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23ー番ではない愛だって
しおりを挟む「さて。義理は果たした。我が国へ帰還しよう」
「ええ、わたくしの黒竜陛下」
「君のお披露目が楽しみだな……いやでも、美しい君に恋する男が出ると思うと複雑だ。やっぱりやめておこうか」
くすくすと困ったように眉を下げて笑うエデュラに、つられてリーヴェルトも笑みを浮かべる。
肩を抱いて、玉座へと挨拶の為に歩きながら、リーヴェルトは割と本気で悩んでいた。
「国王陛下。我々はこれにて退出させて頂きます。貴国の繁栄を海の彼方より願っております」
「これから末永く手を携えて参ろう」
友好的な挨拶を交わして、皇太子リーヴェルトと皇太子妃エデュラが立ち去ろうとしたその時、再び会場に戻ってきたエリーナ姫が、大声でリリアーデに指を突き付けて言う。
「貴女ね!?わたくしのラファエリに「忘却薬」を飲ませたのは!」
「……いいえ?」
接点はないし、リリアーデは王宮でずっと王子妃教育を受けているのでその暇は無い。
エリーナ姫を嫌っているという動機はあるし、薬を手に入れられる手段はあるものの、機会は無かった。
「そんな時間はございませんでした。わたくしはずっと学園から戻っては教育を受けて参りましたから」
「じゃあ誰なのよ……」
ぐるりと見渡したエリーナ姫と、振り返って様子を見ていたエデュラの視線がぶつかる。
エリーナ姫はじっと見つめてから、目を見開いた。
「まさか………」
エデュラの目には怒りも憎しみも感じられないけれど、何故か確信が深まる。
「うそ、でしょ……」
だが、面倒だと言いたげに、リーヴェルトがその肩をぎゅっと抱きしめて言った。
「行こう、エデュラ。ここに居てもキリがない」
「そう、ですわね……」
エデュラはエリーナ姫の視線を振り切るように、静かにリーヴェルトと階段の方へ歩き始めた。
だが、エリーナ姫は止まらない。
どうしてなのか、今まで逆らわなかったのに、何故復讐をするのか、知りたいという誘惑に勝てなかった。
元々我慢は苦手なエリーナ姫に、待ては出来ないのである。
「ま、待ってよ…何で、何でなの?確かにわたくしは貴方に酷い態度を取ったけれど、番を奪ったのはあの女で、わたくしじゃないわ」
小走りで距離を詰めて言い縋る姿に、仕方なくエデュラは足を止めた。
そして、振り返る。
「本当に、知りたいのですか?」
「ええ……何故失ったのか、知ってるのなら、教えてよ」
周囲の目は気になったが、エリーナ姫は聞くまで引かないだろう。
そもそもこれは復讐などではない。
救済だ。
「フィーレン様とラファエリ様は、心中を考えておいででした」
「………は?何故……番でも無いのに?」
エリーナ姫にとって、自分が一番大事で、次に大事なのは番なのである。
その番に出会わなければ、自分だけが大事な人間だ。
「何故でしょうね。王妃様と国王陛下は、番ではなくても、あんなに仲睦まじいというのに、貴方がたの目には映りませんのね。竜人族でも人間でも、その他の獣人でも、恋愛は番以外とも致しますのに」
「……それは、そうだけど、でも、番の繋がりの方が強いでしょ?」
だからこそ、だ。
あの、気持ちを思考を無理やり塗り変えていくような、恐怖は味わってみないと分からない。
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