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19ー真実の番
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夜会が近づくにつれ、二人は不安など何処かへ吹き飛んでいた。
エリンギルも、リリアーデも、幸せな気分になりつつある。
「ギル様、わたくし、ギル様のお側に居られて幸せでございます」
「俺もだリリ。…おっと公式の場では私と言わないとな」
軽口を叩きながら、王族の席ではしゃぐ二人を見て、着飾ったエリーナ姫は苛々した目でそれを見ていた。
エリード王子は、怒りよりも落胆が大きいのかため息ばかりを吐いている。
「最後の別れすら出来ないのか……別れたくもないけれど、あの忌々しい番が死ねばいいのに」
「ちょっと!人の番に何て事を言うのよ。死ねばいいのはあんたの番の方よ」
醜い争いを繰り広げていると、いつの間にか会場が水を打ったように静かになっていた。
全ての人間の視線が、王族席から遠い、階段の上に注がれている。
「ゴドウィン帝国、皇太子リーヴェルト様、皇太子妃エデュラ様、ご入場です」
高らかに管楽器が鳴り響き、二人が階段から降りてくる。
それはこの国では滅多に生まれる事のない漆黒の髪に黄金の眼をした美丈夫と、水の竜の加護を大きく受けるという青い髪に黄金の瞳の美少女だった。
「うそでしょ……」
語彙を失くしたエリーナは、痛いほどエリード王子の腕に爪を食い込ませながら言った。
二人を知る学園の卒業生も、貴族たちも、あまりの神々しさと美しさに息を呑んだまま固まっている。
その間も二人は、王族との挨拶の為に、階段上からまっすぐ敷かれている赤い絨毯の上を、仲睦まじそうに時々お互いを見つめ微笑み合いながら歩いてくる。
「……そんな、……エデュラが番、だなんて」
呆然としたエリンギルの言葉に、隣に座しているリリアーデも涙を流している。
エリーナは自分の窮状も忘れて、ざまあみろ、と思ったが、様子がおかしい。
エリンギルの心を奪われた悲しみの涙、ではなく。
リリアーデの視線が注がれているのはリーヴェルトへと、流しているのは歓喜の涙だ。
「ああ……私の番さま……何てお美しいの……」
エリーナはそれを聞きながら、リーヴェルトを見る。
確かに美しい男だ。
何より素晴らしいのは黄金の瞳。
その目で見つめられて落ちない竜人族の女はいないだろう。
「そうだわ……わたくしを正妃にして頂けばいいのだわ。そうすればラファエリにも会えるし、両国の友好関係にも繋がるもの……!」
エリーナは密かに呟いて、覚悟を決めていた。
国王の目の前に立った二人は、静かに最上級の礼を執る。
そんな二人に目を細めて、国王は優しく声をかけた。
「リーヴェルト皇太子、ご結婚とご卒業を祝福する」
「有難き幸せにございます、陛下」
だが、その穏やかなやり取りに、エリンギルがガタリと音を立てて席を立ちあがる。
「陛下。彼女は、エデュラは私の番です!結婚は許されません!」
「リーヴェルト様は、わたくしの番です!」
追従するように、リリアーデも席を立つ。
エデュラとリーヴェルトはきょとん、と顔を見合わせた。
静かにエデュラは微笑む。
「わたくしは、エリンギル殿下の番ではございません。殿下の番はお隣にいらっしゃるリリアーデ様でございましょう。わたくしは既にこの国を追放されて、帝国の臣民になっており、昨日リーヴェルト殿下とも婚姻を結んでおります。許す許さぬではなく、もう夫婦でございますので」
「殿下におかれては、卒業の祝宴で、似合いだとの言葉を賜った記憶がありますが?」
ぎゅっとエデュラの肩を抱き寄せて、リーヴェルトは不敵な笑みを浮かべる。
謁見の間で、全て国王から説明は受けていた。
婚約解消も、新しく結んだ婚約も、忘却薬を飲ませたのも、全てエリンギルが自ら行った事である。
エリンギルは一瞬、言葉を失った。
エリンギルも、リリアーデも、幸せな気分になりつつある。
「ギル様、わたくし、ギル様のお側に居られて幸せでございます」
「俺もだリリ。…おっと公式の場では私と言わないとな」
軽口を叩きながら、王族の席ではしゃぐ二人を見て、着飾ったエリーナ姫は苛々した目でそれを見ていた。
エリード王子は、怒りよりも落胆が大きいのかため息ばかりを吐いている。
「最後の別れすら出来ないのか……別れたくもないけれど、あの忌々しい番が死ねばいいのに」
「ちょっと!人の番に何て事を言うのよ。死ねばいいのはあんたの番の方よ」
醜い争いを繰り広げていると、いつの間にか会場が水を打ったように静かになっていた。
全ての人間の視線が、王族席から遠い、階段の上に注がれている。
「ゴドウィン帝国、皇太子リーヴェルト様、皇太子妃エデュラ様、ご入場です」
高らかに管楽器が鳴り響き、二人が階段から降りてくる。
それはこの国では滅多に生まれる事のない漆黒の髪に黄金の眼をした美丈夫と、水の竜の加護を大きく受けるという青い髪に黄金の瞳の美少女だった。
「うそでしょ……」
語彙を失くしたエリーナは、痛いほどエリード王子の腕に爪を食い込ませながら言った。
二人を知る学園の卒業生も、貴族たちも、あまりの神々しさと美しさに息を呑んだまま固まっている。
その間も二人は、王族との挨拶の為に、階段上からまっすぐ敷かれている赤い絨毯の上を、仲睦まじそうに時々お互いを見つめ微笑み合いながら歩いてくる。
「……そんな、……エデュラが番、だなんて」
呆然としたエリンギルの言葉に、隣に座しているリリアーデも涙を流している。
エリーナは自分の窮状も忘れて、ざまあみろ、と思ったが、様子がおかしい。
エリンギルの心を奪われた悲しみの涙、ではなく。
リリアーデの視線が注がれているのはリーヴェルトへと、流しているのは歓喜の涙だ。
「ああ……私の番さま……何てお美しいの……」
エリーナはそれを聞きながら、リーヴェルトを見る。
確かに美しい男だ。
何より素晴らしいのは黄金の瞳。
その目で見つめられて落ちない竜人族の女はいないだろう。
「そうだわ……わたくしを正妃にして頂けばいいのだわ。そうすればラファエリにも会えるし、両国の友好関係にも繋がるもの……!」
エリーナは密かに呟いて、覚悟を決めていた。
国王の目の前に立った二人は、静かに最上級の礼を執る。
そんな二人に目を細めて、国王は優しく声をかけた。
「リーヴェルト皇太子、ご結婚とご卒業を祝福する」
「有難き幸せにございます、陛下」
だが、その穏やかなやり取りに、エリンギルがガタリと音を立てて席を立ちあがる。
「陛下。彼女は、エデュラは私の番です!結婚は許されません!」
「リーヴェルト様は、わたくしの番です!」
追従するように、リリアーデも席を立つ。
エデュラとリーヴェルトはきょとん、と顔を見合わせた。
静かにエデュラは微笑む。
「わたくしは、エリンギル殿下の番ではございません。殿下の番はお隣にいらっしゃるリリアーデ様でございましょう。わたくしは既にこの国を追放されて、帝国の臣民になっており、昨日リーヴェルト殿下とも婚姻を結んでおります。許す許さぬではなく、もう夫婦でございますので」
「殿下におかれては、卒業の祝宴で、似合いだとの言葉を賜った記憶がありますが?」
ぎゅっとエデュラの肩を抱き寄せて、リーヴェルトは不敵な笑みを浮かべる。
謁見の間で、全て国王から説明は受けていた。
婚約解消も、新しく結んだ婚約も、忘却薬を飲ませたのも、全てエリンギルが自ら行った事である。
エリンギルは一瞬、言葉を失った。
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