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9-自分への理不尽は許しても
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「まあ、ご覧になって。地味な方が土に塗れて……お似合いですこと」
声を発したのはリリアーデの取り巻きの一人だ。
だが、リリアーデは笑顔を浮かべつつも窘めてみせる。
「まあ、そんな風に言うのは宜しくなくてよ。でもあのお二方は確かにお似合いですわね」
「リリはいい事を言う。「勘違い令嬢」に「成り損ない」か」
エリンギルの言葉に、どっと周囲の側近達も嗤う。
何をしに此処までやってきたのかは分からないが、スッとエデュラは立ち上がった。
「殿下、ご機嫌うるわしゅう」
「別に麗しくはないが、堅苦しい挨拶なら要らん」
淑女の礼を執ったエデュラに、エリンギルは片手をヒラヒラと振った。
もう片方の手は、傍らの運命の番、リリアーデの肩を抱いている。
二年も学園に居れば見慣れたものであった。
婚約しているとはいえ、運命の番と豪語する彼らにエデュラも周囲も苦言を呈することはない。
「挨拶だけではございません。わたくしの事を何と仰られ様とも構いませんが、他国からの留学生に対して目に余るお言葉です」
「王子なのだから男爵令息相手に何を言っても構わないでしょう」
王子の傍らにいる側近の一人が嘲るように言う。
愉しいと言わんばかりに、王子は口を歪めて笑んだ。
「この国の者であっても問題ですが、他国の方でございます。国と国の問題に発展しかねないことを軽々しくすべきではございません。しかも他者を貶めて嗤うなどと、王となるべき者がしていい言動ではないと愚考致します」
凛として背を伸ばして言うエデュラに、気圧される様に笑っていた令息は口を噤んだ。
リリアーデは縋りつく様に王子の腰に手を回す。
「そんな風にお小言を言うから、窮屈ですのよ。ね?」
「そうだな、リリ」
愛おし気に視線を絡めて、エリンギルはリリアーデの額に口づけを落とした。
エデュラが昔のように泣き出すのを見たいのだろうが、エデュラはため息を吐いただけだ。
本当は、泣き出したいくらいに心が痛くても。
ここで泣くわけにはいかない。
「リリアーデ嬢、将来王の隣にお立ちになる予定ならば、間違っていることを指摘出来ないと国の為にはなりません」
「国の為じゃなくて、私はエリンギル様の為に生きたいのです!」
「……リリは愛らしいな。それに比べて……」
可愛げのない女。
口にしなくても、エデュラにはきちんと伝わった。
でも、せめて王子の側を離れる前に最低限の役割は熟さなくては、と自身を奮い立たせる。
たとえ憎まれたとしても、番が愚王と罵られる姿は見たくない。
「では、国王陛下に奏上致します。何が正しいのか、それで判断なされませ。勿論、側近の方々のお名前と家門もお伝えいたします」
「やめろ、もういい。話は終わりだ」
引きつる側近と、青ざめたリリアーデの表情を見て、エリンギルは強引に話を切り上げた。
そして、入ってきた時と同じくドカドカと乱暴に温室を出て行く。
温室で作業していた人々は、めいめいに作業に戻り始めた。
同じく作業に戻ったエデュラの横で、小さくランベルトが呟く。
「何故、私を庇ったりなさったのです。貴女のお立場が無いではありませんか」
「元々わたくしに立場などありませんから。それに、貴方は成り損ないなどではございません。わたくしの大切な友人達と同じく、正しく判断出来る公正なお方です。それに、お優しい方」
ふわりと微笑んだエデュラに、ランベルトは眩し気に目を細めた。
柔らかな強さを纏った彼女は、昔から自分の為にはその強さを振るわない。
声を発したのはリリアーデの取り巻きの一人だ。
だが、リリアーデは笑顔を浮かべつつも窘めてみせる。
「まあ、そんな風に言うのは宜しくなくてよ。でもあのお二方は確かにお似合いですわね」
「リリはいい事を言う。「勘違い令嬢」に「成り損ない」か」
エリンギルの言葉に、どっと周囲の側近達も嗤う。
何をしに此処までやってきたのかは分からないが、スッとエデュラは立ち上がった。
「殿下、ご機嫌うるわしゅう」
「別に麗しくはないが、堅苦しい挨拶なら要らん」
淑女の礼を執ったエデュラに、エリンギルは片手をヒラヒラと振った。
もう片方の手は、傍らの運命の番、リリアーデの肩を抱いている。
二年も学園に居れば見慣れたものであった。
婚約しているとはいえ、運命の番と豪語する彼らにエデュラも周囲も苦言を呈することはない。
「挨拶だけではございません。わたくしの事を何と仰られ様とも構いませんが、他国からの留学生に対して目に余るお言葉です」
「王子なのだから男爵令息相手に何を言っても構わないでしょう」
王子の傍らにいる側近の一人が嘲るように言う。
愉しいと言わんばかりに、王子は口を歪めて笑んだ。
「この国の者であっても問題ですが、他国の方でございます。国と国の問題に発展しかねないことを軽々しくすべきではございません。しかも他者を貶めて嗤うなどと、王となるべき者がしていい言動ではないと愚考致します」
凛として背を伸ばして言うエデュラに、気圧される様に笑っていた令息は口を噤んだ。
リリアーデは縋りつく様に王子の腰に手を回す。
「そんな風にお小言を言うから、窮屈ですのよ。ね?」
「そうだな、リリ」
愛おし気に視線を絡めて、エリンギルはリリアーデの額に口づけを落とした。
エデュラが昔のように泣き出すのを見たいのだろうが、エデュラはため息を吐いただけだ。
本当は、泣き出したいくらいに心が痛くても。
ここで泣くわけにはいかない。
「リリアーデ嬢、将来王の隣にお立ちになる予定ならば、間違っていることを指摘出来ないと国の為にはなりません」
「国の為じゃなくて、私はエリンギル様の為に生きたいのです!」
「……リリは愛らしいな。それに比べて……」
可愛げのない女。
口にしなくても、エデュラにはきちんと伝わった。
でも、せめて王子の側を離れる前に最低限の役割は熟さなくては、と自身を奮い立たせる。
たとえ憎まれたとしても、番が愚王と罵られる姿は見たくない。
「では、国王陛下に奏上致します。何が正しいのか、それで判断なされませ。勿論、側近の方々のお名前と家門もお伝えいたします」
「やめろ、もういい。話は終わりだ」
引きつる側近と、青ざめたリリアーデの表情を見て、エリンギルは強引に話を切り上げた。
そして、入ってきた時と同じくドカドカと乱暴に温室を出て行く。
温室で作業していた人々は、めいめいに作業に戻り始めた。
同じく作業に戻ったエデュラの横で、小さくランベルトが呟く。
「何故、私を庇ったりなさったのです。貴女のお立場が無いではありませんか」
「元々わたくしに立場などありませんから。それに、貴方は成り損ないなどではございません。わたくしの大切な友人達と同じく、正しく判断出来る公正なお方です。それに、お優しい方」
ふわりと微笑んだエデュラに、ランベルトは眩し気に目を細めた。
柔らかな強さを纏った彼女は、昔から自分の為にはその強さを振るわない。
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