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14ー祝福された婚姻
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エデュラの目から溢れる涙を拭いながら、困ったようにリーヴェルトは言う。
「さあ、泣き止んでおくれ、花嫁さん」
「まるで花嫁衣裳のようだと思っていたけれど、まさかこの為に……?」
「そうだよ。婚約なんて必要ない。盛大な式は帝国で挙げよう。だから、親しい家族と友人達で教会で誓うんだ。今、すぐに」
抱きしめられて、驚きに涙をひっこめた私の化粧を朝、涙ながらに見送ってくれた小間使い達が直していく。
その眼には朝とは違う意味での涙が浮かんでいた。
髪にはベールや花が飾られて、馬車で大聖堂に向かう。
そこには思ったよりも多くの友人達が詰めかけていた。
卒業の祝宴はどうしたのだろうか?と気にかかるくらい人が多く賑わっている。
妹のエリシャやエリシャの友人達まで居て。
フィーレンやラファエリも参列している。
「お姉様、お幸せに」
「エデュラ、良かったわね」
母と妹に抱擁を受けて、エデュラは涙を堪えるのに必死だった。
腕を差し出した父の目にも涙が浮かんでいる。
その腕に手を絡ませて、祭壇の前で振り返って待つリーヴェルトの元へ一歩一歩足を踏みしめて歩んでいく。
番には愛されなくても、友人達には支えてもらった。
家族にも恵まれていた。
そして何よりも、夫となる人が、諦めないで居てくれたのだ。
結婚の誓いを終えて、晴れて二人は夫婦となったのである。
そして、式を終えて向かったのは、海辺の小さな屋敷だった。
馬車から降りたリーヴェルトに抱き上げられて、玄関を潜り抜けると正面に大きな窓があり、海の景色が目に一杯広がる。
「まあ……何て美しい眺めなのでしょう」
「ここは、ルオター公爵に譲って貰ったんだよ。フィーレン嬢とラファエリ、二人で新婚時代を過ごす予定だった家を乗っ取ってしまったんだ」
「……そ、それは……お二人には悪い事を……」
あわあわと慌てるエデュラに、リーヴェルトは悪戯っぽく片眼を瞑って見せる。
「そうでもないさ。彼らも明日私達と共に帝国へ旅出つ。帝国では私が家を準備する予定だし、ラファエリは近衛に、フィーレンは君の側近に取り立てると約束している」
「手回しの良い事ですけれど……」
いつの間に、という言葉をエデュラは呑み込んだ。
悩んでいる間にも時間は過ぎていたけれど、フィーレン達の事件は半年も前である。
優秀なリーヴェルトなら造作もない事だったかもしれない。
「あ……そういえば、王子は婚約解消の書面に署名してくださったのかしら……?」
「それなら抜かりないよ。私達が出て行った後に、きちんと署名入りの書類を提出したのを見届けさせたからね」
「そんな事を、誰が……」
王子から難なく署名を受けた書類を頂き、提出できる人は限られている。
「ポワトゥ伯爵だ」
「リリアーデ様の……」
王家の外戚を狙っているのならば、それは乗り気で行った事だろう。
リリアーデを愛する王子にとって、義父となる伯爵は重要な人物でもある。
「そして、君と私の婚姻は王命だ。本日を以て君は帝国の臣民となったからね。私と離婚するには王の裁可も必要になる」
「ふふ……そんな日は参りませんことよ」
リーヴェルトの皮肉は、重要視されていなかったエデュラとエリンギルの番としての婚姻が王命では無かった事も指しているのだろう。
だから、簡単に事が進んだのだ。
もし違うとしても、彼ならばやり遂げただろう、とエデュラは安心して身を預けた。
「本当は急ぎたくないのだが、私は君と結ばれたい」
ぎゅっと抱きしめられて告げられた言葉に、エデュラは一瞬何を言われているのかとリーヴェルトを見上げた。
そして、熱の籠った視線とぶつかる。
その意味するところが分かって、戸惑いはしたもののエデュラに拒否感は無い。
エデュラはこくり、と頷いた。
「仰せのままに……」
それだけが、漸く唇をついて出た言葉だった。
「さあ、泣き止んでおくれ、花嫁さん」
「まるで花嫁衣裳のようだと思っていたけれど、まさかこの為に……?」
「そうだよ。婚約なんて必要ない。盛大な式は帝国で挙げよう。だから、親しい家族と友人達で教会で誓うんだ。今、すぐに」
抱きしめられて、驚きに涙をひっこめた私の化粧を朝、涙ながらに見送ってくれた小間使い達が直していく。
その眼には朝とは違う意味での涙が浮かんでいた。
髪にはベールや花が飾られて、馬車で大聖堂に向かう。
そこには思ったよりも多くの友人達が詰めかけていた。
卒業の祝宴はどうしたのだろうか?と気にかかるくらい人が多く賑わっている。
妹のエリシャやエリシャの友人達まで居て。
フィーレンやラファエリも参列している。
「お姉様、お幸せに」
「エデュラ、良かったわね」
母と妹に抱擁を受けて、エデュラは涙を堪えるのに必死だった。
腕を差し出した父の目にも涙が浮かんでいる。
その腕に手を絡ませて、祭壇の前で振り返って待つリーヴェルトの元へ一歩一歩足を踏みしめて歩んでいく。
番には愛されなくても、友人達には支えてもらった。
家族にも恵まれていた。
そして何よりも、夫となる人が、諦めないで居てくれたのだ。
結婚の誓いを終えて、晴れて二人は夫婦となったのである。
そして、式を終えて向かったのは、海辺の小さな屋敷だった。
馬車から降りたリーヴェルトに抱き上げられて、玄関を潜り抜けると正面に大きな窓があり、海の景色が目に一杯広がる。
「まあ……何て美しい眺めなのでしょう」
「ここは、ルオター公爵に譲って貰ったんだよ。フィーレン嬢とラファエリ、二人で新婚時代を過ごす予定だった家を乗っ取ってしまったんだ」
「……そ、それは……お二人には悪い事を……」
あわあわと慌てるエデュラに、リーヴェルトは悪戯っぽく片眼を瞑って見せる。
「そうでもないさ。彼らも明日私達と共に帝国へ旅出つ。帝国では私が家を準備する予定だし、ラファエリは近衛に、フィーレンは君の側近に取り立てると約束している」
「手回しの良い事ですけれど……」
いつの間に、という言葉をエデュラは呑み込んだ。
悩んでいる間にも時間は過ぎていたけれど、フィーレン達の事件は半年も前である。
優秀なリーヴェルトなら造作もない事だったかもしれない。
「あ……そういえば、王子は婚約解消の書面に署名してくださったのかしら……?」
「それなら抜かりないよ。私達が出て行った後に、きちんと署名入りの書類を提出したのを見届けさせたからね」
「そんな事を、誰が……」
王子から難なく署名を受けた書類を頂き、提出できる人は限られている。
「ポワトゥ伯爵だ」
「リリアーデ様の……」
王家の外戚を狙っているのならば、それは乗り気で行った事だろう。
リリアーデを愛する王子にとって、義父となる伯爵は重要な人物でもある。
「そして、君と私の婚姻は王命だ。本日を以て君は帝国の臣民となったからね。私と離婚するには王の裁可も必要になる」
「ふふ……そんな日は参りませんことよ」
リーヴェルトの皮肉は、重要視されていなかったエデュラとエリンギルの番としての婚姻が王命では無かった事も指しているのだろう。
だから、簡単に事が進んだのだ。
もし違うとしても、彼ならばやり遂げただろう、とエデュラは安心して身を預けた。
「本当は急ぎたくないのだが、私は君と結ばれたい」
ぎゅっと抱きしめられて告げられた言葉に、エデュラは一瞬何を言われているのかとリーヴェルトを見上げた。
そして、熱の籠った視線とぶつかる。
その意味するところが分かって、戸惑いはしたもののエデュラに拒否感は無い。
エデュラはこくり、と頷いた。
「仰せのままに……」
それだけが、漸く唇をついて出た言葉だった。
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