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20ー余計な愛は要らない
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縋るような眼を向けて、エリンギルはエデュラに優しく語りかけた。
「だが、ずっと番として、傍に居ただろう?」
十年という長い歳月。
だが、もうエデュラの瞳の何処を探しても愛する者への眼差しは見つからない。
忘れさせたのは、解放してしまったのはエリンギルだ。
「その間の殆どの時間、番ではないと言い続けてきたのは、どなたですか?最終的には番同士を引き裂く大罪人と断罪されましたし、賜った薬で殿下への愛は忘れました。……新しい、自分で選んだ運命はリーヴェルト皇太子殿下でございます」
「ああ。エデュラ」
嬉しそうに微笑んだリーヴェルトが、感極まったようにエデュラの額に口づけを落とした。
「やめて!!」
悲鳴のようにリリアーデが声を上げる。
身体の奥から、リーヴェルトを愛しいと叫ぶ狂おしい声がして、彼がエデュラに愛を振り撒く度に心が引き裂かれそうになった。
リリアーデはエデュラを見る。
彼女は三年間、この痛みに耐え続けてきたのか、と。
「エデュラ様、貴女の番はお返し致しますから、どうかリーヴェルト殿下をわたくしに…」
「そうだ!そうすれば良い。ここは番同士で収めるのが常套だろう」
すかさず、大袈裟に手を広げてエリンギルは会場に向けて発するが、返ってくる視線は冷たい。
何しろ、独断で行った断罪や追放の話はほとんど好意的に受け取られてはいないからだ。
泣きながら愛を伝える番に、無理やり忘却薬を飲ませるなどあってはならない行為である。
勘違いと嘲笑を向けた貴族でさえ、怒りを禁じえない行いだった。
エデュラは侮蔑に染まった底冷えする目をリリアーデに向けた。
「まるで殿方を物の様に扱われますのね?相手の意思も確認せずに……」
「だって本当だもの!今度こそ、そうだって分かるのよ!」
だが、静かに見守っていたリーヴェルトが、笑い始めた。
「クックック…アハハハハ!傑作じゃないか!番?番だと?笑わせるな。君は学園で三年間、私を罵倒することはあっても、愛を囁くことなど無かったではないか」
「………えっ?でも、会ったのは今日が初めてで……?」
ふう、と笑い終えたリーヴェルトは低い声で問いかける。
「成り損ない、と言えば分かるか?」
「ヒッ……」
リリアーデは両手で口を覆った。
それは地味な眼鏡の男爵令息で、散々お似合いだとからかってきた相手である。
鋭く冷たい眼に射抜かれて、芯から凍りそうなのに、幸福感も一緒に押し寄せるという奇妙な感覚に包まれながら、リリアーデは愛しい番から目を離せなかった。
「気づいてもいない癖によくもまあ、番だの何だのとけたたましく囀る。……竜に成れなかった成り損ないの私は、美しく気高く優しい竜人族の娘と身も心も結ばれて、竜と成ったのだ。私は彼女を生涯離さぬし、大事に慈しむだろう。他へ向ける愛など欠片ほども無い」
そこで今度は妙な横槍が入った。
エリーナ姫だ。
「お待ちになって?両国の絆を深めるために、わたくしを正妃として迎え入れて下さいませ。エデュラは側妃で構いませんわよね?」
そんなわけがあるか。
と見ている殆どの人間が思っただろう。
「断る」
だが、リーヴェルトの答えは簡潔明瞭だった。
ぐっと、言葉に詰まり赤面した後で、エリーナは譲歩案を提示する。
「そ、それなら側妃でも構いませんわ」
「断る。エデュラ以外は要らない」
「……なっ…」
「で、では、わたくしを側妃に」
今度はリリアーデが縋ってくる。
話を聞かない二人に、リーヴェルトは呆れた視線を向けた。
「言葉は通じているのに話が通じないな。人を人とも思わず罵倒してくるような女は、妻にするどころか視界にも入れたくはない。身に覚えがあるだろう?」
今度こそ二人は口を噤んだ。
他者を嘲り嗤ってきた二人だ。
くすくすと、嘲るような笑いが会場から聞こえる。
「余興はそろそろ終わりにしては如何でしょうか?竜人族の王子の婚約者であるリリアーデ様と、竜人族の王子であるエリンギル様を振って、わたくし達夫婦が結ばれたという美談を広めたいというお心遣いに感謝いたします。これで、「勘違い令嬢」「成り損ない」という負の噂は払拭できたかと存じますわ」
「ふむ。そういう事ならば仕方ない。無礼は不問に致そう」
美しく事態をまとめるエデュラに、リーヴェルトは優しい眼差しを注いだ。
国王と王妃もにこやかに頷いている。
「だが、ずっと番として、傍に居ただろう?」
十年という長い歳月。
だが、もうエデュラの瞳の何処を探しても愛する者への眼差しは見つからない。
忘れさせたのは、解放してしまったのはエリンギルだ。
「その間の殆どの時間、番ではないと言い続けてきたのは、どなたですか?最終的には番同士を引き裂く大罪人と断罪されましたし、賜った薬で殿下への愛は忘れました。……新しい、自分で選んだ運命はリーヴェルト皇太子殿下でございます」
「ああ。エデュラ」
嬉しそうに微笑んだリーヴェルトが、感極まったようにエデュラの額に口づけを落とした。
「やめて!!」
悲鳴のようにリリアーデが声を上げる。
身体の奥から、リーヴェルトを愛しいと叫ぶ狂おしい声がして、彼がエデュラに愛を振り撒く度に心が引き裂かれそうになった。
リリアーデはエデュラを見る。
彼女は三年間、この痛みに耐え続けてきたのか、と。
「エデュラ様、貴女の番はお返し致しますから、どうかリーヴェルト殿下をわたくしに…」
「そうだ!そうすれば良い。ここは番同士で収めるのが常套だろう」
すかさず、大袈裟に手を広げてエリンギルは会場に向けて発するが、返ってくる視線は冷たい。
何しろ、独断で行った断罪や追放の話はほとんど好意的に受け取られてはいないからだ。
泣きながら愛を伝える番に、無理やり忘却薬を飲ませるなどあってはならない行為である。
勘違いと嘲笑を向けた貴族でさえ、怒りを禁じえない行いだった。
エデュラは侮蔑に染まった底冷えする目をリリアーデに向けた。
「まるで殿方を物の様に扱われますのね?相手の意思も確認せずに……」
「だって本当だもの!今度こそ、そうだって分かるのよ!」
だが、静かに見守っていたリーヴェルトが、笑い始めた。
「クックック…アハハハハ!傑作じゃないか!番?番だと?笑わせるな。君は学園で三年間、私を罵倒することはあっても、愛を囁くことなど無かったではないか」
「………えっ?でも、会ったのは今日が初めてで……?」
ふう、と笑い終えたリーヴェルトは低い声で問いかける。
「成り損ない、と言えば分かるか?」
「ヒッ……」
リリアーデは両手で口を覆った。
それは地味な眼鏡の男爵令息で、散々お似合いだとからかってきた相手である。
鋭く冷たい眼に射抜かれて、芯から凍りそうなのに、幸福感も一緒に押し寄せるという奇妙な感覚に包まれながら、リリアーデは愛しい番から目を離せなかった。
「気づいてもいない癖によくもまあ、番だの何だのとけたたましく囀る。……竜に成れなかった成り損ないの私は、美しく気高く優しい竜人族の娘と身も心も結ばれて、竜と成ったのだ。私は彼女を生涯離さぬし、大事に慈しむだろう。他へ向ける愛など欠片ほども無い」
そこで今度は妙な横槍が入った。
エリーナ姫だ。
「お待ちになって?両国の絆を深めるために、わたくしを正妃として迎え入れて下さいませ。エデュラは側妃で構いませんわよね?」
そんなわけがあるか。
と見ている殆どの人間が思っただろう。
「断る」
だが、リーヴェルトの答えは簡潔明瞭だった。
ぐっと、言葉に詰まり赤面した後で、エリーナは譲歩案を提示する。
「そ、それなら側妃でも構いませんわ」
「断る。エデュラ以外は要らない」
「……なっ…」
「で、では、わたくしを側妃に」
今度はリリアーデが縋ってくる。
話を聞かない二人に、リーヴェルトは呆れた視線を向けた。
「言葉は通じているのに話が通じないな。人を人とも思わず罵倒してくるような女は、妻にするどころか視界にも入れたくはない。身に覚えがあるだろう?」
今度こそ二人は口を噤んだ。
他者を嘲り嗤ってきた二人だ。
くすくすと、嘲るような笑いが会場から聞こえる。
「余興はそろそろ終わりにしては如何でしょうか?竜人族の王子の婚約者であるリリアーデ様と、竜人族の王子であるエリンギル様を振って、わたくし達夫婦が結ばれたという美談を広めたいというお心遣いに感謝いたします。これで、「勘違い令嬢」「成り損ない」という負の噂は払拭できたかと存じますわ」
「ふむ。そういう事ならば仕方ない。無礼は不問に致そう」
美しく事態をまとめるエデュラに、リーヴェルトは優しい眼差しを注いだ。
国王と王妃もにこやかに頷いている。
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