上 下
4 / 40

3-新たな出会い、そして理性と本能

しおりを挟む
エデュラはゴドウィン帝国でも、ふとした時に涙が自然と溢れてしまう状態にあった。
何とか堪える様に気を張っていれば別なのだが、気を抜くと悲しみに支配されてしまう。
そんな中で、帝国の皇子と話す機会に恵まれた。
彼はリーヴェルトという。
焦げ茶色の髪に、琥珀色の瞳の優し気な皇子だった。
次期皇帝としての教育を既に受けていて、勉学も剣の腕も優秀だという。
それでも穏やかそうな柔和な顔と、話し方はとても素敵だと子供心にエデュラは感じていた。

「私は番というものに興味があるんだ。君の話を是非聞かせて頂きたい」
「はい。わたくしで宜しければ喜んで」

エデュラはリーヴェルトに請われるまま、全ての心情を包み隠さず吐露する。
番がどんなに愛しいか。
番がどんなに幸福を与えるか。
そして、冷たくされるよりも、離れる方がとても悲しくて辛い、という事も。
けれど、話を聞く皇子の表情はどんどん曇っていった。

「どうか、なさいましたか?」

何か不手際があったのかと問いかけると、皇子は首を横に振る。
真摯な眼をエデュラに向け、困ったように眉を下げた。

「君達の愛の形を決して軽んじている訳ではないのだが、思っていたものと違うと感じる」
「……違う?」

エデュラの胸がズキリと痛む。
また、番とは違うと言われるのだろうか?と。
首を傾げながら慎重に言葉を選ぶ皇子の言葉は、けれどもエデュラの予想とは異なっていた。

「例えば、普通の人が誰かを好きになる時、そこには理由があるだろう?」
「……ええ、そうでございますね」

例えば友人、例えば家族。
ただその存在が好き、というのとは違う。
家族であれば、血縁者という大枠での愛はあるが、それと好悪はまた別だ。
エデュラは思い浮かべながらこっくりと頷いた。

「君は彼の何処に惹かれるの?」
「……全てでございます」

そうとしか言い様がなかった。
何、と表現すること自体が難しい。
番においては、その存在そのものが愛すべきものなのかもしれない。
皇子は更に辛辣な一言を付け加えた。

「君に対して無礼な振る舞いをする事も?」
「それは……いえ……」

あのゾッとするような冷酷な瞳を思い出してエデュラは即座に首を振る。
悲しくて、辛くて、切なくて、何故そんな目で私を見るのかと問いたくなるのだ。

でもきっと、彼には、エリンギル王子には答えなどない。
だって、番だと気づいていないのだから。
ただの地味な婚約者でしかない。
だから不満で、厭わしいのだ。
彼のその態度は愛する理由とは言えない。
言えないのだけれど、実際に目にすると愛で心が満たされるのだ。

「でも、お会いすると、どうしようもないほど好きで仕方がなくなるのです……」
「理性と本能か……」

皇子は難しい顔をして呟いた。
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

婚約者の番

毛蟹葵葉
恋愛
私の婚約者は、獅子の獣人だ。 大切にされる日々を過ごして、私はある日1番恐れていた事が起こってしまった。 「彼を譲ってくれない?」 とうとう彼の番が現れてしまった。

【完結】高嶺の花がいなくなった日。

恋愛
侯爵令嬢ルノア=ダリッジは誰もが認める高嶺の花。 清く、正しく、美しくーーそんな彼女がある日忽然と姿を消した。 婚約者である王太子、友人の子爵令嬢、教師や使用人たちは彼女の失踪を機に大きく人生が変わることとなった。 ※ざまぁ展開多め、後半に恋愛要素あり。

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。 王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。 それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。 貧しかった少女は番に愛されそして……え?

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。

大森 樹
恋愛
【短編】 公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。 「アメリア様、ご無事ですか!」 真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。 助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。 穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで…… あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。 ★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

処理中です...