいんですって」

私の返事を聞いて、アルトはめんどくさそうな顔をした。
ノーツは「ほう…」と頷いている。

「試しに摘んで帰りますね」

だって、ちょっと食べてみたいじゃない?
プチプチと葉っぱをもぎって、薬草袋とは違う小袋に詰め込んだ。

「行くぞ」

アルトに急かす様に言われて、私とノーツも歩き出す。
暫く進むと、少し開けた場所に出て、目当ての薬草の群生地が姿を現した。

「あ、ここですね」

私はしゃがんで、依頼書と薬草を見比べる。
十分以上は歩いたので、間違いなく森の中だ。
一人で分け入るには勇気がいる場所である。
依頼書どおりに、私は根っこを残して茎の部分からぷちぷちともぎった。
根はどうしても必要と言う訳ではないので、次回以降の為に残しておくんですって。
でも、家で育てらんないのかな。
薬草園作った方がはやない?
まあ、後で聞いてみよう。
そして、ちょこっと育てる用に、根っこ付も連れて帰ろう。

もぎもぎ。
もぎもぎ。

二人は特に何をするでもなく、のんびりと辺りを見回している。
一応、警戒はしてくれている様子。
手伝ってくれてもいいんだけど、私の依頼で私の仕事だしね。
何で質がいいのかわからないけど、私の何かが自然に優しいのかもしれないし。

もぎもぎ。
もぎもぎ。

必死でもぎっていたら、見覚えのある草がいた。

「こっ……これは、毒消し草かな?似てるね?」

思わず草に話しかけたが、勿論返事は無い。
とりあえず、別口で根っこ付のまま関係のない袋に入れる。

依頼の採取は終わったので、私は立ち上がった。

「お二人とも強いし、折角だからもう少し奥に行って見てもいいですか?」
「まあ、俺はかまわんが」

私の問いかけに、ノーツは同意するが、アルトは肩を竦めただけで、さっさと森の奥へと分け入って行く。
強い人だし熟練だから許されるけど、弱い奴がやったら助走をつけて殴りたくなる仕草ではある。
下生えを踏みしめながら、木の根に足を取られないように気をつけて進む。
またも十分程度進んだ所で、二人が突然足を止める。
何があったんだろう?
私も思わず、足を止めて身構えた。

「様子が少し変だな」
「ああ」

二人が短い言葉を交わす。
え?
ガチのやつじゃん。
何かこの先にいるのかな。

ノーツもアルトも、武器に手を添えている。

どぷん。

何かが水に飛び込んだような、妙な音がした。
ここには水は無い。
川も近くにないし、水音だってしない。

どん、どぷん、ぱきぱき。

何かにぶつかる音、鈍い水の音、細枝を踏み砕くような音。

そして、それは目の前に現れた。
木を飲み込むかのように身体をめりこませた、巨大な。

「チィ、キングスライムか」
「参ったな、これは。こんな所に出る奴じゃないだろう」

ふむ。
普段は何処にいるんだろう。

でも、逃げれば間に合うんじゃないのかな?
私のせいか?

「逃げた方がいいですか?」
「逃げるには足場が悪いし、森の外に出すわけにもいかん」
「お前は隠れてろ」

確かに足手まといだし、どんな攻撃をしてくるのかも分からないし。
私は木の近くから、こっそり二人を見守った。
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