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隣国へ旅立ったよ

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漸く目的地の冒険者ギルドに到着だ。
名残惜しむストーカーは最後に私に良い物をくれた。

「旅費の足しにしてくれ……こんなもので済まないが」
「いいえ、ありがとうございます。とっても嬉しいです」

マジで。
お金は幾らあっても良いので。
今開けてみるのは流石に淑女の良心が痛むので、金貨袋ごと頂いた。
鞄に収納して、にっこり微笑む。
高位貴族にとってははした金だったとしても、私には大金だ。

「ほんの五十万円だよ」みたいな感じだろう。

お礼を再度言って、馬車から降りて冒険者ギルドに入る。
外にいた冒険者は豪華な馬車から降りて来た私を物珍しげに見たが、知らぬ振りで私は受付へ急ぐ。

「冒険者登録をお願いします」
「はい。ではこちらに記入をお願いしますね」

色々と書き込む所がある書類を埋めていく。

「では、この水晶玉に触れてくださいね」
「はい」

私は言われるまま、その丸くて透明な石に触れる。
職員はそれを見ながら、何事かを私から受け取った書類に書き入れた。

「あら、珍しいですね。光属性の魔法に小回復。募集しているパーティ、結構ありますよ」
「えぇと、私暫くはソロで冒険したくて」
「そうなんですね。じゃあ、秘匿しておきますか?」

秘匿とは要するに、登録者の情報の一部を隠して、他の冒険者には知らせない事である。
例えば、ヒーラーを紹介して!という人に優先的に紹介されないようになる、という事だ。

「お願いします。あと、盗賊《シーフ》関連と狩人《レンジャー》関連の技術を教えて頂きたいんですが」
「午前中に授業を受けることは出来ますよ。ところで、あの方、お知り合いですか?」

こそっと小声で聞かれて振り返れば、窓の所に別れた筈のストーカーが張り付いていた。
いや、怖いって。

「あー……私、隣国の遺跡の町に行きたいんですけど、そこでも授業を受けることは可能ですか?」
「ええ、出来ますよ。紹介状を書くので、まず町に着いて冒険者ギルドに行ったら紹介状を見せてから、最低一回は依頼をこなしてくださいね」
「分かりました。えっと、遺跡の町まで馬車とかありますかね?」
「有りますよ。乗合馬車も良いですけど、ちょうどそっちに向かう冒険者達がいるので、ギルドの馬車に同乗出来ます。運賃は今回免除にしておきますので、食事は自分でご用意くださいね」

至れり尽くせりだ。
多分、背後のあのストーカーのお陰だろう。
逃げたい女性がいたとしたら、さり気なく助けたくなる気持ちは分かる。
ストーカー、ありがとう。
貴方のお陰で運賃無料になったよ。

気を使った受付の女性が、裏口から立派な馬車に乗せてくれる。
既に乗り込んでいた人に挨拶をして、端っこに座った。
まだ身を守れる程には強くないから、これはとても有り難い事なのだ。
ギルドの名前を冠して、ギルドの保護下にあるから問題も起きにくい。
はず。
それに、装備はきちんと肌を晒さない服装だし。
よくあるファンタジーの痴女装備は、その存在自体がファンタジーだと思う。
下乳丸出しとか、そんな恰好していたら絶対に襲われるでしょ。
ビキニアーマーはネタだとしてもよ。
男性の願望が詰まっているか、その女性の頭にゴミが詰まっているかのどっちかだ。
大体、肌を晒す利点が無い。
冒険に行くような場所って、虫だっているし、肌荒れしたら最悪だ。
罠だって毒だってある。

そんな事を考えてたら、次々に人が乗り込んで、漸く馬車が出発した。
端っこにいるから、外からは見えない。
私は慣れ親しんだ……一日くらいだけど……王都を後にした。

馬車に乗っているのは十人で、その内の六人は同じパーティだという。
残りの四人は、ギルド職員が一人に、単独の冒険者が三人。
女性は六人の中の一人で、弓使いらしく、背中に弓を背負っていた。
軽い自己紹介と、冒険の話で和気藹々となり、あっという間に仲良くなって、旅も順調に進む。

若葉マークの冒険者という事で、色々な事を教えてもらった。
野営の仕方や、それぞれの職業の特徴。
気をつけなければいけない事や、迷宮や遺跡での常識。
薄ぼんやりした前世の知識と照らし合わせながら、それらを吸収する。
途中、単独の冒険者の人にパーティを組まないかと誘われるが、全て丁重にお断りした。
「まずは一人で、依頼を一回でもこなしてみたいんです。それに、授業も受けたいので、技術を身につけて自由に冒険できるのは大分先ですから……機会があったら、一緒に冒険してくださいね」
そう言って笑顔を向ければ、快く引いてくれた。
正直、この時誰かとパーティを組んでおけば、後々の面倒臭い出来事は防げたのかもしれない。
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