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11ー救済、若しくは天罰
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エデュラは数日後、ルオター公爵家のフィーレンの私室に通されていた。
まだ顔色が優れないフィーレンの傍らに、寄り添うように婚約者のラファエリが付き添っている。
「お手紙は拝見して、火にくべました。エデュラ様のお言葉を信じても宜しゅうございますか?」
ふるふると震えながら、淡い金の髪をさらりと揺らして、フィーレンが僅かに首を傾げる。
エデュラは、静かに頷いた。
「わたくしの手紙に記したように、もしも逃れたいのであれば手助けを致します」
「私は番など愛しておりません。愛するのはただ一人、フィーレン嬢のみです。でも、あの悍ましい感情が理性を奪うかと思うと、心中するしか逃れる道はないのかと絶望しておりました」
ラファエリの言葉に、フィーレンも涙を零す。
ぽろぽろと青い瞳から零れるそれは、まるで真珠のように美しかった。
「ああ、でも。二人で生きていけるのなら、何でも致します……」
ラファエリの手を両手で掴みながら、声を震わせるフィーレンの前に、エデュラは二つの小瓶を取り出した。
それは、ランベルトが手に入れてくれたお守りだ。
「これをお飲みください。友人が手に入れてくれた薬です。効果は手紙に書いた通り……でも条件があります。難しくないお願いだと思いますが……」
エデュラがそう切り出すと、フィーレンが力強く頷いた。
「二言はございません。ラフィの命以外なら全て差し出せます」
「そんな、貴女がいなくては私も生きていけません」
お互いを思いあう二人の姿に、エデュラの胸がツキリと痛んだ。
羨ましくもあり、切なくもある。
彼らはいつか誰かと話していたように、お互いを思いあう理由があり、一緒に過ごしてきた時間があるのだ。
だから、番への愛に流されずに抗っている。
「これから半年後、わたくしは死を賜るか追放されるか、ともかく何かしらの結果が出ますでしょう。お二人がこの国を出るのなら、同時かその後にして頂きたいのでございます」
「……それだけ、ですか?」
拍子抜けしたようにぽかん、とフィーレンは大きな瞳を見開いた。
可愛らしい人形のような頬に、ほんの少し赤みが差す。
「ええ。でもその間王子も姫もあなた方に会おうとする事でございましょう。数回に一度応じて頂ければ問題ないとは思いますが、決してお二人はお互いに離れないようにして下さいませ」
フィーレンとラファエリはお互いを見つめ合って、こくりと頷き合った。
それを見て、エデュラは其々の手に小瓶を渡す。
「……飲みましょう、お嬢様」
「ええ、ラフィ」
二人は躊躇なく、その薬を飲み下した。
毒だとしたらどうするのか、とも思ったけれど、この二人はそれでも構わないのだ。
共に生きれないなら、共に死ぬと心に決めている。
「ああ、何て事でしょう……ああ、ああ……エデュラ様、有難う存じます」
何か変化があったのだろう。
フィーレンはひし、とエデュラに抱き着いた。
小さく華奢な体を抱き止めながら、エデュラはその背をゆっくりと撫でる。
ラファエリも驚いたように、口に手を当てていた。
「これはまさに……頭の中でガンガン鳴っていた煩い音が消えたようです。……ああ、良かった」
二人の安心しきった微笑みに、エデュラも胸をほっと撫で下ろした。
ランベルトの事は信用していたけれど、薬は本物だったのだ。
この二人にはかけがえのない物だった。
「お薬の代金もお支払いしなくては……!」
気が付いたようにぱっと身体を離して、フィーレンが現実的な話をするのに、思わずエデュラは笑い声を漏らした。
きょとん、と不思議そうに見つめるフィーレンを見て、心の内を伝える。
「お元気になられたようで嬉しゅうございます。実は友人はわたくしから金銭を受け取りたくないと申しておりまして、代金は分からずじまいなのです」
「まあ、相当に貴重なお薬でしょうに……では、そのご友人を紹介頂けまして?どうしても直接お礼を申し上げたいのです」
その気持ちは痛いほど分かる。
何せ二人にとっては命の恩人なのだから。
こくり、とエデュラは頷いた。
「友人に使い道を話さなくてはいけませんので、その折にでも確認してみます。それから暫くは、姫と王子の番だという主張に「勘違いでは?」とお返事されるのが宜しいかと存じます。矛先がわたくしに向くでしょう」
「いえ、そこまでして頂く訳には……」
困ったようにフィーレンはラファエリを見つめ、ラファエリも強く頷く。
でも、エデュラはゆるく首を振った。
「倒れられたばかりなのですから、今しばらくご養生なさって下さいませ。わたくしの評判は地に落ちているのでこれ以上落ちようがございませんのよ」
笑顔のエデュラに、フィーレンは頬を膨らませる。
「いいえ、エデュラ様は素敵な女性です。わたくし達にとっては救世主ですもの。そんな噂は払拭してさしあげますわ」
「そう言って頂けるだけで、嬉しゅうございます。その分どうか、薬を提供してくれた友人のお力になって差し上げてくださいまし」
「ええ、ええ、それは勿論でございますわ。お約束致します」
これで少しは恩返し出来るだろうか?
エデュラは貴重な薬をエデュラの為に探してくれたランベルトの好意に感謝している。
男爵令息として、この国の公爵家と繋がりができることは、とても良い土産になるだろう。
まだ顔色が優れないフィーレンの傍らに、寄り添うように婚約者のラファエリが付き添っている。
「お手紙は拝見して、火にくべました。エデュラ様のお言葉を信じても宜しゅうございますか?」
ふるふると震えながら、淡い金の髪をさらりと揺らして、フィーレンが僅かに首を傾げる。
エデュラは、静かに頷いた。
「わたくしの手紙に記したように、もしも逃れたいのであれば手助けを致します」
「私は番など愛しておりません。愛するのはただ一人、フィーレン嬢のみです。でも、あの悍ましい感情が理性を奪うかと思うと、心中するしか逃れる道はないのかと絶望しておりました」
ラファエリの言葉に、フィーレンも涙を零す。
ぽろぽろと青い瞳から零れるそれは、まるで真珠のように美しかった。
「ああ、でも。二人で生きていけるのなら、何でも致します……」
ラファエリの手を両手で掴みながら、声を震わせるフィーレンの前に、エデュラは二つの小瓶を取り出した。
それは、ランベルトが手に入れてくれたお守りだ。
「これをお飲みください。友人が手に入れてくれた薬です。効果は手紙に書いた通り……でも条件があります。難しくないお願いだと思いますが……」
エデュラがそう切り出すと、フィーレンが力強く頷いた。
「二言はございません。ラフィの命以外なら全て差し出せます」
「そんな、貴女がいなくては私も生きていけません」
お互いを思いあう二人の姿に、エデュラの胸がツキリと痛んだ。
羨ましくもあり、切なくもある。
彼らはいつか誰かと話していたように、お互いを思いあう理由があり、一緒に過ごしてきた時間があるのだ。
だから、番への愛に流されずに抗っている。
「これから半年後、わたくしは死を賜るか追放されるか、ともかく何かしらの結果が出ますでしょう。お二人がこの国を出るのなら、同時かその後にして頂きたいのでございます」
「……それだけ、ですか?」
拍子抜けしたようにぽかん、とフィーレンは大きな瞳を見開いた。
可愛らしい人形のような頬に、ほんの少し赤みが差す。
「ええ。でもその間王子も姫もあなた方に会おうとする事でございましょう。数回に一度応じて頂ければ問題ないとは思いますが、決してお二人はお互いに離れないようにして下さいませ」
フィーレンとラファエリはお互いを見つめ合って、こくりと頷き合った。
それを見て、エデュラは其々の手に小瓶を渡す。
「……飲みましょう、お嬢様」
「ええ、ラフィ」
二人は躊躇なく、その薬を飲み下した。
毒だとしたらどうするのか、とも思ったけれど、この二人はそれでも構わないのだ。
共に生きれないなら、共に死ぬと心に決めている。
「ああ、何て事でしょう……ああ、ああ……エデュラ様、有難う存じます」
何か変化があったのだろう。
フィーレンはひし、とエデュラに抱き着いた。
小さく華奢な体を抱き止めながら、エデュラはその背をゆっくりと撫でる。
ラファエリも驚いたように、口に手を当てていた。
「これはまさに……頭の中でガンガン鳴っていた煩い音が消えたようです。……ああ、良かった」
二人の安心しきった微笑みに、エデュラも胸をほっと撫で下ろした。
ランベルトの事は信用していたけれど、薬は本物だったのだ。
この二人にはかけがえのない物だった。
「お薬の代金もお支払いしなくては……!」
気が付いたようにぱっと身体を離して、フィーレンが現実的な話をするのに、思わずエデュラは笑い声を漏らした。
きょとん、と不思議そうに見つめるフィーレンを見て、心の内を伝える。
「お元気になられたようで嬉しゅうございます。実は友人はわたくしから金銭を受け取りたくないと申しておりまして、代金は分からずじまいなのです」
「まあ、相当に貴重なお薬でしょうに……では、そのご友人を紹介頂けまして?どうしても直接お礼を申し上げたいのです」
その気持ちは痛いほど分かる。
何せ二人にとっては命の恩人なのだから。
こくり、とエデュラは頷いた。
「友人に使い道を話さなくてはいけませんので、その折にでも確認してみます。それから暫くは、姫と王子の番だという主張に「勘違いでは?」とお返事されるのが宜しいかと存じます。矛先がわたくしに向くでしょう」
「いえ、そこまでして頂く訳には……」
困ったようにフィーレンはラファエリを見つめ、ラファエリも強く頷く。
でも、エデュラはゆるく首を振った。
「倒れられたばかりなのですから、今しばらくご養生なさって下さいませ。わたくしの評判は地に落ちているのでこれ以上落ちようがございませんのよ」
笑顔のエデュラに、フィーレンは頬を膨らませる。
「いいえ、エデュラ様は素敵な女性です。わたくし達にとっては救世主ですもの。そんな噂は払拭してさしあげますわ」
「そう言って頂けるだけで、嬉しゅうございます。その分どうか、薬を提供してくれた友人のお力になって差し上げてくださいまし」
「ええ、ええ、それは勿論でございますわ。お約束致します」
これで少しは恩返し出来るだろうか?
エデュラは貴重な薬をエデュラの為に探してくれたランベルトの好意に感謝している。
男爵令息として、この国の公爵家と繋がりができることは、とても良い土産になるだろう。
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