運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号

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21ー不幸の種を蒔いたのは

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だが、折角まとめたのに、エリンギルが激しく頭を振った。

「違う!本当に、俺の番なんだ!分かったんだ!だから!」

「お前は、王命を何と心得る」

そんなエリンギルに厳しく声をかけたのは国王だった。
ハッと、顔を上げてエリンギルは国王を振り返る。

「お前とリリアーデ嬢の婚約は王命だと言った筈だ。それに確かお前達はエデュラ嬢に言ってきたな。番であるならば、証明してみせよ、と」

「そ、れは……」

まだ番かどうか判別が出来なかった王子はそう揶揄していた。
出来ないことが分かっていて。

「皇太子と皇太子妃の二人は、結ばれた事でお互いの竜の血を覚醒させた、真の番である。それは如何とも変え難い証ではないか。其方らは番じゃないとか間違ったとか、そんなあやふやな妄言はもう終いにせよ。番だかどうかはもう問わぬから、其方らは其方らで添い遂げよ。異論は許さぬ」

番かどうかはどうでもいい。
そして、二人は真の番だ、と言われてしまえば、口を閉ざすしかなかった。

国王が手を上げると、音楽が鳴り始める。

「王妃は身重で我々は踊ることが出来ぬでな、代わりに踊って頂けまいか」
「喜んで」
「はい、国王陛下」

優しい声音の国王の願いに、礼儀正しく美しい礼を執った後、リーヴェルトとエデュラは会場の中央に進み出て、踊り始める。
薄い青から濃い青に染められたドレスがひらひらと靡き、同じように動きに合わせて舞う青い髪もまた美しい。
しっかりした体躯のリーヴェルトの厚い背中を見て、逞しい腕を見て、竜人族の令嬢たちはため息を零した。
エデュラだけを見つめる黄金の眼に射抜かれたいと願うが、それは叶わないまでも整った顔とその眼を見るだけでも眼福である。

「……ああ、わたくし……踊っているのね」
「どうかしたかい?踊りにくい?」

ふと顔を上げて惚けたように言うエデュラに、リーヴェルトは心配気に視線を落とす。
エデュラは柔らかに微笑みながら小さく首を横に振った。

「いいえ、とても踊りやすいわ。……それに、夜会で踊るのは今日が初めてなの」
「ああ、それは嬉しいな。嬉しすぎて今後も、誰とも踊らせたくない」
「ふふ……貴方ったら……」

ずっと練習はしてきていた。
踊るあてもないのに。
それでも、誰かの為にしてきた事がきちんと身に宿っている。
きっと、リーヴェルトの為だったのだとエデュラは嬉しそうに微笑んだ。


仲睦まじく会話しながら踊る二人を、拳を握りしめてリリアーデはギリギリと心臓を締め付けられるような痛みを抱えながら見ていた。
彼は元々人間だから、番を見つける感覚は鈍い筈だ。
しかも偶々、本当に偶々エデュラと相性が良かったのだろう。
だから、覚醒してしまった。
先に気づいていれば。
そうすれば、私が彼の妻に、皇太子妃になれたのに。
邪魔なエデュラもエリンギルと結ばれた筈だ。
なのに、気づけなかった。
気づけなかったから、出遅れた上に取り返しのつかない事態になってしまったのだ。
何故、と歯を食いしばって、漸く気が付いた。
双子や父親に唆されてエリンギルに食べさせていたクッキーに「阻害薬」を仕込んでいたのである。
番を認識できなくする薬だ。
それを、一緒に食べていた。
エリンギルだけに食べさせたら怪しいし、自分の番などどうでも良かった。
そう思っていた。
こんな事になるなら、過去に戻ってやり直せたら。
でもそれは無理だ。
そんな都合の良い話は無い。
だとしたら、もう番への愛は捨てるしかないだろう。

「少し、風に当たって参ります」

国王と王妃に挨拶をして、自室へと引き上げる。
商売をしている父親の伝手をたどって手に入れた、「忘却薬」。
それを飲めば、狂おしいほどのリーヴェルトへの愛は消える。
愛したい、愛したい。
愛されたい、愛されたい。
渦巻く気持ちを抑えつけて、小瓶の中身を一気に飲み干した。

「……ああ」

火照っていた身体が冷める様に、波が引いていくように。
狂おしい感情の波は消え去っていた。
胸にぽっかりと空虚な穴が開いたようだったけど、大事なのは愛じゃない。
身分だ。
折角王子の婚約者となれたのだから、それを捨てる手はない。
小国だとしても王族だ。

「……仕方ないわ…」

でも失くしたものは大きい。
胸が潰れるほどの幸福な愛と、強大な帝国の皇太子妃の座。
どちらも手に入った筈なのに、と思うと悔しい。
もう手の届かないものだけれど。
空になった小瓶を、机の中に戻すとリリアーデは会場へと歩き出した。
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